SHOTA

MIKAN🍊

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4.十年ひと昔

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ガラスの小窓越しにタイミングを見計らってドアをノックした。
「失礼しまーす」

「えーと、とりあえず枝豆と小茄子のお新香。空豆とのどぐろの天ぷら。ヤングコーンと竹輪・ミョウガの天ぷら。それと、タケノコの天ぷら」
「きゃははは~!」
「誰よ、天ぷらばっかりじゃない」
「食べたかったのよ」
「ミョウガ食べるとボケるわよ」
「そんなの言い伝えよ」
「違うわよ。忘れっぽくなるのよ」
「やーね」
「いいのよ、ゴメンね。藤間、翔太君て言うの?いい名前ねえ~」
「あ、はい」
「やめなさいよ」
「ほら、ビビッちゃってるじゃないの」
「生ビールのピッチャーまだ?」
「コーラフロート」
「あさりのバター炒め、こっち」
「ネバネバサラダあんたじゃないの」
「タンバリンてあるの?別料金?」

「藤間って、藤間建設さん?」
「何、詳しいの」
「この辺、藤間不動産なのよ。夢トピア。藤間グループ」
「あ、そうそう」
「ちょっとマイク取って」
「そんなわけないでしょう。ゴメンね~」
「いえ、いいんです」
「駅前の高層マンション、あれもそうよ。藤間建設」
「ライムってあるかしら?」
「聞いてるの」
「うるさいわね~ このオバちゃん達は」
「君いくつ?」
「やめなさいっての」
「ごめんなさい。この天井のカラー何とかってのどうやって使うの」
「さっき説明したじゃない。ライティングでしょ」
「私は藤間君に聞いてるの」
「ありがとう。もういいわよ」
「あらまあ、失礼ねー」
「いつでも呼んで下さいね」
翔太は微笑んだ。
「ありがとう。可愛いわね~」
「ねえ、いくつ?」
「こーら」

「あなたのところもすぐあんなに大きくなるわよ」
「そうよね」
「そのうち彼女を連れてくるわ」
「イヤ~!やめて」
「女なんて寄り付かせないわ」
「言えてる」
「ブッ殺す」
「こわー」
「次、これ!これよろしく~」
「自分でやりなさいよー」


調理場に戻った翔太はオーブンの中のピザの具合をみた。
「吾郎さん。すげーテンションでしたよ」
「だろ。あの人ら。溜まってっから」山岸吾郎が笑って答えた。
「あ、ちきしょう。わりー、翔太、大根擦ってくれ」
「スタンバイ適当すね」
「ったくなー。ところで翔太。一人暮らし慣れたかよ?」
「はあ、まあ何とかやってます」
「ちゃんと食えよ。店で食ってるだけじゃダメだぞ」
「あざっす」
「今夜どうする。俺んち来るか」
「何でしたっけ」
「馬鹿。エロビだよ。スゲーの見せてやんぜ?」
「いや、いっすわ。あの吾郎さん」
「なんだー。アッチ!」
「昔って、どのくらい昔なんすかね」
「なんだそりゃ」
「十年ひと昔つーじゃないですか」
翔太は焼き上がったピザにバジルの葉を載せた。

「十年ならまだまだだろ。百年なら昔だな。何でだ」
「もっと最近なら?」
「昔々ある所に、ってのは何千年も昔だな」
「昔の事は許されるんすかね」
「法律的にか。そだな。時効があるくらいだからな」
「時効かあ」
親父の浮気は時効なんだろうかと翔太は考えていた。
「時効的な事がなきゃみんないつまでも罪を背負ってかなきゃなんないだろ。何だ。お前なんかやらかしたのか」
「やらかしませんよ」
「人が覚えてりゃ昔とは言わねえだろ。人の噂も75日つーだろ。噂話なんてのは適当なんだよ」
「なるほどー」
「何だよ翔太。変な宗教にはまるなよ?」
「そういうわけじゃないんですけどね」

「でもみんな昔を思い出す時があるんだよ」
「へ?」
「良い事も悪い事もな。そういうのがないとさ、人生つまんねーだろう」
「そういうもんすかね」
「そういうもんさ」
「なんか吾郎さん、カッコいいすね。何で彼女いないんすか?」
「ほっとけや。アッチー!!」

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