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40.桜の声
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藤間翔太の葬儀は藤間建設の本社がある目白台の由緒ある寺院でしめやかに行われた。
園子は陰からそっと見送った。
「いろいろと便宜を図って頂き、有難うございました」
式が終わると園子は礼を述べた。
「いや、こちらこそ」
俊一郎は園子の手をしっかり握った。
藤間夫人は泣きはらした目をハンカチで拭いながら「佳い日になりました。あなたのお陰です」と深々と頭を下げた。
「本当に援助はいらないのですか?」
俊一郎は年を押すように訊いた。この件はもう何度も話し合った。
「有難うございます。これは私達のケジメですから。当面は一人で頑張ってみたいと思います」
「そうですか。でも何かあったらすぐにおっしゃって下さいね。必ずですよ」
花緒莉も何度も頷いた。
「園子さん。赤ちゃんが無事産まれたらぜひ抱かせて下さいね。ね。あなた?あなたからもほら!」
「ああ、そうだ。私からも是非お願いします」
「はい。約束します」園子は答えた。
春。
季節が一回りしてまた春がやってきた。今年の花粉は例年より量が多いという。
桜西歯科医院前~
桜西歯科医院前~
プシュー!
路線バスから乳飲み子を抱えた一組の親子が降り立った。
ポニーテールの母親はよっこらしょとベビーカーを歩道に着地させた。
母親はこの先の産婦人科で乳幼児健診を終えたばかりだった。
母子ともに健康、異常ナシ。
母は抱きしめた我が子に話しかけた。話し掛けるのが大好きだった。
「健康優良児だって。良かったでちゅね~」
母がおでこにキスすると赤ん坊はキャッキャッと笑った。
母子手帳の名は、〈藤間 園子〉。
二人がベンチに腰掛けて一息ついていると、歯科医院から女性スタッフが現れて言った。
「こんにちは!バス降りるとこ間違えちゃいましたか?」
「こんにちは。いえ、そうじゃないんです。お花見をしようと思って」
園子は見事に咲いた早咲きの桜を眩しげに見上げた。
「ああ、これですね。毎年綺麗に咲くんですよ!今年も綺麗に咲いてくれました!」
「去年見そびれたもので。今年は絶対見ようって決めてたんです。この子と。ねえ、月ちゃん~」
「あらぁ、可愛い!お名前は何ていうんですか?」
歯科医院のスタッフはちっちゃな手を握った。
「月緒です。お月様の月に、鼻緒の緒で月緒です」
「まあ!可愛い名前!月緒く~ん」
「あ、あの、女の子なんです」
園子は照れた。
「そうなのね~。ゴメンゴメン~」
月緒の小さな鼻の上に桜の花びらがくっついた。
ひとひら…
ふたひら…
「月ちゃん~、ほら、パパの大好きなさくらよ~」
月緒はけらけらと良く笑った。
「ホント可愛いですね!あ、お団子があるんです。お茶でもいかがですか?」
ちょうど喉が渇いてきた頃だった。園子は礼を言った。
「寒いですから。さあこちらへどうぞ!風邪でもひいたら大変」
「あざっす…!」
スタッフは人の声を聞いたような気がして辺りを振り返った。
そして誰もいないはずの空を見上げた。
抜けるような青空に桜の花びらが舞っていた。
ハウスDr.園子 完
園子は陰からそっと見送った。
「いろいろと便宜を図って頂き、有難うございました」
式が終わると園子は礼を述べた。
「いや、こちらこそ」
俊一郎は園子の手をしっかり握った。
藤間夫人は泣きはらした目をハンカチで拭いながら「佳い日になりました。あなたのお陰です」と深々と頭を下げた。
「本当に援助はいらないのですか?」
俊一郎は年を押すように訊いた。この件はもう何度も話し合った。
「有難うございます。これは私達のケジメですから。当面は一人で頑張ってみたいと思います」
「そうですか。でも何かあったらすぐにおっしゃって下さいね。必ずですよ」
花緒莉も何度も頷いた。
「園子さん。赤ちゃんが無事産まれたらぜひ抱かせて下さいね。ね。あなた?あなたからもほら!」
「ああ、そうだ。私からも是非お願いします」
「はい。約束します」園子は答えた。
春。
季節が一回りしてまた春がやってきた。今年の花粉は例年より量が多いという。
桜西歯科医院前~
桜西歯科医院前~
プシュー!
路線バスから乳飲み子を抱えた一組の親子が降り立った。
ポニーテールの母親はよっこらしょとベビーカーを歩道に着地させた。
母親はこの先の産婦人科で乳幼児健診を終えたばかりだった。
母子ともに健康、異常ナシ。
母は抱きしめた我が子に話しかけた。話し掛けるのが大好きだった。
「健康優良児だって。良かったでちゅね~」
母がおでこにキスすると赤ん坊はキャッキャッと笑った。
母子手帳の名は、〈藤間 園子〉。
二人がベンチに腰掛けて一息ついていると、歯科医院から女性スタッフが現れて言った。
「こんにちは!バス降りるとこ間違えちゃいましたか?」
「こんにちは。いえ、そうじゃないんです。お花見をしようと思って」
園子は見事に咲いた早咲きの桜を眩しげに見上げた。
「ああ、これですね。毎年綺麗に咲くんですよ!今年も綺麗に咲いてくれました!」
「去年見そびれたもので。今年は絶対見ようって決めてたんです。この子と。ねえ、月ちゃん~」
「あらぁ、可愛い!お名前は何ていうんですか?」
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「月緒です。お月様の月に、鼻緒の緒で月緒です」
「まあ!可愛い名前!月緒く~ん」
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「そうなのね~。ゴメンゴメン~」
月緒の小さな鼻の上に桜の花びらがくっついた。
ひとひら…
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「月ちゃん~、ほら、パパの大好きなさくらよ~」
月緒はけらけらと良く笑った。
「ホント可愛いですね!あ、お団子があるんです。お茶でもいかがですか?」
ちょうど喉が渇いてきた頃だった。園子は礼を言った。
「寒いですから。さあこちらへどうぞ!風邪でもひいたら大変」
「あざっす…!」
スタッフは人の声を聞いたような気がして辺りを振り返った。
そして誰もいないはずの空を見上げた。
抜けるような青空に桜の花びらが舞っていた。
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