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第17話 手紙/白いクーペ

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拝啓、広美さん
お元気でしょうか
僕は元気です
といっても、つい三日前に会ったばかりだね
やっと荷物を片付けて、部屋らしくなりました
レノンのスタンド バイ ミーを聴きながら、これを書いています
京都はひどく暑いです
そちらより暑いような気がします
机の落書きもあの時のままです
[君と歩いた青春、斉藤広美 忘れないでね]
でも今は遠い空の下にいるなんて、信じられない
お別れ会に来てくれて、本当にありがとう
あの時、言えなかったので

また夜書けたら、続きを書きます

夜です
こちらの夜はとても静かです
竹やぶが音を吸い取ってしまうのかも知れない
蒸し暑いので窓は開けてありますが、外も内も同じようなもので風がまったくない
なんとなく今の自分の気持ちに似ています
まだ数日しか経っていないのに、広島のことが随分昔のことのように思える
我が家にいるのに、ホームシックになったような感じなのです
これからいろんな事が変わってゆくのでしょうか?
でも人生はらせん階段のようなもので、少しづつ良くなっていくのだと思います
広美に対する思いは変わらないので安心して下さい

 愛しい人へ

                  孝一


前略、広美様
今日は母と駅前まで買い物に行きました
帰りに喫茶店に入りいろいろ話しをしました
優しい雰囲気の人ですが、気の強い所もあるようです
父と離婚してからずっと一人で頑張って来たからかな

「無理してお母さんと呼ばなくても構わないよ」
母はそう言ってくれました
妹がまだ
「おばさん」と呼んでいるので、そのせいかも知れません
呼び方なんて、どうでもいいと思いませんか?
僕を産んだ母は一人きりだし、今いる母も母に変わりはないでしょう?
たいしたことじゃないと僕は思うのですが、広美はどう思いますか?

こんな話題は嫌い?
母も妹もいったい何にこだわっているのか、僕には理解できないのです

明日、母の紹介でアルバイトの面接に行って来ます
受かるといいんですが
家でじっとしててもしょうがないし、かと言って一人では何処に行ってもつまらないんです
家のことは母がすべてやってくれるので、僕は何もしなくて構わないし
こんなことはごく普通のことなんだろうけど、僕にはすごく新鮮なのです
母が用意してくれる夕食も豪華で感動しています
これが団欒ってやつですかね?
毎回食事が楽しみです

おやすみなさい



親愛なる広美さん
暑い日が続きますね
僕の方は大丈夫ですよ
勉強はやってもやらなくても、あまり変わりませんから
実を言うと、電話より手紙の方がありがたいのですが
でも無理はしないで下さい
僕の場合は何か書いているだけでも気が静まるんですよ
いつも長いのを送ってゴメンね
順番がわからなかったら封筒に番号を振りますね
だけど順番は重要じゃないですよ
本当に気ままに書いてるだけだから

みんなは元気ですか
クロはバテていませんか
バイトの面接は簡単なものでした
緊張して損しました!
明日から早速仕事です!
ドジをしなきゃいいのですが…
まだわかりませんが、マスターも従業員の人もいい人のようで楽しそうです
仕事は覚えることが沢山ありそうなので、きっと気が紛れると思います

お願いがあるのですが、広美の写真をくれませんか?
どんなものでも構いません
去年のですが、僕のを一枚同封しときます
え?いらないですか?
そんなこと言わずにもらってください

今日はこのへんで

デビー・ブーンでも聴きながら温和しく寝ます

P.S.ミルクをやりたいけど家ではできません
そろそろ禁断症状かな?

あー!ミルク!



前略、広美様
大ニュースです!広島に僕だけ戻れるかも知れません
というのは、久坂が親に頼んで下宿先を探してくれているそうなのです
まだ詳しいことはわからないし、どこまで信用していいかわからない話しなのですが、広美には知らせておきますね
また進展があったら手紙に書きます

喫茶店の話しばかりになってしまいますが、祇園に行くようになってから一日の経つのがとても早くなりました
覚えることも多いのですが、前にも書いたチーフの吾妻さんと飛島さんの会話がすごく面白いのです
吾妻さんは自分では25才だと言ってますが、本当は30近いという話しもあります
あまり喋らないのですが、たまにボソッと言うことが面白いのです
舞妓さんは毎日来ますよ
吾妻さんは舞妓さんの悪口もボソッと言います
本気ではないと思います
本当にダラッとしていて、ちょっと園部に似ていますが、忙しくなるとテキパキと仕事をこなすし、飛島さんみたいにオーダーミスをしても怒らないので、そのへんが人気があるのです
吾妻さんに
「もう少し手を抜け」と言われました
信じていいと思う?
自分ではそんなに真面目にやってるつもりはないんだけど

