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月の光
01_演奏会
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風が吹き抜けるように、時はあっという間に過ぎ去り、演奏会の日がやって来た。
朝早くに、演奏を行うロンドン街のコンサートホールまで移動した。コンサートホールは、タイムベルの舞台より一回り大きい。多くの人たちが座れるように椅子が並べられていた。周囲の壁も、音が響くように、特異な構造をしている。まさに、本番にふさわしい場所だ。
僕は、演奏会で何かを演奏するわけではなく、コンサートホールの観客として、みんなの演奏を聞くことになっている。
「ついに、この日が来たな!待ちわびたぜ」
コンサートホールの舞台裏で、狼男アウルフは、頭の後ろで手を組みながら、言った。
「そうだな、私たちの日頃の練習の成果を、聞いてもらえる日だ。落ち着いて、演奏をしよう」
ライオン男ライアンは、力強い声でそう言うと、右手をみんなの前に出した。まずは、蛇女ムグリが、彼の手の上に手をのせ、言った。
「演奏会は人々と、私たち半獣が、唯一、ひとつになれる貴重な場所。失敗は許されないわね」
「ああ、全力でやりきろう」
象男ファントムも、そう言って、手をのせる。
「ちっ......」
狼男アウルフも、照れながらも、手をのせた。みんなで一丸となって、今日の演奏会を成功させようとする気概が伝わってきた。
僕が、そんな彼らの様子をじっと見ていると、狼男アウルフが、鋭い目付きでこちらを見て、言った。
「何してる!お前もささっと、手をのせろ!」
予想外の言葉に、飛び上がりそうになる。
「でも......僕は、演奏する訳ではないですし」
遠慮ぎみに、僕が言うと、蛇女ムグリは、優しい声で言った。
「いいのよ、あなたは、もう私たちの一員よ。さあ、あなたも手をのせて」
「そうだ、遠慮することはない。私たちの輪に加わってくれ」
ライオン男ライアンも、輪に加わるように言ってくれた。
「ありがとうございます!」
僕は、彼らの元に行き、輪に加わると、手を置いた。そして、その直後、ライアンの渾身の掛け声が響き渡る。
「絶対に、今日の演奏会を成功させるぞ!!!」
「うぉおおおーー!!!」
鼓膜が破れそうになるくらい強烈なライアンの一声に負けないくらいの声を出して、僕たちの演奏会の日は始まりを迎えた。
どれだけの人たちが彼らの演奏会に来るのか全く想像ができなかった。みんなが奏でる旋律は、刺激的で繊細で、それでいて美しい音色だ。きっと彼らの音楽は観客の心を揺さぶるはずだ。
どれほど、演奏が良くても、知られていなければ、人々の心を打つことはない。どれだけの人が、彼らの演奏の素晴らしさを知っているのか、僕は気になっていた。
コンサートホールの入場時間になると、想像を越える数の人々が、流れ込むように次から次へと入ってきた。人々の後ろの方を見ると、行列ができ、まだまだこの勢いは続きそうだった。たちまち、コンサートホールは、満席状態になり、人々の楽しげに話す声があちらこちらから聞こえた。どうやら、観客の心配は無用だったようだ。
コンサートホールの照明が消えて、暗くなると、楽しげに会話していた人たちが口を閉じた。暗闇に包まれたコンサートホールは、静寂に包まれる。
(始まる)
ライトが、みんなを照らした。
ーーそして、彼らは、楽器に、指をやり、奏で始める。
直後、美しく、繊細ながらも、どこか力強さと刺激のある旋律が、観客を優しく包み込んだ。観客は皆、心揺さぶられ、彼らの演奏を聞き入っていた。半獣である彼らが、こんなにも人々の心を動かしている。その事実が、何より嬉しかった。
僕も、彼らの演奏ができるようになりたいと、心から思った。そのためには、練習も経験もすべてが足りない。でもいつか、必ず、この舞台で演奏してみせる。
僕は、観客の最前席に座り、彼らの音楽に酔いしれて、椅子の肘掛けに手を置いたところ、隣の人の手にたまたま、触れ合ってしまった。
「す、すみません!?」
「す、すみません!?」
僕と隣の人の声が重なった。
隣に座っていたのは、女性のようだった。女性の手と触れ合ってしまい、恥ずかしくて顔を赤らめてしまった。なんとなく、馴染みのある雰囲気を感じた。一緒にいると、暖かくて、心地よい気持ちになる。心臓が高ぶって仕方がない。
(僕は、隣の女性を知っている。誰だ)
僕は、徐に隣の女性の顔を見た。舞台のライトに照らされた彼女の顔を見て驚愕した。
「ジーナ......」
彼女の名前が、自ずと口から出ていた。すると、その声を聞いて、ジーナも、こちらを向いた。
「鬼山くん......」
一瞬、暗がりのコンサートホールの中、ライトに照らされながら、二人が見つめ合う状態になった。
