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第二十五夜 あなたを不特定多数の中で辱めたい 門倉医師の治療 五回目
しおりを挟む都心をグルグル回る環状線。譲治はその車両の真ん中よりやや端に寄ったドアの袖に一人で凭れていた。その目は窓外の風景ではなく、同じ車両の端に立ち吊革につかまっている妻に、紗和に向けられていた。紗和はいつも翻訳事務所に通勤するときの服装、つまり落ち着いたグレーの、膝上のスカートのスーツで窓の外を見ていた。スカートの下には黒いストッキングを着け、ノーマルなヒールの靴を履いていた。
ふいに妻が譲治を顧みて一つ、頷いた。
譲治もウンと、首を振った。
ズボンのポケットに手を入れ、そこにある二つの、小さなマッチ箱ほどのプラスチックの物体に触れた。
譲治は妻の様子を見守った。物体に付いている小さな突起を押した。すると妻はセミロングの髪をわずかに俯かせ、スカートの下の膝が揺れた。だが、電車の揺れに少しだけ体勢を崩したようにしか見えなかった。それでさらにもう一つの小さな箱のスイッチも押した。今度はグッと下を向いた。心なしか、肩が震えているようにも見えたが、目の前の座席に座っている老人の注意を引くほどではなかった。
家を出る前、紗和は自らの股間とアナルにあのオモチャを仕込んだことを譲治は知っていた。しかも、
「長時間になると思うから」
そう言って、紗和は薬局で購入して来た浣腸を差し出し、ショーツを脱いで四つん這いになり、譲治にそれを注入させたのだった。しかも、三個も。
「お願い。わたしを浣腸して。け、ケツの穴に、これを、いっぱい注いで・・・」
美しい妻の口から「オ●ンコ」とか「ケツの穴」などという極めて下品な言葉が飛び出し、戦慄した。
「今度、二人の男の人から犯してもらうのに、ケツの穴をちゃんと、広げて鍛えておけって、言われたの」
その上、極限まで我慢をするのに付き合わせた。トイレに誘い、便器に腰かけた紗和は脂汗を浮かべた苦悶の表情(かお)を譲治に向け、
「あなた、お願い。キスして・・・」
と言った。譲治の頬を挟みながら、舌を貪り唇を食み合うようなディープなキスをしながら、悶えながら、便意を我慢する苦痛に耐えている妻。かつて峰岸にもされたというアナルのプレイを含んだ、三人での性交。その準備のためだと言って。そのあまりにも淫靡すぎる情景に、気を失いそうなほどの屈辱と快感を覚えた。
もし今、大地震が起こって電車が脱線したら・・・。そんな想像をしてしまった。ケガを負った紗和が医療関係者に卑猥な性愛の道具を装着していることが露見する。傷を負ってなお変態の誹りを受けたらどうするのか。そこまで行かなくても、紗和が快感に負け、倒れて気を失ってしまったら。夫として妻の尊厳を守ることができるのか。
しかしそんなことはもうすでに織り込み済みなのだ。もしバレたらどうしよう・・・。これはそんなスリルを包含したプレイでもあるのだから。
そのような恥辱を曝し、リスクを覚悟してまで、吊革に掴まって快感を耐える妻の、妖しくも切なくも健気な風情に激しく反応し、股間をいきり立たせていた。もちろん、紗和は悦んでいるのだろう。それが結婚する前の彼女の元々の性癖で、今までずっと隠し通して来たものなのだから。今、それを夫である譲治の前で解放でき満喫できる悦びに震えているのだろう。そしてそれが夫のためになる。紗和はそう信じているからこそ、自分のためにここまでのことをしてくれているのだ。
「先生の命令だから」
そう言葉にするのが譲治を興奮させることを承知の上で、それを期待して、自らを生贄に捧げているのだ。
オモチャを仕込んだ後、これも長時間オモチャを固定するためにと用意した、黒革のTバックショーツ型をした拘束具のベルトを締めあげるのを手伝いながら、譲治は妻への愛しさを新たにして、このプレイに臨み、妻に随伴していた。
環状線の西にある、日本最大の駅。そして東にある、東北への玄関口の駅。二つの駅から北に行けば客はまばらになり、南に行けば混雑が増す。電車は南に向かっていた。
土曜日。次第に混雑の度を増してゆく車内。紗和の姿が人の波に呑まれ見えなくなっていった。譲治は位置を変え、紗和が望む方のドアの脇に立った。そこからなら、俯く妻の横顔がよく見えた。紗和は長いベンチ一個分の向こう側に立って、しきりに立つ位置をずらしたり腰を動かしたりしていた。そして唇を微かに震わせながら、しっかり歯を食いしばっているのが頬の筋肉の動きで見て取れた。衆人環視の中で淫靡なオモチャを秘所と汚い排泄機関に呑み被虐の悦びに打ち震える様を夫である譲治に魅せている愛しい妻。そのまま快感に溺れたいのに溺れない。紗和のその儚(はかな)げでさえある風情は、健気(けなげ)すぎるヒロイックな艶麗を纏っていた。
昨夜、この屋外のプレイをねだった紗和が訊いてきた。
「あん・・・。あなたは、不安にならないの?」
ベッドの上で四つん這いになり高く掲げた尻を譲治に舐められながら、モノローグのように、呪文のように、聴かせるともなく呟いた。
「これ以上、ん・・・先生の施術を、受け続けると、ん、先生のモノを、受け入れ続けると、戻れなくなってしまうかも。わたしが、施術以外の時も、先生に抱かれ、悦ばせてもらうことを、願うようになってしまうかも。・・・あなたの許へ、戻れなくなってしまうんじゃないか、・・・て。不安に、ん、ならないの?」
蠱惑の目が譲治を見ていた。
譲治の胸は押し潰されそうな重圧に耐えていたが、男根はすでに痛いほど昂ぶり勃起しきっていた。
「それでも、あなたはいいんですか。それでもわたしを、先生のもとに、通わせますか。
この夜伽ばなしの続きを、ききたいですか?・・・」
紗和が大きく息を荒げ、昂奮しきっているのを感じた。淫裂は譲治のクンニリングスで赤く淫らに爛れしどどに濡れそぼって譲治を求めていた。強引に妻の身体をひっくり返し、脚をこれでもかと広げ足首をグッと掴んだ。
「・・・来て、あなた・・・」
強引に、押し込んだ。
「んんっ・・・這入って、来るぅ・・・。んあっ、奥、そん、ああっ! あなた、あな、んんんっ!・・・ああっ! あ、もう、もうっ! ああっ!」
紗和が手を差し伸べてきて思わず抱き締め、唇を吸い、舌を絡め合った。強烈な締め付けを感じ紗和の身体が海老反り、何度も痙攣した後に弛緩するのを感じた。紗和は絶頂した。夫を嫉妬させ、その気にさせた。でも、その後の抱擁の中で、やはり見つけてしまった。紗和の瞳の奥の蠱惑の陰にある淡い灯りに。
譲治は紗和の中に埒をあけることなく、萎れた。
譲治は上気しきった妻の柔肌を掻き抱きながら、むせび泣いた。
もう、我慢が出来なかった。電車の中に充満するマスクだらけの他人をかいくぐって妻にたどりつき、その細い腰を抱いて丁度ついた駅で降り、併設されたショッピングモールを抜け、地下駐車場に行く途中の階段下の物陰に誘い、抱きしめ、唇を奪った。
「紗和・・・。紗和・・・。愛してる。愛してるんだ、紗和。誰にも渡したくない。きみを愛している」
「あなた・・・。あなた・・・」
譲治は紗和の瞳にあふれる涙を、そっと吸った。
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