ハウスDr.園子

MIKAN🍊

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38.再会

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エレベーターの扉が開いた。
一階と違い強いアルコール臭が漂っていた。
看護師達がストレッチャーを押してゆく。
急がず慌てず。左側通行を守りながら。
壁際のベンチで眠る人。静かにポータブルゲームをしている子や、放心した目で天井を見つめる人。

俊一郎と園子の足音をリノリウムの床が吸い込んでゆく。
面会謝絶の札を幾つか通り過ぎた。
「ここです。どうぞ会ってやって下さい」
「はい」
ドアを小さくノックして園子は部屋の中に入った。
園子とすれ違うように花緒莉が出て行く。
「外で待っていますね」

気配を察したのか窓の方を向いていた頭がゆっくり園子を見た。
「藤間君… 翔太君?」
「係長?」
「来たわ」

開け放たれたカーテンの向こう。
スズメが二羽。仲良く並んで二人を見ていた。

園子は丸椅子を引き寄せ、翔太のそばに座った。
翔太はひどくやつれていた。
「こんにちは」
「なんすか。それ」
「何が?挨拶よ」
「そうすか」
今なら翔太がとても照れている事がわかる。園子はそう思った。
元気を出して。いつものように。

「お父さんに会ったわ。お母さんにも」
「オヤジ、いろいろ言ったっしょ?気にする事ないっす」
「気にしてるのはあなたでしょう?二人ともすごく良い人じゃない!」
「外ヅラがいいだけす」
「そんな事言わないの」

翔太は園子を見つめた。
「なあに。何か顔についてる?そんな目をしても何にも出てこないわよ」
「そんな意味じゃ…」
翔太は顔を赤らめた。

「早くでよう」
園子は言った。
「え?なんすか」
「早くこんな所出よう」
「ムリっす」
「ムリじゃないわよ。お花見するんじゃなかったっけ?」
「したいす」
「でしょう?お花見してビール飲もうよ」
「メキシカンビールすか?」
「そうそう…」

翔太と園子は久しぶりの会話を楽しんだ。
いつもと同じように。
翔太はすぐに疲れて眠ってしまった。
それは安心しきった表情だった。
園子は翔太の額に載せていた手を頬や首に当てて、今はまだちゃんと温もりが感じられる事を神に感謝した。
まだダメよ。翔太。もっとよ。もっと生き抜いて… 一緒に生き抜くのよ…

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