SHOTA

MIKAN🍊

文字の大きさ
上 下
3 / 46

3.ペパーミント・ルーム

しおりを挟む
ピンクのポロシャツとベージュの短パンに着替えてホールに出ると、70年代ディスコのノンストップメドレーが流れていた。
受付裏のスタッフルームに飛び込み、勤怠システムにログイン。
「おはよう。翔太」
「ギリギリセーフ」
「翔太君、おはよう」
「ふう、間に合った」
「おっはよう」
「おはよう」
「遅刻一回で一ヶ月トイレ掃除だからなあ」
「あれは最悪」
「俺の時なんてさ、中国人の団体客ばかりでさー」
「もういいよその話しは」
「ありゃあ参った」
「お前も一回経験しとけよ」

翔太は部屋の空き状況を確認しながら手のアルコール消毒をした。
「店長は今日も休み?」
「マダムヤンと温泉旅行」
「まじ?また女変えたの」
「何で店長ってモテるんだろ」
「口が上手いのか、それともアレがデカイのか」
「キモイわね、やめてよ」
「店長はさ、チャーハン作るのが上手いんだよ」
「なんだそれ」
「店長の車、車検切れてんの知ってる?」
「まじかよ」
「馬鹿。料理が出来る男つーのはモテるんだぜ?店長のチャーハン一度食ってみ」
「そうなの?」
「お前のピザは最悪だ」
「だからモテねえんだな」
「うるせーわ」
「いつ食ったんだよ。俺も食いてえ」

「ペパーミントルーム入ってんの?」翔太は訊いた。
「残念~ 麗しの彼女じゃないよん」
「誰それ」
「え、知らないの。翔太の憧れの人」
「知らない知らない。教えて」
「そんなんじゃないよ」
「お、怪しいなあ」
「どんな人なの?」
「なあ翔太いいだろう。ポニーテールの年上の人」
「わかんなーい」
「ペパーミントルームしか使わないんだ。滅多に来ないけどな」
「へえ~ 隅に置けないね」
「違うってば」
「名前はね~」
「やめろっての」
「なになに?」

インタホンが鳴ってキッチンから怒鳴り声がした。
「おい、オーダー来てんぞ!誰か早く来い!」
「なんだ。何テンパってたんだ?」
「吾郎だよ、また試験落ちたんだよ」
「また?まじ?」
「だから合宿にしろつったんだよ」
「免許の話しはやめとけよ」
「さーて、いこかー」
「翔太、お前何時まで?」
「22時まで」
「なんだそりゃ」
「高校生ですから」
「関係ねえ。朝までやれ」
「考えときます」
「しゃあー!」


ペパーミントルームは団体客専用の部屋だ。
一曲目を歌ったのは安西保子だった。いきなりのロックンロール。
拍手喝采。
「すごーい。上手ね!」
「モノマネ選手権に出れるわよ」
「はあ~。スッキリした」
保子はスーツの上着を脱いでシャツのボタンを外した。
「暑いわ。エアコン何度?」
「待って」
「ドリンク注文する前に歌っちゃう人、初めて見た」
「あれ、普通歌わない?」
「時間との勝負だからね」
「あなた、食べ放題の店でも同じ事言ってなかった?」
「今日の保子さん、ヤバイわよ」
「さあオーダーしましょう。歌いたい人はどんどん入れて。これに飲み物と欲しい物書いて」
真樹子はナフキンとボールペンを回した。

天井から大きなミラーボールがぶら下がっていた。

しおりを挟む

処理中です...