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36 ユウヤ

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 新学期が始まった。

 初日の実力テストは何とか乗り切ったが、次の日になり、歩き回ることが多くなると、もうダメだった。

「慣れるまでタイヘンだからね。ビンカンなコは感じ過ぎてメロメロになっちゃうかも」

 スミレさんからあらかじめ警告されてはいた。が、これほどとは思わなかった。

 スミレさんのは彼女とセックスした折に十分に観察していた。左右のラヴィアのそれぞれの阜の中頃にシンメトリーにリングがある。

「前はね、プレイの後、ここに小さな南京錠をつけてもらってたの。まるで小さな貞操帯みたいに。それが凄く、感じた。わたしはサキさんだけのモノ、奴隷なんだって・・・」

 レナのは、少し違う。

 左の阜はスミレさんと同じだが、右の、オナニーのし過ぎで左より広がった阜の中央ではなく、上の、クリトリスフードにかかる感じ。そのお陰でただでさえ吸引のせいで大きくなったクリトリスが常時このピアスで刺激され、もう、レナのクリトリスはフードの下に隠れることは出来なくなってしまった。

 直前までサキさんは、

「まだ身体が回復しきっていないんだからもうちょっと待て」

 なんて言ってたくせに、いざ、ニードルで穴を開ける時、

「この方がいい。感じ方、違うよ」

 という、サキさんの指示でこうされてしまった。

「くそっ。・・・サキさんのせいで・・・。たまんないよ」

 歩くときはもちろん、脚を組んだり、しゃがんだりするたびに、ピアスがクリトリスを起こし、擦り、転がす。眠っている時以外、いつもそこを、クリトリスを意識しなければならなくなっていた。乳首のダンベル型のピアスと共に、四六時中レナを刺激し、官能させた。

 ユーヤを呼ぶ回数も増えた。そのせいで、彼はサッカー部を退部した。

「先輩。ピアス、めっちゃ、エロいっㇲ」

 古都の一件の後、エステで永久脱毛したレナのツルツルの股間を、ギラギラした目をさせて夢中で舐めるユーヤを見ていると、可愛くなってしまう。

「お前、バカなヤツだな」

 思わず口に出てしまう。

 レナのオ●ンコを舐めるのと引き換えに、サッカー部のエースとして栄光の舞台で活躍する素晴らしい青春時代を犠牲にしているのだから。それは百パーセント、レナのせいだ。

 家にユーヤを連れ込むことも増えた。

 二人とも帰宅部になってしまったので、ヨウジの帰る八時ごろまでは十分に時間がある。最後の家族のピース。その根城であるこのマンションだけは、そうした場にしたくないと思っていた。だが、いつしかそれが崩れ、ユーヤを部屋に連れ込むなりズボンを脱がし、床に仰向けにして、片足の足指を舐めさせながら、もう片方の脚でペニスを踏みつけ、小股で扱き、ユーヤを悦ばせていた。

 ヨウジが帰って来ると、あらかじめMP4に録音していた音声をスピーカーから流す。英語の教科書や国語のそれをレナかユーヤが朗読し、発音や漢字の読み間違いを途中でレナが訂正するといった凝りようで、それを流しながら、隣の部屋にヨウジがいるのを知りながら、むしろ、そのシチュエーションに昂奮しながら、平気で性器を舐めさせ、舐め、セックスを楽しんだ。

 レナはもう、大切だったはずの弟まで、自分の快楽に利用していた。

 太いのを気にしていた太腿がさらに太くなったような気がする。腰の周りや、乳房も。ブラジャーのサイズをさらに大きくした。高校生には相応しくない、外国製の、カラフルでセクシーな高級ランジェリーを身に着けるようになり、ユーヤ曰く、

「先輩。なんか最近、めっちゃエロくなってないㇲか」

 その下着さえ、生理前になるとクリトリスが充血してくるのか、やたらに擦れて感じてきて困るようになり、万が一の時の生理用ショーツを鞄に忍ばせて、スカートの下には何も穿かずにいるようにもなってしまった。


 

 スカートのポケットの袋をハサミで切った。これで、授業中も股間を弄ることができる。教師が板書きする後方で、右手でシャープペンをくるくる回しながら、左手の人差し指と中指はとろとろに濡れたクリトリスとピアスの両方を捏ねて快感を貪る。

 何度か無言で絶頂した。隣の席の男子が怪訝そうにレナを顧みる。

「おい、ササキ。どうした」

「ん? ううん。大丈夫」

「なんだそこ! ササキ。何やってる」

 教師が目聡くレナを指すと、その度に、

「ハイ。ガンバってます」

 と答えた。オナニーを、だったが。


 

