SHOTA

MIKAN🍊

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1.序章

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新興住宅地というのはある種閉鎖的である。
街並みは美しく、電柱は少ない。廃墟や雑木林もない。
緑道や公園はよく管理整備されていて四季の花々を楽しめる。
安全面では防犯カメラがあちこちに設置されている。不審者情報は地区の役員を通してたちまち最寄りの交番に通報される。
夜間は週末や夏休みを重点的にミニパトが巡回してくれる。
学校は新しく、個人病院やパン屋にケーキ屋、ファストフード店、大型スーパーやホームセンターもあって生活するには便利だ。
それでも新興住宅地はある種閉鎖的だ。
一見開放的でも冷ややかな側面がある。
見た目は和やかで平和そのものだが、闇が潜んでいる。
同じ様な年代の者が集まるからだろうか。変なところで自意識過剰であり、競争意識が高い。
欠席裁判ではないけれど、会合などではその場に居ない人の話題が必ず出る。良い噂、悪い噂…。家族構成から経済的な話し、秘密の男女関係。特にお金にまつわる話しには事欠かない。
新しく家が建つたびに人々は越して来る者をあれこれ想像しながら、表札のまだ無い家の前を通り過ぎる。
一昔前なら新築戸建てに住めるのは、一流商社や一部上場企業の勤め人と相場が決まっていた。
住宅ローンが組み易くなった現在では様々な職業の人間がやって来ては去ってゆく。
ほんの数年で家主が代わりいつの間にか売りに出されている家も少なからずある。
念願だったはずのマイホーム。どんな事情があって手放したのか。
お金が有り余っていて次から次に住処を変えるのが趣味なのか。
経済的な事情か、その土地の水に合わなかったのか。それともオバケが出るのか。新興住宅地ならではの特殊な理由があるのかも知れない。

新興住宅地には火事が多い地域もある。交通事故が多発する交差点等も。
それが偶然なのかどうかはわからない。
住めば都という諺もある。新しい発見もあるだろう。
近隣に住む者達と良好な人間関係さえ築ければ、新興住宅地の住み心地はまんざら悪くない。


カラオケアメニティー『らうどねす』は首都圏で随一の店舗数・売上を誇るメガカラオケチェーン店だ。
レストランと合体型のリゾート風でオシャレなカラオケボックスは、中高年から若年層まで幅広い支持を獲得。
カラオケ・コミュニティーは飲食業界のトップを走る産業に成長した。

営業形態は午前10時から翌朝5時までのAタイプと24時間フルタイム営業のSタイプの二種類。
桜西地区に先頃オープンした店舗はAタイプだ。新興住宅地という立地を考慮したものと見られる。

従業員は全員インカムを装着し、高い機動性とホスピタリティで業界屈指の客室稼働率と高客単価をキープしている。
従業員の高いモチベーションを維持しているのは『らうどねすボーナス』だ。
『らうどねすボーナス』は『ボンボヤージュ』という顧客サービス向上管理システムで管理され、個人に貸与されたIDカードとオンラインでいつでも本部システムとアクセス可能。
最新鋭のPOSレジと連動しているカードリーダーを使えば、スタッフ個人の月間セルフプロデュースプランと週間自己診断カルテを総合したスキル管理が出来るという仕組みだ。
『らうどねすボーナス』が、従来の外食産業における労働力の評価方法と画期的に異なる点は…

以下、略。

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