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20 プレゼント
しおりを挟む期末テストが終わった。
梅雨明けはまだ少し先だというが、レナの心は爽やかな達成感に満ちていた。学年順位で初めて九十番台に入ることが出来た。愛する男に会えない辛さを、来るべき次回の逢瀬への期待に変え、高校生らしく勉強に昇華した結果だ。
LINEで報告すると、サキさんは喜んでくれた。
(頑張ったな、レナ)
その一行が、嬉しかった。
レナの髪は少し、伸びた。
部活の邪魔だからと短めにまとめていたのをやめたのと、なんとなく、サキさんが長い髪の方が好きそうだったから。長い髪の女になりたかった。
レナはフェンス際に立ち、毛先をいじりながら、目の前で行われるゴール前のクロスの練習を見ていた。
もう諦めた夢とはいえ、サッカー部の練習はいつも気になって足が止まってしまう。レナには手の届かない、かつて抱いていた夢の世界。それが演じられる様に羨望の眼差しを向けていた。
あの一年生の、パスのセンスは抜群だ。
守備役の上級生たちを華麗なドリブルで躱し、一度はセンターにパスして難を避け、再び呼び寄せた後、ディフェンス役にクリアされる前のその瞬間に、相手の頭の上を高々飛び越す、放物線。飛び込んできたフォワードが自然に頭で合わせられる絶妙な位置に的確なパスを繰り出す才能。
あの子、必ずレギュラーになる。
そんな確信から、思わず拍手をするレナにそのMF候補生の視線が送られた。プレイが素晴らしかったから。レナにそれ以上の意図はない。見つめる瞳に、レナは軽く手を振った。
と、急に胸をむんずと掴まれて驚く。
「こら。何、年下にコナかけてる」
かつてのテニス部のバイバイ仲間だ。これから部活なのだろう。テニスウエア姿の同級生に、思うところがある。部活をやめてから、もうすぐひと月になる。
「別にぃ。あたし、小学校までやってたからさあ、サッカー。単純にいい動きしてるなあって。見てただけだよ」
同じ女子同士では、わたし、じゃなく、あたし、に戻る。女の世界は、微妙で敏感だ。時にそれが鬱陶しく思われる。だが、無用に敵を作るのも得策ではない。処世術としては、止むを得ない措置だった。
「それに、最近、匂うし」
彼女はクンクン鼻を鳴らしてレナの夏服の周りを嗅ぎまわった。
「ちょっと、やだあ。なに?」笑ってこの場を切り抜けようとする。
「男の匂いがする。正直に、吐け」
もう、そろそろ、いいだろう。とレナは判断した。
「・・・うん。実はね、少し前から、付き合ってる」
「やっぱりか・・・。誰? まさか、あの子」
バイバイ仲間がグラウンドの一角を指す。
「違うよォ。あのね、あんま、言わないでよ。ヨウジのね、先輩」
「どこの学校?」
「大学生。彼柔道やってるの」
「それで、毎晩、寝技かあ・・・。ちくしょー! 非モテ同盟を裏切りやがってぇ、コノ~」
「そんな同盟、知らないよォ。いつ作ったのォ」
寝技、はあえて否定しないでおく。もう、その必要は、ないだろう。
「道理であんた最近、色気出てきたわけだ。なんか、フンイ気、ビミョーに変わってるし・・・。おっぱい、出て来てるし」
「そうかなあ・・・」
確かに、ブラをDに変えていた。
ホルモンの影響なのか、どうなのかは知らない。サキさんにはなかなか会えていないが、生理の時以外はほぼ隔日でサイトーさんに抱かれている。そのせいなのかもしれない、とレナは思う。
「ああ、ダメだ。くそ~。悔し過ぎるゥ」
「柔道部でよければ、彼の友達、紹介しようか?」
「クサそうだから、やめとく」
「なにそれぇ、失礼なヤツ」
なんとか、無難に躱し、校門に向かう。背後から駆けて来るスパイクの音で振り返る。
「ササキ先輩、ですよね」
レナの苗字を口にしたのは、さっきレナが拍手を送った、一年生だった。
「・・・はい」
「オレ、イシダっていいます。時々、練習見に来てくれてますよね」