 ある日、授業中にどうしても辛抱が出来なくて、LINEでユーヤを呼び出した。

「三時間目、フケるよ。中央階段」

 教師に出会わないよう、三時間目始業のジングルが鳴り終わるのをトイレで待ち、校舎の中央階段を昇る。四階を過ぎ、さらに昇ると屋上と天文台に通じるドアが二つある。屋上へはガラスの引き戸。その横に、古い、表面のベニヤがはげかけた外開きの茶色いドアがある。

 ヨウジの部屋のドアを開ける時に開花した、レナのピッキング技術はここでも生かされた。ノブの中央に鍵穴のあるタイプ。すでに数度ここを利用していて、開錠してある。暗闇の中で、もうユーヤが待っていた。

「先輩。遅いㇲよ」

 レナが入学する前に天文部が廃部になり、それ以降、地学の学習用に年に数度しか使われなくなった。ドーム中央のスリットドアを錆びついたハンドルを音をたてないようにゆっくり回してスライドさせると光が差し込み、薄暗いながらも天文台内部は見渡せるようになった。

 ユーヤが座っていたであろう、回転式の古い肘掛け椅子に座る。足を組む。ユーヤは目の前に突き出されたレナのローファーを慣れた手つきで脱がし、紺のソックスの爪先に鼻をつけ、深呼吸する。

「先輩の、今日は、結構キツいㇲね、臭い・・・」

「ヘンタイ・・・。いいから。早く」

 ソックスを脱がし、足指に舌を這わせるユーヤ。

「・・・美味しい?」

「うまいㇲ。・・・サイコーっㇲ」

「もういいから。ジラさないで、早くして」

「せっかちっㇲね、先輩。・・・わお。ノーパンㇲか」

「だから、実況はいいから。早く!」

 脚を広げ、両のひじ掛けにかけ、股間を全開にしてユーヤの舌が脚を這い上がって来るのを待った。

「先輩。もう、オ●ンコ、匂ってますよ」

「それが好きなんでしょ。早く、舐めて」

「ヤラしいっㇲね、これ。ビラビラ、ひくひくしてますよ。ぬちょぬちょの、ねちょねちょっㇲよ。もう、垂れちゃってるし」

「う、うるさい、エロガキ! さっそと、舐めろ!」

 片足をユーヤの首に巻き付けて、引き寄せ、両手で頭をホールドした。

「ぬおっ! ぐ、はむぐっ!・・・」

 くちゃ、ぺちょ。

 舌がやっとヴァギナの奥から愛液を掻き出し始め、それを掬ってクリトリスの周りに塗り始めた。

「ああ、いいっ! やれば、できるじゃん。クッ・・・ああっ!」

「・・・ここ、前より感じるんㇲね」

「そこ、ダメッ! ピアスしてから、めっちゃ、ビンビン来るよォッ! ああっ!」

「これ、新たに開発したんㇲけど、試しちゃおかな」

「え? 何、・・・うああっ! し、シビレ、・・・あぅっ!」

「スゴイっしょ、先輩。二枚の唇プラス舌でバイブレーションっㇲ。たまらんでしょ」

「何これ、このエロガキ! いつの間に、ああっ!」

「じゃ、超高速バージョン、行きますね」

 ユーヤの頭が目も止まらぬ速さでイヤイヤをするように横にフラれる。唇と舌とが、代わるがわる高速でバイブレーションを、レナの肥大してピアスで敏感になったクリトリスを弄った。

 レナの、悪い癖だった。

 感極まると、両足をピンと突っ張り、ユーヤの頭を突き飛ばした。

 後にひっくり返ったユーヤがそこら辺のホワイトボードを倒し、物置と化していて立て掛けっぱなしになっていたガラスの嵌ったサッシを薙ぎ倒して大音響を立てたただけではない。レナの座っていた古い肘掛け椅子の台座が外れ、レナ自身も尻を丸出しにしたまま、もんどりうった。これも大きな音を立てた。

「どうした! 誰かいるのか!」

 レナが絶頂から我に還った時にはもう、すぐ下の四階で授業中の教師たちの階段を駆け上がる足音がドアのすぐ外まで来ていた。


 

 生徒たちの部活動が終わり、窓の外がとっぷり暮れても、まだレナ達は校長室のソファーに座らされていた。担任の教師を二人挟んだ向こうで、ユーヤは項垂れて小さくなっていた。

 そこで教師たちやユーヤの母親が発した言葉は断片や単語の羅列でしか覚えていない。不純異性交遊、いかがわしい、部活動をしない生徒、傾向、離婚、テニス部、片親、風紀、サッカー部、嘱望、不良、もったいない、被害者、加害者、他の生徒、退部、うちのゆーやちゃん・・・。