ブーーー。
演奏会の終わりを告げるブザーが、コンサートホール内に鳴り響いた。舞台の垂れ幕が下がっていく。
朝早くに、演奏を行うロンドン街のコンサートホールまで移動した。コンサートホールは、タイムベルの舞台より一回り大きい。多くの人たちが座れるように椅子が並べられていた。周囲の壁も、音が響くように、特異な構造をしている。まさに、本番にふさわしい場所だ。
僕は、演奏会で何かを演奏するわけではなく、コンサートホールの観客として、みんなの演奏を聞くことになっている。
「ついに、この日が来たな!待ちわびたぜ」
コンサートホールの舞台裏で、狼男アウルフは、頭の後ろで手を組みながら、言った。
「そうだな、私たちの日頃の練習の成果を、聞いてもらえる日だ。落ち着いて、演奏をしよう」
ライオン男ライアンは、力強い声でそう言うと、右手をみんなの前に出した。まずは、蛇女ムグリが、彼の手の上に手をのせ、言った。
「演奏会は人々と、私たち半獣が、唯一、ひとつになれる貴重な場所。失敗は許されないわね」
「ああ、全力でやりきろう」
象男ファントムも、そう言って、手をのせる。
「ちっ......」
狼男アウルフも、照れながらも、手をのせた。みんなで一丸となって、今日の演奏会を成功させようとする気概が伝わってきた。
僕が、そんな彼らの様子をじっと見ていると、狼男アウルフが、鋭い目付きでこちらを見て、言った。
「何してる!お前もささっと、手をのせろ!」
予想外の言葉に、飛び上がりそうになる。
「でも......僕は、演奏する訳ではないですし」
遠慮ぎみに、僕が言うと、蛇女ムグリは、優しい声で言った。
「いいのよ、あなたは、もう私たちの一員よ。さあ、あなたも手をのせて」
「そうだ、遠慮することはない。私たちの輪に加わってくれ」
ライオン男ライアンも、輪に加わるように言ってくれた。
「ありがとうございます!」
僕は、彼らの元に行き、輪に加わると、手を置いた。そして、その直後、ライアンの渾身の掛け声が響き渡る。
「絶対に、今日の演奏会を成功させるぞ!!!」
「うぉおおおーー!!!」
鼓膜が破れそうになるくらい強烈なライアンの一声に負けないくらいの声を出して、僕たちの演奏会の日は始まりを迎えた。
どれだけの人たちが彼らの演奏会に来るのか全く想像ができなかった。みんなが奏でる旋律は、刺激的で繊細で、それでいて美しい音色だ。きっと彼らの音楽は観客の心を揺さぶるはずだ。
どれほど、演奏が良くても、知られていなければ、人々の心を打つことはない。どれだけの人が、彼らの演奏の素晴らしさを知っているのか、僕は気になっていた。
コンサートホールの入場時間になると、想像を越える数の人々が、流れ込むように次から次へと入ってきた。人々の後ろの方を見ると、行列ができ、まだまだこの勢いは続きそうだった。たちまち、コンサートホールは、満席状態になり、人々の楽しげに話す声があちらこちらから聞こえた。どうやら、観客の心配は無用だったようだ。
コンサートホールの照明が消えて、暗くなると、楽しげに会話していた人たちが口を閉じた。暗闇に包まれたコンサートホールは、静寂に包まれる。
(始まる)
ライトが、みんなを照らした。
ーーそして、彼らは、楽器に、指をやり、奏で始める。
直後、美しく、繊細ながらも、どこか力強さと刺激のある旋律が、観客を優しく包み込んだ。観客は皆、心揺さぶられ、彼らの演奏を聞き入っていた。半獣である彼らが、こんなにも人々の心を動かしている。その事実が、何より嬉しかった。
僕も、彼らの演奏ができるようになりたいと、心から思った。そのためには、練習も経験もすべてが足りない。でもいつか、必ず、この舞台で演奏してみせる。
僕は、観客の最前席に座り、彼らの音楽に酔いしれて、椅子の肘掛けに手を置いたところ、隣の人の手にたまたま、触れ合ってしまった。
「す、すみません!?」
「す、すみません!?」
僕と隣の人の声が重なった。
隣に座っていたのは、女性のようだった。女性の手と触れ合ってしまい、恥ずかしくて顔を赤らめてしまった。なんとなく、馴染みのある雰囲気を感じた。一緒にいると、暖かくて、心地よい気持ちになる。心臓が高ぶって仕方がない。
(僕は、隣の女性を知っている。誰だ)
僕は、徐に隣の女性の顔を見た。舞台のライトに照らされた彼女の顔を見て驚愕した。
「ジーナ......」
彼女の名前が、自ずと口から出ていた。すると、その声を聞いて、ジーナも、こちらを向いた。
「鬼山くん......」
一瞬、暗がりのコンサートホールの中、ライトに照らされながら、二人が見つめ合う状態になった。
ブーーー。
演奏会の終わりを告げるブザーが、コンサートホール内に鳴り響いた。舞台の垂れ幕が下がっていく。
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