「ウン。あたし、小学生までやってたの。ヘタレで辞めちゃったけど。・・・でも、どうして、名前・・・」
「先輩に聞いたんです。気になってたんで・・・」
チームカラーのジャージの彼は、レナより少し、目線が高い。日本代表のスタープレーヤーをリスペクトしているのか、頭のてっぺんがツンツンとがった、好戦的な目をしている男の子。そんな風にレナには映った。
「オレ、こんどレギュラーになりました。試合見に来てください」
「そう、やっぱり。さっきの、パス、サイコーだったよ。頑張ってね」
そう言って立ち去ろうとしたレナの背中に、彼は呼びかけた。
「先輩!」
振り向いたレナに、彼はこう言った。
「先輩、今、付き合ってる人、いますか。いないなら、オレと付き合ってください」
こんなところで堂々と・・・。自信家なんだなあ。スポーツの得意なコにありがちなタイプだ。嫌いではないが、度を超すと、鬱陶しく感じる。
「・・・ごめんね」
軽く手を振って、レナはその場を去った。
そんなに目立つのかな。
校門前のバス停で巡回便に乗り込む。空いたシートを見つけて座り、改めて自分を顧みる。サキさんに出会ってから、自分の身体を意識するようになった。
バスルームで裸になる度に、身体の各部をチェックする癖がついた。
確かにカップはひとつ大きくなったが、巨乳というほどのボリュームには程遠いと思う。乳首も敏感にはなったが、大きさも、色も、目に見えて変わった気はしなかった。ちょっと太った気はする。
数値的には一キロ程度に過ぎなかったが、二の腕や、尻や、これ以上肉がついてほしくない太腿に、駄肉がついたような・・・。たぶん、部活を辞めたのと、食欲が増したせいだ。
恐らく、最も変化があったのは、クリトリスの大きさだろう。
「僕と会えなくて寂しいだろうから、プレゼントをやる」
サキさんからの久々のLINEに狂喜した。
プレイルームに行ってごらん。そう、書かれていただけだったが・・・。
カギは持っていたけれど一人で行ったことはなかった。会えないのに一人で行っても辛くなるだけのような気がしたからだ。
防音のドアを開けると、接着剤の匂いは幾分和らいでいた。例のSMショップで購入した品々は全て搬入されていた。あの、赤い拘束椅子もある。
そして、大きなキングサイズのベッドまでが置かれていた。シーツはなく、黒い、革のような、ゴムシートのようなものが、敷かれていた。
そこで行われる行為を想像して、少し、濡らしてしまう。
だが、プレゼントは、それではなかった。
テーブルの上に、白人女性の写真がプリントされた小箱と、CDケースが置いてある。
また、ビデオ学習ですか・・・。
放置されて自分の痴態を強制的に視聴させられた記憶で、また濡れた。
AVセットにDVDをセットしリモコンを置いて、箱のふたを開けた。
突然、大音量で女性の嬌声が飛び出した。慌ててボリュームを下げ、その、股間を全開にして悶える映像に見入った。
スミレさんだった。
まだ会ってはいない。だが、もう旧知のように、レナには印象されている。彼女は、今レナが手にしているピンク色の器具を股間に当てて、悶えていた。
箱の中身はクリトリスの吸引器だった。
(今度会う時まで、それを使って出来るだけ大きくしておくように。これは、命令だ)
映像にはご丁寧に、アップまであった。ピンク色の器具の頭の部分に突起があり、その先が丁度クリトリスを収めるように窪んでいる。スミレさんのピアスが施されたラビアが広げられると、濡れてキラキラ光る、勃起したお豆がそそり立っている。
大きい・・・。
もう相当な期間、吸引を繰り返して来たのだろう。その肥大したクリトリスが、スミレさんの歩く度にピアスで刺激されるのを想像して、もっと濡れた。
彼女の手が器具をクリトリスに当て、嵌める。指が背中のスイッチを押すと、ヴぃ~んと軽いモーター音が。そして、スミレさんの艶やかな喘ぎが、レナの聴覚を刺激する。
レナはショーツを脱いだ。
