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 部活仲間に、堂々といちゃいちゃして恥ずかしくなる時はないのかと聞かれたことを、ラプス様に話したら、人目のつかない場所でいちゃいちゃしようということになった。
 学園内で生垣が高くて人の出入りが少ない庭園のベンチでラプス様と二人きり、静かにお話をする。趣向が趣向だから、シュガールさんとティズには少し離れた所に居てもらうことにした。
 雪は降っていなくとも冬の冷気はやっぱり肌寒いと、広いベンチでラプス様と身体をくっつけて座る。
 ラプス様とのファーストキスの後すぐに、ラプス様の提案で、僕はラプス様と毎夜共寝をしている。添い寝から始まり、抱き締め合って眠って、肌の直接の触れ合いも重ねて来た。
 だから、ベンチでぴったり寄り添うのも今では慣れたものだ。
 こうして当たり前にラプス様とくっついていられることが幸せ過ぎる。
「アルグ、身体を冷やさないようにもっと近付いてもいいんだぞ」
「これ以上くっつこうと思ったら、ラプス様と僕一つになっちゃいますよ」
「俺はアルグと一つになりたいと思っているよ」
 ラプス様に熱の籠もった甘い表情と声で言われて、身体が沸騰する。
 もっ、もしかして、夜のお誘いかな!?えっちな触れ合いは毎夜してるけど、最後までしたいっていう、そういうことかな!?
 いよいよ!?いよいよなのかな!?
「僕も、ラプス様と一つになりたいです」
「嗚呼っ!俺の可愛いアルグ、同じ気持ちで嬉しいよ」
 頬に手を添えられ、キスをする。
 幸せ。信じられないくらい幸せだなぁ。
 今夜最後までするのかな?ベッドに入る前に準備しておいた方がいいかな?準備してたらラプス様喜んでくれるかな?それとも、準備のところからラプス様がされたいって思われるかな?し、したいって言われたい・・・!
 き、聞いてみようかな。
「ラプス様、お耳をお貸ししていただけますか?」
「嗚呼、もちろんいいぞ」
 人気はないとは言っても、万が一誰かが通って聞かれたりしちゃいけない。お顔をこちらに傾けてくれたラプス様に耳打ちで囁く。
「今夜、ベッドに入る前に、僕後ろ準備していきましょうか?」
 ラプス様の方がビクッと震えて、耳が紅くなる。嗚呼、ラプス様が僕とのその先の行為を想像してくださってる。ドキドキしながら、質問を続ける。
「それとも、ラプス様がされますか?」
 頬を紅くして、ラプス様がゆっくりとこちらを振り向かれる。熱と欲が溶け込んだ瞳が僕を凝視している。この視線だけで身体が沸騰してしまいそうな心地になる。
 耳から離れて、それでも至近距離で、僕は出来るだけ小さな声でラプス様と見つめ合いながら言葉を続けた。
「僕がラプス様を受け入れるための準備をされますか?」
 ゴクリ、とラプス様が生唾を飲み込む音がした。お顔が真っ赤だ。
 ラプス様の頭の中の僕はどうなってるんだろう。早く、早く現実に、僕自身にその甘く熱い欲望が届かないかな。
「全部、俺がやる」
「はい」
 嗚呼!嬉しい!僕の今の顔、たぶん嬉しさが溢れ出てる。隠さなきゃいけないことなんてないから、別にいいよね。ラプス様も返事をした僕を見て、笑みを深くしてくださったし。
 ラプス様のお顔が耳元に移動し、今度は僕が囁かれる番になった。
「俺がアルグの中に入る時にアルグが辛くないように、数日かけてじっくり準備をしよう」
「は、はいぃ」
 甘い声が全身に響き渡って、脳まで痺れる感覚だ。しばらく身動きがとれそうにない。
 焦らしプレイを宣言されちゃった。もう、今日一日絶対ドキドキが止まらない。この後の授業、まともに受けられるかな。
「何なのもう!!全然上手くいかないじゃん!!」
「「!?」」
 突然聞こえてきた怒声に、ラプス様と僕は向かい合ったまま目を見開いて驚き固まる。
 甘い空気は、悲しむ間もなく一瞬にして消え去った。
「ブルースとルフナしか上手く行ってないじゃん!ラプサンスも楽勝かと思ったら、なんか悪役令嬢と仲いいし!ダージリンは女装してて、ニルギリなんか結婚してるんだけど!」
 聞き覚えのある声がラプス様を呼び捨てにしていて苛立つ。声の主は、ラプス様の後ろの生け垣の向こうにいるようだ。
 存在を悟られないように、ラプス様と僕は息を潜めた。
「ハーレムエンドじゃなきゃ隠しキャラが出ないからこうやって頑張ってるのに!」
 遠い記憶の中で聞いた言葉を少女が叫んでいる。地団駄を踏んで暴れているかと思ったら、ふっと一息吐いて静かになる。
「まぁ、簡単にゲームクリア出来たらつまんないし、このくらいはハンデみたいなもんでしょ。ヒロインはどうやったってハッピーエンドになるんだから」
