35 / 46
35.吾郎とカエデ
しおりを挟む
タンクローリー車が突っ込んだ時には一階にはほぼ可燃物質らしい可燃物質は残っていなかった。
タンクローリー車は北側を壮絶に破壊しながらエレベーターに正面衝突して鋼鉄のケージ扉を半分以上こじ開けて止まった。
ノズルが燃え上がり満タンのガソリンにたちまち引火して、辺り一面を太陽の表面の様に明るくした。
耳をつんざく爆音が続けざまに轟いた。
炎の塊が外部から取り込まれた酸素をさらに激しく燃やし、燃焼と爆燃を繰り返した。
鉄筋コンクリートだけになった『らうどねす』一階部分は地獄の窯焼き状態だった。開口部から常に酸素が供給され火勢を劣らせるという事がなかった。
高温の突風が渦を巻いて直上階を襲った。
熱風が吹きすさび、灼熱の炎が上下左右に生き物の様に旋回していた。
天井を這いずり回っていた火焔がエレベーターシャフトに潜り込み怒り狂いながら上昇していった。
炎と黒煙のアーチをくぐり抜けて5台目、6台目のトラックが激突し合いながら猛突進して来た。
全輪は火を吹いて火だるま。ガソリンタンクを炎上させたまま、爆発炎上するタンクローリー車に自ら飛び込んでいった。
後続車が真っ赤に焼けたトコロテンのように火花を散らしながら4台目を押し潰した。
先頭でひしゃげたタンクローリー車のヘッドがついにもぎ取れ、エレベーターの底、地下一階まで墜落し再び爆発した。
吾郎とカエデは三階に辿り着いていた。
建物が爆発で振動する度に天井からコンクリート片が剥がれてスーパーサイズの雹のように落下してくる。
爆風が有毒ガスを引き連れて噴き上げて来ていた。
吾郎は屋上に出る扉のノブに手を掛けた。
この向こうに新鮮な空気と美しい星空が広がっている筈だ。
が、ドアは開かなかった。完璧に施錠されていてビクともしない。
分厚い鉄扉を吾郎はゲンコツで殴った。ドア枠の隙間に指をこじ入れようとしたが、爪が折れただけだった。
「クソ」
二人はその場にへたり込んだ。呪わしい暗黒の鉄扉を背にして。
足元から火焔のマントをまとった死神が一歩また一歩と近づいて来るのが解った。
炎の竜巻が二人の居場所を見つけるのは時間の問題だった。
「失敗した。カエデ、ごめん」
「いいよ。そんなの」
「此処が終点だ」
「ありがとう。助けてくれて。手引っ張ってくれた時、すごい嬉しかった」
「そっか。すまん」
「ずっと怒ってると思ってたから」
「怒ってなんかねえよ」
煙にむせて涙が出た。
「カッコ良かったよ。吾郎ちゃん」
「なあカエデ」
「何?」
「こんな時に変だけど。新しいカレシとうまくイッてるか?」
「何よそれ。うふふ。とっくに別れちゃったよ」
「そっか。なんだ」
「カエデやっぱり吾郎ちゃんが良いな」
「ふん。じゃあこのバイト終わったら、またラーメン食いに行くか。いつものとこ」
「うん。いいよ」
カエデは吾郎に抱きついた。
「吾郎ちゃん。怖いよ」
「大丈夫だ。おい、ギョーザも食べよう。冷たいビールも飲むぞ」
「うん」
カエデは震えていた。
「熱い…。熱いよ、吾郎ちゃん」
「それからぁ、食後のデザートは杏仁豆腐を食おう」
「うん、吾郎ちゃん」
カエデの手から力が抜けてゆく。
「カエデは何にする。アイスクリームか…」
「ン…」
「きっと美味いぞお。冷たくって…」
二人を高熱の煙と火焔が包み込んだ。
タンクローリー車は北側を壮絶に破壊しながらエレベーターに正面衝突して鋼鉄のケージ扉を半分以上こじ開けて止まった。
ノズルが燃え上がり満タンのガソリンにたちまち引火して、辺り一面を太陽の表面の様に明るくした。
耳をつんざく爆音が続けざまに轟いた。
炎の塊が外部から取り込まれた酸素をさらに激しく燃やし、燃焼と爆燃を繰り返した。
鉄筋コンクリートだけになった『らうどねす』一階部分は地獄の窯焼き状態だった。開口部から常に酸素が供給され火勢を劣らせるという事がなかった。
高温の突風が渦を巻いて直上階を襲った。
熱風が吹きすさび、灼熱の炎が上下左右に生き物の様に旋回していた。
天井を這いずり回っていた火焔がエレベーターシャフトに潜り込み怒り狂いながら上昇していった。
炎と黒煙のアーチをくぐり抜けて5台目、6台目のトラックが激突し合いながら猛突進して来た。
全輪は火を吹いて火だるま。ガソリンタンクを炎上させたまま、爆発炎上するタンクローリー車に自ら飛び込んでいった。
後続車が真っ赤に焼けたトコロテンのように火花を散らしながら4台目を押し潰した。
先頭でひしゃげたタンクローリー車のヘッドがついにもぎ取れ、エレベーターの底、地下一階まで墜落し再び爆発した。
吾郎とカエデは三階に辿り着いていた。
建物が爆発で振動する度に天井からコンクリート片が剥がれてスーパーサイズの雹のように落下してくる。
爆風が有毒ガスを引き連れて噴き上げて来ていた。
吾郎は屋上に出る扉のノブに手を掛けた。
この向こうに新鮮な空気と美しい星空が広がっている筈だ。
が、ドアは開かなかった。完璧に施錠されていてビクともしない。
分厚い鉄扉を吾郎はゲンコツで殴った。ドア枠の隙間に指をこじ入れようとしたが、爪が折れただけだった。
「クソ」
二人はその場にへたり込んだ。呪わしい暗黒の鉄扉を背にして。
足元から火焔のマントをまとった死神が一歩また一歩と近づいて来るのが解った。
炎の竜巻が二人の居場所を見つけるのは時間の問題だった。
「失敗した。カエデ、ごめん」
「いいよ。そんなの」
「此処が終点だ」
「ありがとう。助けてくれて。手引っ張ってくれた時、すごい嬉しかった」
「そっか。すまん」
「ずっと怒ってると思ってたから」
「怒ってなんかねえよ」
煙にむせて涙が出た。
「カッコ良かったよ。吾郎ちゃん」
「なあカエデ」
「何?」
「こんな時に変だけど。新しいカレシとうまくイッてるか?」
「何よそれ。うふふ。とっくに別れちゃったよ」
「そっか。なんだ」
「カエデやっぱり吾郎ちゃんが良いな」
「ふん。じゃあこのバイト終わったら、またラーメン食いに行くか。いつものとこ」