ではまた



前略、広美さん
これ何通めかな?18か、19通め?
何をどこまで書いたか、忘れそうだよ
大学生?いるよ、同志社の男女が二人
一人は地元で、もう一人は神戸から来て一人住まいをしてる
一人暮らしはお金がかかるとぼやきつつ、仕送りやバイト代のほとんどは洋服代や遊び代に消えてるらしいよ
地元の方は真由美さんといって、いつも飛島さんと喧嘩みたいな言い合いをしてる人
関西弁は、知らない人が聞くと、喧嘩してるように聞こえるんだって
いつか遊びに行こうって誘われてるけど、多分行かない、タイプじゃないから

他に元暴走族の若い奥さんがいる
今はそんな風に見えないけど、以前はバリバリのヤンキーだったそうでみんな恐れてるよ
坂口良子に似た綺麗な人で少しも怖い感じはしない
優しくていい人だよ
夏休みの間だけ手伝いに来てるんだ
僕はまるで子供扱い、弟みたいだって、失礼だよね

そうだ、写真どうもありがと!よく写ってるヨ
園部が撮ったとは思えないくらい!
写真立てに入れてあるので今も目の前でピースしてる
とても可愛い!本当に

P.S.真由美さんにピーター・フランプトンのライブを借りたんだけど、僕にはピンと来ませんでした 




拝啓、高杉孝一様

手紙を書くのは久しぶりなので、あなたのように上手く書けるか自信がありませんが、書いています

まず最初に、あなたのような著述家に会えたことを嬉しく思います

私が自分自身を大切にしているとも書いてありましたが
最大の賛辞と受け止めておきます
どうもありがとう

写真は私が選びました
変だから本当はイヤだったんだけど、あなたの頼みで私にできることは、それくらいしかないですから

あなたが戻って来れることを楽しみにして、勉強に励んでいます
西郷君とはまったく会っていません
園部君は、高杉君がいないのでつまらなそうです
勉強すればいいのに!

短いですが、これで失礼します
あなたからの手紙は何度も繰り返し読んでます

筆不精ですいません
また楽しい便りを待っています

私は最近ずっと待ってるばかりです
私も忘れませんから、あなたも忘れないで下さい


 私の孝一さんへ

                斉藤広美



愛する広美様
手紙ありがとう!
すごく感動したよ!
気軽な気持ちで書いてください

ところで前に書いた主婦のこと覚えてる?
実は初日にトラブルがあったのです
誤解と言えば誤解なんだけど何故か雰囲気が悪くなってしまい…
女の人って何を考えてるか解らない時があるよね
ハッキリ言ってくれた方がいいし、その方が時間の無駄が省けるのに
広美はそう思わない?

結婚って何だろうか
最近、広美と結婚できたらいいな、なんて考える時がある
広美がいなきゃ僕はとうに何もかも投げ出してた
もちろんまだまだ先の話しなんだけど、好き合った者同士が一緒になるって、理想的でしょ
今すぐ返事が聞きたいというわけじゃないよ
たまに、ほんの少しでいいから考えてみてくれない?

夜になると淋しくてたまらなくなる
君を思い出すと居てもたってもいられなくなるんだ
なぜ離れ離れなんだろうって思う…

今日はなんだか変だね
君に何かプレゼントしたいんだけど、何が欲しいかな?
僕はね、君が欲しいよ
君のすべてが欲しい
君と過ごす時間
君とのお喋り
君のわがままさえ欲しい
最後に僕は君のキスが欲しい

おやすみ、また明日
愛しています



残暑お見舞い申し上げます
(ちょっと早い?)

もう8月も残り十日になりましたね
勉強はかどってる?
僕の方はレモンスライスが上手に切れるようになりました
パンもそうなんだけど、ナイフ自体の重みで切るようにするのがコツ
何でもない事なんだけどね

電話でも言ったけど、久坂のお陰で下宿先が見つかりました
住所は前よりT市寄りらしいので、広美の家に少し近づいたかな?
そこは久坂のお母さんの弟さん夫婦の家で、まだ子供もなく部屋が余っているからだそうです
詳細は大人達でいろいろ話し合ってるけど、一応決定
29日か30日にはそちらに帰る予定なので、楽しみに待って下さい!

