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35 ピアス
しおりを挟む「お前の苦しみ抜いて死ぬ顔を見られるなら、僕の全財産をあげてもいいよ」
「でも、死んじゃったら、お金、使えないじゃん。バカみたい」
「そりゃ、そうだな」
二人とも。狂ってると思う。
普通の男は、愛している女に死ぬときの顔が見たいなどとは言わないし、女もそんな言葉を吐かれてまともに受け答えしたりはしない。
サキさんがこの国になにがしかのダメージを負わせるのを目的にした組織に属していることは判った。それでも、というより、だがそんなことは、レナに関係がない。この国がどうなろうと、レナの知ったことではない。愛する男が望んだことをした。ただそれだけだ。
「お前のお陰で半年も早く計画を達成することが出来た。僕の雇い主も満足している」
フェラチオしていた顔を上げ、レナは愛する男を見上げた。
「でも、サキさん、日本人なのにさ・・・」
どうしてこんな仕事に甘んじているのか。ちょっと前なら口にはしなかった疑問だが、修羅場を経てレナは一層大胆になっていた。立場とか後先とか、そういったものに無頓着になっていた。
「日本人だなんて、言ったことあるか」
「え?」
「僕は日本人じゃない。というより、日本と日本人を、憎んでいる」
サキさんは、ゆっくりと起き上がるとディスプレイを消した。レナの顎を摘まみ、口づけをした。二人して、見つめ合った。レナの手は依然、サキさんのモノをゆっくりと扱き続けている。
「でも、この仕事をしているのは、それが理由じゃない。理由になるのかも知れないが、少なくとも僕にとっては、違う」
サキさんの唇がレナの首筋を這う。耳たぶを甘噛みされ、吐息が漏れる。
「あんな奴が、・・・僕の身元をよく調べもせず信用し、五億どころか五百万すら自分で調達できない無能な男が、自分の私欲のために国の大切な情報を売り渡す、あんな最低な奴がのうのうと高級官僚としてのさばれる国。
自分たちの力で自分の国の憲法も作れない、その場の空気でしか物事を決められない。そんな国は軍隊など持つべきではないし、他国と同盟など結ぶべきではない。
そんな国は、未来永劫、他の国の属国、奴隷国でいたほうがいい。
いっそ、滅んでしまえばいい。比叡山のようにね」
指が、乳首を貫通して煌めくピアスをくすぐる。まだちょっと痛いが、気持ちいい。
「だけど僕は、その主義のために、この仕事をしているわけじゃない。日本人じゃない僕が言うのもおかしいが、ギリのようなものが、あるんだよ」
「ギリ?」
「今の雇い主にね。僕はギリのために、この十年、この国に縛り付けられてる」
そう言ってサキさんはレナを抱きしめた。
「好きだ。愛してる。レナ」
「・・・わたしもです。・・・サキさん」
サキさんの肉棒を扱きながら、レナはうなじにキスをした。
「やっぱり、して欲しい。一週間なんて、待てないよ」
「だって、言われたろう。ばい菌が入るから、ダメだって。大体、退院してすぐのピアッシングなんて、やっぱりするべきじゃなかった。それなのにワガママ言いやがって」
「だってしてもらいたかったんだもん。ねーえ。エッチしたいよ」
「しかたないな。とんでもないワガママ娘だ。そんなにお仕置きして欲しいのか」
「して。お仕置き、してください」
「濡れてるか」
好きな男に力一杯抱きしめられて濡れない女は女じゃない。レナは股間に指を忍ばせ、指をとろとろのそのヴァギナに潜らせ、サキさんに示した。
「こんなになっちゃってる・・・」
そのレナの濡れた指を、サキさんは、咥え、舐めた。
「おいで。ラヴィアにかかるといけないから、自分で開いて。ゆっくり腰を落としな」
尻えくぼをピクピクさせながらサキさんの膝の上に跨った。両足を踏ん張り、両手でピアスの通ったラヴィアを開き、ゆっくりと腰を下ろした。