もどかし気に包装を破り、震える手で電池を入れ、股間に当てた。そこはもう、十分すぎるほど潤っている。テーブルの縁に片足を上げ、ラビアを開き、包皮を剥いて、その窪みを、そこに嵌るように、誘導する。まだ小さなものだから、それは窪みにラクに隠れる。スイッチを、押す。
「うわっ!」
刺激にビックリして取り落とす。器具は床の上で震えてくるくる回る。よかった。壊れてはいない。再び、強さを調節してトライする。
愛液で濡れているそれが、まるでクンニリングスされているように吸われ、振動する。
「ああ・・・」
たまらない・・・。
レナは、目を閉じた。
病みつきになりそうな快感が、レナの膝を震わせる。たまらず膝をつき、その快感を貪るのに集中してしまう。スピーカーからは、振動する器具に当たってタタタと細かく震えるピアスの音が響いてくる。吸引器を当てたまま、レナは膝でにじり寄る。
あの、レナを拘束し、毛のない異形の男に身体中を舐められ、失神させられた拘束台の傍まできた。その、尻を置いていたサドルの部分。大量の愛液が溜まり、流れ落ちて行った、その部分に顔を近づける。丁寧に清掃して梱包されたのだろうが、そこには、微かに、レナの女の匂いが、残っている。舌を差しだし、サドルのその部分を、舐めた。興奮が増す。
クリトリスを吸引されたまま、愛液の滴る、スミレさんの股間を舐めさせられる自分を想像してしまう。一気に昂まり、レナは、無言で、深く、絶頂した。尻が、乳首が、震え、わななく。
「やっぱり、変態だな、レナは」
サキさんの声が、聞こえてくるような気がした。
被虐のイメージが、吸われ、刺激されるクリトリスを少し大きくしたような気がする。そうして、もう一度、絶頂を味わうために、またレナは、舌を出した。
プレイルームを去り際、用を足しておこうとトイレに行くと、レナはさらに、驚かされた。
トイレはシャワールーム同様、ガラス張りに改造されてあったのだ。洋式だった便器は和式に変えられ、両側の壁のガラスには枷が鎖でぶら下がっていた。
やっと、収まったのに。
次回の調教の内容を暗示するようなその設備の姿に、レナは、またも、淫らな妄想を掻き立てられ、股間を濡らした。
サキさんは吸引器の保管場所まで考えていてくれていた。
(もし、自宅に置いておけないなら、お前の家の近くの銀行に貸金庫を借りたから、そこに預けておけ)
次の日に、言われた通りに箱に同梱されていたカギとカードを持って銀行に行った。
カードをリーダーにスラッシュし、テンキーで箱に書かれていた暗証番号を打つと貸金庫室のドアが開く。行員が、制服姿のレナにいらっしゃいませと言いながら怪訝な視線を送った。
女子高生風情が貸金庫か。
偽りのほほえみの下で、明らかにそう蔑んでいるのを、目が語っていた。
操作卓の前に座る。操作方法が卓の上に貼られていた。その通りにディスプレイのテンキーをタッチして同じ数字を入力する。
ごおん、ごおん。
音が止み、卓の上のドアがすーっと開く。A4のノートより少し大きめの灰色の箱が現れる。カギを差し、ふたを開け、紙袋に入れた吸引器をしまい、ふたを閉じる。
(はだかで入れないようにね。レナがクリトリス吸引器なんか使ってるイヤらしい淫らな女子高生だって、監視カメラで記録されちゃうからね)
子供扱いして!
LINEの向こうで小憎らしく笑うサキさんの顔が浮かぶ。でも、普通の人が証券や金塊やハンコなどを入れておく隣の箱の中身が、女子高生の愛液が染みついたクリトリス吸引器だなんて知れたら、どうなるんだろう。
少し、可笑しかった。
大きくなって包皮から少し顔を出すようになったクリトリスが、歩く度にショーツの布に擦れるようになった。あのウザいバイバイ仲間が言う、レナが変わったというのは、その微かな刺激が醸し出す、色気のせいではないだろうか。
きっと、そのせいだ。
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