犬ニンゲン

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15.居酒屋スーサイド

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ビルの谷間に夏の宵闇が迫る。
会社の外の喫煙エリアで待ち合わせて、祐馬とリュウは行きつけの居酒屋へ向かった。
香ばしい焼き鳥の匂い。仄かに揺れる赤提灯。やっぱり夏はこれに限る。


いつものカウンター。
止まり木に腰掛けると愛想の良いママが笑顔でおしぼりを出してくれた。
「久しぶりだなあ」
「本当よ。何処で浮気してたのかしら」
「相変わらずべっぴんさんだね」
「そんなんじゃ誤魔化されませんよ」
「あちゃー」
「おビールね。そのあとはミルクの焼酎割りで宜しいかしら」
「そ。いつものコースで」

「アチかったなあ、今日も。お、乾杯!」
「お疲れー」
「ママも飲んで」
「じゃあテキーラで」
「ウソ!?」
「ウソよ。ウフフ。ウーロン茶頂きます」
「自殺志願者は今日は少ないね?」
「おい、よせよ」
「だってここ、居酒屋スーサイド(自殺)だろ」
「ブラックユーモアだっての。何回言っても理解しねえな」
「はいはい。わかってますよ。ママ飲んで。グッとやって」
「ありがとうございます」


「で、何だ。話しって?」
リュウがタバコに火をつけた。
祐馬はシンシアに浮気がバレた事を手短かに話した。
「そうか、バレたか」
「それでよ。あの、あれだ。奥さんの件な…」
「ああ、あれな。気にすんな」
「そうもいかないよ」
「スポットパートナーシップな。俺な、嫉妬深いんだよ。情けねえけどな。それでよ。知らん奴にヤラれるよかお前なら我慢も出来るかなってナ。金額が足りなかったか?」
「いや、そういう意味じゃないよ。お前の気持ちを確かめたかったんだ。けどジャスミンの事がバレちゃってさ。シンシアは猛烈に怒ってるし」
「まあな、女なんてそんなもんさ」
「だからさ。悪いけど今回の事はさ」
「そうだな。仕方ないよ」
「すまん」
「いいさ」
「どうするんだ?奥さんの発情期は?」
「なるようになるだろ」
「なるようになるとは?」
「頭来たら別れるよ」
「おい、それで本当に良いのかよ?」
「他の男とヤル女をお前許せるか?」
「んー、どうかな。オレもやってるからな。ケースバイケースだよ」
「何言ってんだよ。実際はそんな風には割り切れないもんさ」
「はい、お待ちどおさま」
リュウは好物の"気まずい夏のにわか雨"を旨そうにクチャクチャ噛んだ。

「あ、ママ。これ最高だね。アレある?"沢清水で猫に突然出逢ったら?"」
「ゴメンね。切らしてるの。"亀の手とササミのデンジャラスゾーン"ならあるけど、いい?」
「いいよ。それ頂戴」
「オレはこれね。"したたかなブルーラグーンのタタキ"」
「はい。レモン汁でね」
「うん」

「別れるって、子どもどうするんだよ」
「もう高校生だしな。ある程度理解してもらわにゃ」
「子どもに負い目が出来るだろう」
「バカだなお前。これは夫婦の問題だぞ。子どもには子どもの世界、親には親の世界があって当然だろう。親だって男と女なんだぞ」
「そりゃそうかも知れんけど、もう少し我慢できないのか」
「もうムリだな」
「そんな事言うなよ。ママ、おかわり」

「お前んとこは良いよ。あんな素敵な奥さんでさ」
「そうでもないよ。分からず屋だし。文句ばかりだ」
「お前ね。男と女は違うんだよ。もっと優しくしてやれよ」
「してるよ。わかんねーな」
「何がよ?」
「発情期の時は別人になっちまう」
「だからぁ、女はそうなんだって」
「でもお前はそれが許せない」
「まあな」
「矛盾してないか?」

「そうかもな。でもどうしようもねえんだよ。あいつが他の誰かとヤルってのは世界の終わりなんだよ」
「なんかカッコいいな。羨ましいよ」
「なんだって?」
「羨ましいと言ったんだよ。お前それ、惚れてるって事だろ?」
「どうかなあ。ただの本能だろ」
「違うよ。惚れてんだって」
「そうかなぁ、違うと思うよ。そんなんじゃないって」

料理が運ばれた。
「スゲーこれ。どうやって食うんだ?」
「あら、知ってて頼んだんじゃないの。イヤねえ」
「ママ、男ってのは冒険心の塊なんだよ」
「好奇心でしょう。好奇心は猫だって殺しちゃうんですってよ」
「へぇー。祐馬、俺さ。あいつと、エイミーといるのがしんどくなっちゃったんだよ。夫婦としてはもう終わりのサインなんだよ」
「何マジで言ってんだよ。おい、リュウ!?どうしたんだよ?」

「祐馬さん、もう一杯いく?」
「あ、下さい。リュウ、お前まだ大丈夫か?」
「たりめーだろ。つーかな、明日は休み取ったんだ」
リュウは急に明るくなって笑った。
「何でよ?」
「サイパンで腰を痛めちゃってな。イテテ。ヤスミーン先生のとこにさ。ほら、今発情期なんだろう?サイパンのお土産持ってさ」
まったく発想が同じじゃないか…
祐馬は呆れた。

「何でサイパンで腰なんだよ?」
「いや、ちょっとサーフィンの真似事をな。あひゃひゃひゃ!」
「バカか。いい歳こいて。好きにしろよ」
「すいませんねえ。ねえママ!何か精のつくものなーい?」


南の空高く、蒼い満月が昇った。
夜になっても蝉は鳴き止まなかった。

いつの間にか居酒屋スーサイドは満席になっていた。
「ねえ、誰か。あたしとジルバを踊らない?」
ママが叫ぶと、座っていた呑んだくれ達が一斉に立ち上がって手を振った。
「はーい!はーい!」
「オィーッす!」
「ママ!今夜はオレと!」

ママはカウンターから出て来るとエプロンを外して、髪をバラッとほどいた。

「うひょ~!」
「たまんねえー!」
「待ってました!」

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