「あうっ、こ、これ。この感じが、・・・欲しかったの」
とろとろに濡れそぼった入り口を大きな亀頭が押し広げる。
「あんなのじゃ、・・・全然、感じなかった。はあっ、やく、終わって欲しかったから、ぎゅうぎゅうに、絞めてやった。すぐに、イッたよ、あいつ。悦んでた、バカみたい」
「僕も、イキそうだ」
「え?」
「本当だよ。レナのが、良すぎる」
その一言で。またひとつ、快感のゲージが上がる。
「ズンズンしたい」
「やめとけ。化膿して、あとから苦労するぞ」
「それでもいい。ズンズンしたいぃん・・・」
「バカなヤツ・・・」
サキさんの両手が尻たぶを鷲掴みし、前後左右に揺すぶられる。
「うわあっ!・・・、す、スゴイーっ!」
奥に届いた亀頭がそこを押しつぶしながら、すりこ木のようにぐりぐり圧迫する感覚に身体中が痺れる。
「あ、締めるな。漏らしそうだ」
この自分が、あの、思うさま蹂躙され、その前にひれ伏すのを強制された、あの悪魔の樹木、悪魔の肉棒を屈服させている。
「も、もうダメだっ! レナ、抜いてくれ」
「やだ」
「冗談言うな。もう、我慢できない」
「中に出して」
両脚をサキさんの背中に絡めてロックし、両腕で首に抱きつき、耳元でささやいた。
「あんな奴に出させちゃったの。サキさんので、清めて。そうでないと・・・」
「も、もう、ダメだっ!」
「出して。わたしを、孕ませてェーっ」
サキさんは初めてレナの身体の中、その深奥に射精した。
サキさんの車で送ってもらった。
「レナの酒、まだ残ってる。立派に飲酒運転だな、こりゃ。捕まったら、責任とれよな」
仮にそうなっても、サキさんは、また別の免許証を使って何食わぬ顔でハンドルを握り続けるのをレナは知っていた。仮にそれで事故を起こそうとも、何人をひき殺そうとも、次の日になれば普通にその辺を歩けてしまう。
レナの男はそういう男だった。もう、完全に「サキの女」になっていた。そういう男の情婦であることに、酔っていたし、酔いがまだ続いていた。
ずっと覚めなければいいのに。と、レナは思う。
「前に言ったな。こんどスミレと一緒にプレイしようって。スミレにとってはスレイヴ最後のプレイだ。あいつの一番好きなやつをやる。お前もきっと気に入る」
新しい家の前に着いた。五階の灯りが、点いていた。
「そうだ。忘れものだ、レナ」
ドアを開けて足を出しかけたレナに、サキさんはそう、呼びかけた。後ろのシートから紙袋を取り出し、レナに突き出した。
紙袋の中には、薄汚れた白いポーチが入っていた。
「今朝、届いた。お前に渡すのを、忘れてた」
堪らない気持ちが、歩道に降り立ったレナを再び車に呼び、運転席の男の唇を貪らせた。
「サキさん」
「ん?」
「今日は、ありがとう。サキさんの精子、美味しかった」
サキさんはもう一度レナの唇をついばんだ。
「野中詩織と落合はもう、死んだ。明日からは違うお前だ。よくやった。お休み。ゆっくり眠れ」
レナは後ろ髪を引かれるようにして歩道に立った。
これ以上ないほど幸せな気持ちで新居のドアを開けた。
「ただいまー」
乱雑な玄関。脱ぎ散らかした服や道着の散乱する廊下。キッチンのテーブルには、コンビニ弁当やカップラーメンの容器が山となっていた。素足に何だかわからないべとべとしたものが付く。足の裏を見て、それが何かのタレであることを知り、レナは現実に戻った。
夏休みで、一日中柔道部の部活で汗をかいている高校生男子を一週間も放っておけば当然、こうなる。
レナは深く反省した。
ヨウジはリビングでTVゲームに集中していた。
部屋の悪臭が、耐えられるレベルを超えていた。すぐに窓を開け、換気をする。そこら中に散らばった服、下着、菓子パンの包装、ファストフードの容器、食べ残しで腐りかけた食物などなど。それらを次々に拾い上げ、ゴミ袋に詰め込む姉をよそに、黙々とゲームに没頭する弟。いつもなら罵声と共にデカイ図体を蹴り上げるくらいはする。なのに、何もしない姉に不信感を募らせているらしい。だから、あえて、何も言わなかった。