 感情の昂りを急に沈めた少女は、まるで自分は全てを理解しているとでも言っているかのように、悠々と語る。その口振りは、この世界が何かの物語であるかのようだ。
「キームンはちゃんと悪役令嬢っぽいんだけど、アールグレイがねぇ・・・こっちは男装してて、意味分かんない。ま、悪役令嬢は所詮悪役令嬢だし、アールグレイくらいどうせすぐに排除出来るでしょ」
 不穏な言葉にここだけ空気が固まる。ラプス様の表情が険しいものになる。
 子爵令嬢が侯爵令息を簡単にどうにか出来るはずもないのに、自身の力を確信しているかのような声だ。
「私はヒロイン。この世界の男は全員私の虜になるように出来てるんだから」
 更に少女は、気味の悪い自信を平然と口にした。彼女は本当に現実を生きている人間なのだろうか。
「もう一回ニルギリのとこに行こうっと」
 陽気な声を発した後、足音が遠く離れていく。足音が確かに聞こえなくなったと確認すると、身体から力が抜けた。
「アルグ大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます、ラプス様」
「今のは誰だ?」
「カフェリオ令嬢でしたよ」
「確か、要注意人物ってことだったな」
「はい」
 ラプス様、まだカフェリオ令嬢のことを覚え切ってなかったんだ。ラプス様があの令嬢のことを認識していくことがどこか怖く感じてしまう。
 彼女の奇妙な様子を見聞きする度に、今生きているこの現実が、誰かに作られた物語に飲み込まれてしまうだなんて馬鹿げた話に恐れを抱いてしまっている。
 なんて悪い影響の受け方だろう。僕の心はこんなにも弱々しかったのか。よく思い出せば、少し前までは、ラプス様に関しては、泣き言ばっかりだったな。
「今聞こえてきた話だけでも、問題を起こすだろうことは十分予測出来るな」
「そうですね」
「何よりアルグに危険が及ばないか心配だ」
「ラプス様・・・」
 空想の域を出ない話に怯えて、僕はラプス様の御心を疑い続けるつもりなのだろうか。ラプス様は、こんなにも僕のことを想ってくれているのに。
「婚約者がいる者と懇意にして揉めている時には、ただの友人だと主張しているらしいが、今の話からすると全て意図的に関係を築いているようだな」
「婚約者がいる人にということで問題となっていましたけど、まさか既婚者にまでとは」
「色目を使うなという注意は真っ当だったわけだ」
 カフェリオ令嬢の発言から考えると、彼女は僕達と同じ名前の登場人物が描かれている物語のことを知っていて、その物語について僕よりずっと詳しいみたいだ。きっと彼女にも前世の記憶があって、その記憶は僕よりも鮮明なものなんだろう。
 さっき挙げられた名前は、恐らく全員物語の登場人物だ。ヒロインは王族ではないのに重婚出来るかのような口振りだったのが気になる。物語の詳細を思い出すつもりもないし、この世界と前世の世界は色々と条件が違うみたいだから、その違いからくるものかもしれない。
「ラプス様もカフェリオ令嬢の標的のお一人みたいですね」
「のようだな。まぁ、何かあっても俺は目障りに感じる程度で済むだろうが、アルグは攻撃をされる可能性があるかもしれない。それが心配だ」
「僕はラプス様と愛し合えるのなら、他に何があっても平気ですよ」
 思っていることを正直に伝える。重い、なんて思われるかな。大げさだと笑われるかな。心からそう思ってる。ラプス様が居てくだされば、地獄だって生き抜いていける自信がある。ラプス様を地獄にお連れしたいわけじゃないんだけどね。
「俺の可愛いアルグ、俺もアルグと愛し合えるならどんな苦難に見舞われたって構わない」
「ラプス様・・・」
 想いが通じ合ってから、ラプス様はずっと真っ直ぐ僕を愛してくれている。本当は通じ合う前から、僕達は相思相愛だった。
 何を怯える必要があるんだろうか。現実の見えない人間に、成せることなどあるはずもない。
「夜までまだまだ時間があるのが口惜しい」
「はうっ」
 切ない声で頬にキスをされ、お腹の奥がキュンとうずく。胡散してしまった甘い空気が熱と共に蘇る。今夜から僕、どうなっちゃうんだろう。
「あの令嬢については早目に手を打っておこう。俺とアルグの大事な時間を邪魔されてはいけない。それに、もうすぐシュエグ王子が来国するからな」
「そうですね。ジンジャー王女のこともありますし、片付けられることは早く片付けておきましょう」
 ラプス様と共にあれるこの幸せを、決して誰にも壊させたりしない。
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