「うん。いいよ」
カエデは吾郎に抱きついた。
「吾郎ちゃん。怖いよ」
「大丈夫だ。おい、ギョーザも食べよう。冷たいビールも飲むぞ」
「うん」
カエデは震えていた。
「熱い…。熱いよ、吾郎ちゃん」
「それからぁ、食後のデザートは杏仁豆腐を食おう」
「うん、吾郎ちゃん」
カエデの手から力が抜けてゆく。
「カエデは何にする。アイスクリームか…」
「ン…」
「きっと美味いぞお。冷たくって…」
二人を高熱の煙と火焔が包み込んだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜
蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。
魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。
それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。
当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。
八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む!
地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕!
Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
鋼殻牙龍ドラグリヲ
南蛮蜥蜴
ファンタジー
歪なる怪物「害獣」の侵攻によって緩やかに滅びゆく世界にて、「アーマメントビースト」と呼ばれる兵器を操り、相棒のアンドロイド「カルマ」と共に戦いに明け暮れる主人公「真継雪兎」
ある日、彼はとある任務中に害獣に寄生され、身体を根本から造り替えられてしまう。 乗っ取られる危険を意識しつつも生きることを選んだ雪兎だったが、それが苦難の道のりの始まりだった。
次々と出現する凶悪な害獣達相手に、無双の機械龍「ドラグリヲ」が咆哮と共に牙を剥く。
延々と繰り返される殺戮と喪失の果てに、勇敢で臆病な青年を待ち受けるのは絶対的な破滅か、それともささやかな希望か。
※小説になろう、カクヨム、ノベプラでも掲載中です。
※挿絵は雨川真優(アメカワマユ)様@zgmf_x11dより頂きました。利用許可済です。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
アラフォーだって輝ける! 美しき不死チート女剣士の無双冒険譚 ~仲良しトリオと呪われた祝福~
月城 友麻
ファンタジー
長年の冒険でつちかった、きずなと経験。それがアラフォーの彼女たちの唯一の武器だった。
大剣を軽々と振り回す美しき女剣士ソリス。丸眼鏡の魔法使いフィリア。おっとり系弓使いイヴィット。
世間から"余りもの"と呼ばれた彼女たちが、20年以上もの間、ダンジョンで生き残ってきた理由。それは、"安全第一"を貫く慎重さと、誰にも負けない強いきずなだった。
しかし、運命はそのきずなを引き裂いていく――――。
ダンジョンボス"赤鬼"との決戦で、かけがえのない仲間を失ったソリス。
死の淵で彼女が発動させた力は、"女神の祝福"と呼ばれる謎のギフト。
死んでも蘇り、さらに強くなる—――――。
謎の"祝福"が初めて発動した時、ソリスは泣いた。
「もし、私が先に死んでいれば.……」
後悔と罪悪感に苛まれるソリス。しかし、彼女の戦いはまだ終わらない。
失われた仲間を取り戻すため、彼女は再び剣を手に取った――――。
世界の理(ことわり)を覆す、壮大な物語が幕を開ける!
雨上がりに僕らは駆けていく Part1
平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」
そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。
明日は来る
誰もが、そう思っていた。
ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。
風は時の流れに身を任せていた。
時は風の音の中に流れていた。
空は青く、どこまでも広かった。
それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで
世界が滅ぶのは、運命だった。
それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。
未来。
——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。
けれども、その「時間」は来なかった。
秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。
明日へと流れる「空」を、越えて。
あの日から、決して止むことがない雨が降った。
隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。
その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。
明けることのない夜を、もたらしたのだ。
もう、空を飛ぶ鳥はいない。
翼を広げられる場所はない。
「未来」は、手の届かないところまで消え去った。
ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。
…けれども「今日」は、まだ残されていた。
それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。
1995年、——1月。
世界の運命が揺らいだ、あの場所で。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる