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MIKAN🍊

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21.追跡者

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なだらかな坂道の下で鵜飼園夫は有人式一般速度取締りを行っていた。
測定器はレーダー式を用いている。車に電波を発射して反射した電波の波長から速度を算出する方法だ。
市販のレーダー探知機でドライバーに察知される可能性があるので鵜飼はあまり好きではなかった。
交通指導取締りの最大の狙いは交通事故防止上の有効性である。取締りを強化する事によって、運転者や歩行者に交通ルールを遵守させ交通事故死者数の軽減を図るのが目的だ。
とは言え、鵜飼はそれだけでは物足りなかった。

有人式一般速度取締り、通称ネズミ捕りは制限時速15キロ超過を目安に強制停止させるのが常だった。
しかしこれでは手ぬるい、と鵜飼は思っていた。
例え1キロであろうとオーバーはオーバーだ。片っ端捕まえて違反キップを切ってやれば良い。
逃走する車両は地の果てまでも追いかけてやるのに、と。
追跡係の鵜飼は鼻毛を抜きながら通り過ぎる女子高生のグループを眺めていた。
「短か過ぎるな。まったく。親はどういう教育をしてやがるんだ」

追跡係は停止誘導と制止を振り切った違反車両を追跡するのが主な任務だった。
白バイ隊員になって一年。重量300kg、排気量1,300CCの大型バイクが頼もしい相棒だ。
バイクが好きでこの仕事をしている。鵜飼園夫にとってそれ以外に理由はない。
単独で取締りを行なう事が多いのでコミュニケーション能力が必要だが、鵜飼にはどうもこの人当たりの良い言葉遣いというのが苦手だった。言葉巧みにごねるドライバーを諭したり、否認し続けるドライバーに調書を作成しなければならない。
ドライバーのまことしやかな言い訳を聞いていると鵜飼はすぐに腹が立ってくるのだった。
違反をしておいて四の五の言う輩はその場で射殺したくなる。
そういう事情で鵜飼は追跡係なのだった。


三浦半島東海岸。 浦賀水道。
JAオーシャン社の巨大オイルタンカーが行き交っていた。国内の輸入基地に輸送、貯蔵する為だ。
そこから内航船で各地の2次基地に運ばれ、3次基地である充填所まで大型タンクローリーが輸送する。
神奈川沿岸の各製油所を定刻通り出発した百台余りのタンクローリー車は一路、西関東に向けてひた走っていた。


天気は良かった。
春風が潮の香りを連れて来る。エアコンを入れるにはまだ早い。

湾岸線を突っ走るタンクローリー車の一台。
宮園剛はラジオを付けた。洋楽専門のFM放送だ。
懐かしいディスコソングがかかっていた。ヤンキー時代によく踊ったものだ。
子ども達は成長して長男は来月結婚式を挙げる。出来ちゃった婚だった。
中学高校と生意気なガキだったが今度一緒に酒を飲む約束をした。子どもが生まれたら滑り台でも買ってやろう…

海コントレーラーが横入りをする。海外の輸入品や輸出品を運ぶ大型トレーラーだ。
海上コンテナは世界基準に基づいている為、国内の道交法の基準を超えてしまう。
そこで条件付きで道路交通法の規定の対象外となり、特例的にこの大きなコンテナを積載して国内を運行することが出来るのだ。
「大きな顔して走りやがって。まあいいさ。こっちはマイペースだ」

ふと剛は眠気に襲われた。
もう年なのかな。昨夜は早く寝た筈なんだけどな…

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