姉のその態度が、ますます弟を頑なにゲームの画面に張り付かせていた。
ようやく片付けが終わり、空気のPPM値も正常レベルに戻った頃、弟は口を開いた。
「一週間も旅行行ってさ、旅行バッグも持ってないなんて、おかしくね?」
さすが、実の弟。バカだが、こういう勘はスルドイ。などと感心している暇はない。
「ああ。大荷物だからね。最後のとこから、宅急便で送っちゃった」
「車なのに。送ってもらったんでしょ、彼に。あっついの、ブチューって、してたよね、さっき。上から見てたんだよね、オレ」
レナはゴミ袋を放り出した。スミレさんの見立ての深いブルーのミニワンピースの裾も気にせず、その場に胡坐をかいた。
「だから? だから、何なの」
「別に」
「見てたなら、手っ取り早いよね。アレが彼。一週間。リゾートホテルでセックスしまくってたの。あんたにお土産買うのも忘れちゃうほど。エッチ、しまくってたの。それで? それがどうしたの? そもそも、あんたにカンケーないし。そうじゃない? ねえ、文句あるなら、言いなよ」
ヨウジはなおも無言のままコントローラーを操作し続けている。
「この際だから、ケジメ、つけて来るわ。すぐ帰るかもしれないし、帰らないかも知れない。いずれにしても、トオルとはもう、別れるから。あんたにとばっちり行くかもしれないけど、我慢してね」
部屋を出て、ドアを閉めたらもう、後悔の念に襲われた。
自分を心配してくれている弟に、あんな言い方をする必要はまったくなかった。激烈な体験の後、サキさんとの甘い時間を堪能し過ぎて、レナの足はすっかり現実の地から浮き上がっていた。
最後に残った家族の欠片を一番大切にしていたはずなのに。それを失うことを何よりも恐れていたはずなのに。
歩く度に股間でクリトリスを刺激するピアスを、恨めしく思ってしまった。
トオルは帰宅していた。
気が、とても重い。勢いで来たことを、すでに後悔していた。ホテルを出て帰宅してから後悔ばかりだ。ドアの外で名前を言うと、ドアを開けてくれた。
「立ってないで、座れよ」
TVには、ハンディーカムで撮影した試合の映像が映っていた。夏休み明けの新人戦に備えて、ヨウジの部活の試合の研究をしているのだろう。学校の教師は指導ができないとよくヨウジがこぼしていた。トオルをはじめとするOBの存在が大きいのだと。
だが、レナは座らなかった。部屋の入り口に立ったままでいた。
「あのね、トオル。前に、見せたいものがあるって、言ったでしょ」
トオルの背中は無言の抗議を続けていた。
「見せたいものってね、コレなの」
スカートの裾を捲り上げて、ショーツを下ろした。トオルが怪訝な顔をしてゆっくりと振り返る。その顔が呆然自失に変わって行くのを、レナは目撃した。
「どう? キレイでしょ。
昨日、ご主人様にプレゼントしていただいたの。一週間のSMプレイざんまいの締めくくりに。ここの毛を剃ったのもご主人様の命令。トオルと付き合ったのもね、実は命令だったの。ご主人様の。そのほうが、プレイが盛り上がるから、って。
さっきまで、ご主人様に抱かれてたの。たくさん中で出してもらった。ほら見て。まだ、垂れてきてる。ご主人様の、精子・・・。サイテーでしょ。クソみたいな女でしょ、あたし。
だからもう、お別れしましょう。御免なさい。そして、今まで、ありがとう」
何故だか溢れてくる涙を堪え、服を直し、トオルの家を、逃げるように、出た。
家にも帰りたくなかった。フラフラと、駅裏のラブホテル街へ歩いていた。
「もしもし。ユーヤ? あたし。今から出て来れる? いいもの見せてあげる」
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