 うちのゆーやちゃん、か・・・。

 彼の母親からこの言葉が出る度に失笑した。その態度が、彼女の癪に障ったらしい。しかし、レナは一切反論しなかった。が、頭も下げなかった。一言も言わず、ソファーに深くどっかりとふんぞり返り、腕組みをして脚まで組んでいた。

 もちろん、教師たちからその態度はなんだ、などと注意はされた。しかし、怯まなかった。殴りたいなら、殴ればいい。そう、思っていた。これでは、事態が鎮静に向かうはずがなかった。

「親の顔が見てみたいわっ!」

 と母親は言った。

 父は四千キロ離れたところいます。若い女性と新しい家庭を築くのに忙しいのです。母は、十年も前から父以外の男性と恋仲になっており、今もどこかのラブホテルで汚いマンコに汚いチンコを抜き差ししているかも知れません。

 何度もそう言おうか、迷った。結局、言わなかった。

「ササキの叔母という方とは連絡が取れているのですが・・・」

 教頭がハゲ頭に汗を浮かせてテカらせながら呟いた。

 遠くから馴染んだ爆音が聞こえて来てすぐ近くで止まった。ついで静まり返った校舎の廊下をカッカッと確実な足取りで近づく靴音が聞こえ、窓口の引き戸が開き、ボソボソと話し声がし、靴音がカッカッとキュッキュッの二つになって校長室のドアがノックされた。

「あの、校長先生。佐々木麗奈さんの保護者さんという方が・・・」

 スミレさんは紺の秀麗なスーツに身を包み、黒縁の眼鏡をかけて、戸口に現れた。

「レナの叔母で、橘すみれと申します。この度はレナが大変なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした」

 CA養成の指導官も敵わないような、完璧な会釈で、まずはその場を圧倒した。

「わたくしこういうところに勤めております」

 スミレさんは法律事務所の名刺を取り出した。

 まずは全員とビジネスベースの名刺交換をした。といっても、スミレさんが一方的に名刺を渡しただけだったが。

 次に席を勧められ、一通り校長や教頭や生活指導の教師に喋りたいだけ喋らせた。そのあと、例の「うちのゆーやちゃん」が喋りはじめ、三人の教師の使用した時間以上に長広舌を振るったが、それも甘受して、耳を傾け続けた。ここまで、しめて一時間半が経過した。時刻は九時半を回っていた。

 レナはその間、ずっと腕組みしたままふんぞり返りを続けていた。

「皆様のお話は拝聴させていただきました」

 と、スミレさんは言った。

「さて、今後のことですが、彼女の両親は既に離婚し、当初母親が持っていた親権は先月父親に移行しておりますことを指摘させていただきます。これが離婚協議書の写しです。

 さらに父親から何分遠方にあるため、成人するまでの親権及び監護権の委任代行をわたくしの勤務する事務所を通じて依頼されております。これが委任状の原本と写しです。すなわち、なにか法的な手続きが生じる場合に置きましては、彼女と彼女の父親に代わり、わたくしと当弁護士事務所がこれを代行いたします」

 スミレさんは演技派だ。校長を正視し、左の指先をピッと伸ばし、黒縁眼鏡を正した。

「さしあたって、彼女の今後ですが、本日をもって貴校に対し退学の意志を表明いたします。必要な書類は今後本人ではなく当法律事務所にご送付ください。本人は明日以降貴校と一切の関りを持たないことを、後日書面にて誓約いたします。誓約に伴う罰則事項等の取り決めが必要な場合は、後日、当法律事務所へ提起いただきたく、お願いいたします。

 ここまでで今、先生方のおっしゃられた要件全て満足するものと考えますがいかがでしょうか」

 しん。

 静まり返った校長室は、もはやスミレさんの独壇場だった。

「さて、石田様。石田様に対しましても、同様でございます。これ以降、彼女に対する苦情、不服、要求等がございましたら、当法律事務所にて対応を代理させていただきます。もちろん、訴訟に至る場合も同様です。この者が本件の担当弁護士になります。この者不在の場合に置きましてもわたくし、もしくは当法律事務所のスタッフが対応させていただきますので・・・」

 スミレさんが発言を始めてから、正味十分。

 それで全てが終わった。

 スミレさんの「当法律事務所」という言葉は絶大な破壊力を持っていた。今まで、それほど篤い付き合いでもなかった担任や教師たちともこれで完全に縁切りだ。級友やバイバイ仲間とも。そう思うといささか感傷を覚えないでもなかった。

 校長室から解放され、暗い廊下に出る時、一度だけ、レナはユーヤと目を合わせた。

「ごめんね、ユーヤ」

 ユーヤは黙ってその言葉を受けとめ、再び顔を伏せ、未だ憤懣を抑えきれない様子の母親に伴われ、暗い廊下の奥に消えた。
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