ところで何が不安なの?
僕が不安にさせてるのかな?だとしたらゴメン
そんなつもりはまったくないんだけど
それとも将来のこと?

今、アバを聞いてるところ
いい曲ばかりだよ
聴いているだけで、涼しくなって来る

君の不安を取り除いてあげられたらいいんだけど、僕にはその方法が見つからない
君の心配は何?
君を不安がらせているもの
それが何であれそばに居られないのが悔やまれます

P.S.ディープパープルとシカゴの区別がつかない僕でした


<白いクーペ>
何を信じたらいいか
わからない時がある
それは誰にも起こること

夜の訪れとともに
そいつはやって来て
不吉な囁きを残していく

ダーリン
僕はいつだって君のもの
この心は君だけのものなんだよ

いつか話しただろう
白いクーペでドライブしよう

白いクーペで
僕は覚えているよ
この目に焼き付いている
それはイメージの世界の出来事なんだけど
実際に僕は見たんだ
君と一緒にね


真夜中はいつも
重苦しく僕にのしかかって来る

僕は自分が誰か
よく知っている
僕が僕でいられるのは
君がいるからなんだよ

恋を打ち明けるより
待つことの方が難しい
本当にそう思うよ

誰だって最悪のことを考える
人は弱い生き物だからね

でもそれは
もうすぐ乗り越えられる

白いクーペでね
僕が君を迎えに行くからだよ
僕のお気に入りの白いクーペ

君がいつものように
庭で何かを想っている時
白いクーペが
君の家の真ん前にとまる

いつか話した通りに
僕は白いクーペで
君を迎えに行くよ

ダーリン
僕はいつだって君のもの
この心は君だけのためにある

いつか話したろう
白いクーペさ

白いクーペで
迎えに行くよ

               By 孝一



親愛なる広美様
どんどん君が遠くに行ってしまうような気がします
それも仕方ないのかな?
京都と広島では何もかも違い過ぎるんだよ
僕は何のために京都にいるんだろうと思うよ
君はちっとも返事をくれないし、電話だけじゃ伝わらないこともあるよ
一緒にいればなんとなく通じることも、離れていたら次第にわからなくなって来る
それは誰のせいでもないんじゃない?
神経質に考えたらキリがないよ
いいかい?君には君の道、僕には僕の道がある
そんなの当たり前じゃないか?
どんなにあがいてもね、君がケガをした痛みは僕には想像するしかないってこと

冷たいとか薄情とかいう問題じゃなくて、現実は現実なんだよ?
それだけのことなんだよ
こんなことは書きたくないけど、君は園部の何なの?
彼の苦しみは君の苦しみなのかな?
じゃ僕は苦しんでないから別にいいのかな?
本当に知っているの?僕の気持ちを?
僕にだってわからない時があるってのに!
君はそうして僕の友達の心配をしていればいいよ
僕が誰か他の人の心配をするようになったら、君はどう思うかな?
何とも感じないのなら、付き合ってる意味なんかないと思うよ
その時は教えて下さい




こんにちは、孝ちゃん
真由美ちゃんに聞いたんやけど、広島に帰ってしまうんやて?
急なことでとても残念ですが、しょうがないですネ

孝ちゃんと阪急に行った時、ホントは楽しかった…
良い想い出にします!

この前お使いで祇園の店に寄った時、孝ちゃん、風邪ぎみやったでしょう?
遊んでばかりいるから、バチが当たったんやわ!

それは冗談やけど、あまり丈夫そうじゃないから
ほどほどにネ
お姉さんの言うことはきかなアカンよ?

私はあいかわらず、つまらない生活を送ってまーす
毎日同じことの繰り返し
ごはんを作ったり、家の掃除をしたり…

でも孝ちゃんの言う通りこれがきっと幸福せなんやろネ!

孝ちゃんが言ってた、オフコース買いましたヨ!
今、聴きながら書いています
いい曲多いですネ

『眠れぬ夜』と
『秋の気配』が好き

あと『こころは気紛れ』も

特に
「私はまだ若いから」っていうところ
気に入ったので何度も口ずさんでいます

これもしかして私のことやろか?
なんて思いながらネ


出発はいつ?
必ず必ず返事ください
待っています


 生意気な弟へ

              不破野咲子

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