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虜囚
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欲望しかない街よね。
そんな言葉を吐き捨てるように言うと、イゼッタはまだ片付けていなかった公務へと取り掛かる。
「明日でもよいかと」
「いいのよ、これくらい……仕事があった方がお父様たちの死を忘れられるから」
「はっ……」
一階の奥にある執務室へと部屋着に着替えて足を運ぶと、普段のデスクワークが待っていた。
王子ナルシスに対する愛情とか、憐憫の情なんてイゼッタはこれっぽっちも持ち合わせていない。
むしろあの浮気男がさっさと死ねばいいのに、といつも思っているほどだ。
女官長や他の女官にしてもそう、自治区に行けば飲む・打つ・買うの三拍子そろってしまうほどのダメ男にして王国随一の遊び人。
まだそれでも政治や武勇に秀でているなら、眉目秀麗とか、イゼッタにだけにしか見せない一面があるとか。そんなものがあれば、まだ良かったのに。
あいにくとあの肥大化した豚のような男はプライドも肥大化しすぎていて王子という特権が無ければいつ殺されてもおかしくない。
そんな程度には国民や関係者からも嫌われていた。
そして――両親からも。
「こんなものかしら」
それから数時間かけて書類を片付けると、イゼッタは書庫へと通じる扉をそっと開く。
二週間。
音沙汰もなかったあの男がいきなり寄越した手紙が、自分に初めて恥も外聞捨てて頼んできた内容が命乞いだったなんて。
「……ま、ここまでは計画通りよね? ねえ、殿下?」
持ってきた手持ちのランタンから室内におかれたそれに火を灯したイゼッタは、貴族の邸宅ならどこにでもあるはずの牢屋……家人や領内で犯罪者が出た時や、屋敷を砦として利用するような者たちならしつらえているそこを照らし出した。
二週間、水とパンだけでも人は生きる物なのね。
このまま黙って消えてくれたらいいのに。
そう思い、見下すそこには手足につないだ錠に壁から伸びた鎖がつながっている男が一人。
栄養が足らず、飼い殺し状態になっている王子ナルシスがそこにはいた。
そんな言葉を吐き捨てるように言うと、イゼッタはまだ片付けていなかった公務へと取り掛かる。
「明日でもよいかと」
「いいのよ、これくらい……仕事があった方がお父様たちの死を忘れられるから」
「はっ……」
一階の奥にある執務室へと部屋着に着替えて足を運ぶと、普段のデスクワークが待っていた。
王子ナルシスに対する愛情とか、憐憫の情なんてイゼッタはこれっぽっちも持ち合わせていない。
むしろあの浮気男がさっさと死ねばいいのに、といつも思っているほどだ。
女官長や他の女官にしてもそう、自治区に行けば飲む・打つ・買うの三拍子そろってしまうほどのダメ男にして王国随一の遊び人。
まだそれでも政治や武勇に秀でているなら、眉目秀麗とか、イゼッタにだけにしか見せない一面があるとか。そんなものがあれば、まだ良かったのに。
あいにくとあの肥大化した豚のような男はプライドも肥大化しすぎていて王子という特権が無ければいつ殺されてもおかしくない。
そんな程度には国民や関係者からも嫌われていた。
そして――両親からも。
「こんなものかしら」
それから数時間かけて書類を片付けると、イゼッタは書庫へと通じる扉をそっと開く。
二週間。
音沙汰もなかったあの男がいきなり寄越した手紙が、自分に初めて恥も外聞捨てて頼んできた内容が命乞いだったなんて。
「……ま、ここまでは計画通りよね? ねえ、殿下?」
持ってきた手持ちのランタンから室内におかれたそれに火を灯したイゼッタは、貴族の邸宅ならどこにでもあるはずの牢屋……家人や領内で犯罪者が出た時や、屋敷を砦として利用するような者たちならしつらえているそこを照らし出した。
二週間、水とパンだけでも人は生きる物なのね。
このまま黙って消えてくれたらいいのに。
そう思い、見下すそこには手足につないだ錠に壁から伸びた鎖がつながっている男が一人。
栄養が足らず、飼い殺し状態になっている王子ナルシスがそこにはいた。
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