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軋轢と乖離
01_消えぬ欲望
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壮大でどこか温かさを感じさせる半獣たちの演奏を聞いた後、暗闇に染まった道をなぞりながら、家に帰った。今でも、彼らの奏でる旋律が頭で何度も再生され離れなかった。
部屋の中で、彼らの旋律の余韻に浸っていると、蛇女ムグリからもらった白蛇が、瓶の中で蠢く音がした。
僕には、心を許しているようだけど、一緒に家に住んでいる家族に危害を及ぼす可能性はあった。白蛇の牙には、人を簡単に殺傷できるほどの猛毒を持っているのだ。
白蛇には不便をかけて申し訳ないけれど、家のなかを移動しないように瓶の中にいれ、さ迷わないようにした。家族に見つかると、面倒なので、瓶は目につかないところに、隠してある。
僕は、この白蛇に名前をつけることにした。
ーートッドピッド。
ふと、頭のなかで浮かんできた名前だ。特に意味もなく、なんとなくトッドピッドという名前の響きが良かったので、特に悩まずその名前をつけることにした。
###
どんなものにも、どんな人にも、必ず出会いがあり、そして、別れが来る。
最近、不意に、周りにいる大切な人たちがどこか手の届かない遠くまで行ってしまうのではないかという感情に苛まれることがある。必死に大切な人たちの背中に向かって手を伸ばしても、僕の手はいつまでも届かない。そんな、しんみりとした虚無感が襲う。
ーー当たり前だ。
離れて行ったのは、周りではなく、僕自身なのだから。半獣化が進むにつれて、徐々に自分が日常の延長線上から、逸脱していくのを感じていた。
ぐぇえええ。
やはり、今日も、朝食を食べることができなかった。せっかく、母親に作ってもらったのに、トイレに行き、お腹に入れた食事を激しく嘔吐してしまった。相変わらず、体が異物と判断して拒絶してくる。
朝はお腹に入らないから、母親に朝食は作らなくていいと伝え、家を出て学校に向かった。食事をする時が、一番、厄介だが、なんとか食事を避けて、生活していくしかなかった。
(どうして、こんな生活を強いられなければならないんだ)
正直、惨めな気持ちになったが、なってしまったことは仕方がないと気持ちを落ち着かせて平常心を保った。
体の変化以外は、ごく普通の日常だ。大丈夫だ。このまま、いつもの風景に身をまかせて、慣れていけばいい。そうすれば、今の日々もきっと日常になる。
いつものように学校に行き、僕は、机に肘をつき、教室の窓から青く澄んだ空を眺めた。
「鬼山、最近、付き合い悪くないか?何か、あったのか?」
アルバートが、最近の僕の様子を心配して話しかけてきた。
「いや、別に何もないんだ......」
僕は、半獣になることを黙ったままだった。一時期は、アルバートに相談してみようかと考えたが、アルバートは、半獣になることを強く望んでいた。僕が、半獣になってしまったことを知れば、僕たちの友情にひびが入るように感じた。
「ならいいけどよ。そう言えば、聞いたか、また、変死体が見つかったみたいだぜ」
「そうなんだ。獣の毛が、生えた死体なの?」
僕がそう聞くと、アルバートは首を横に振った。
「今度は、全身の血が抜かれた死体が三体も見つかったようだ」
「三体も......」
半獣の仕業に思えた。血を抜かれていたのは、半獣が血を啜ったからではないだろうか。僕は、口から溢れ出た涎をすすった。
「ああ、河川敷のちょうど橋がかかっているところで死体が見つかったらしい。どうだ、二人で今日そこに行ってみないか?」
「危ないよ!おそらく、半獣がらみの事件だと思う。前に、半獣がらみのことには関わらない方がいいと言ってたじゃないか」
僕は、アルバートに危険な目にあってほしくなかった。半獣に襲われれば、人間であるアルバートの命は一瞬で刈り取られてしまう。親友を失ってしまうと考えるだけで、胸が抉られるように苦しくなる。
「ああ、言ったな。だが、その時は、その時だ。今は、気が変わったんだよ」
僕は、両手で机を強く握る。木製の机は、僕の手に握られて、軋んだ悲鳴を上げた。
「死体の場所に行くのは、やっぱりだめだ。半獣に襲われるかもしれない!」
「なら、俺一人で行く」
「そんな......」
アルバートの半獣に対する興味は、まだまだ冷めてはいなかった。なんとしても、変死体が見つかった場所に行こうとするだろう。それならば、いっそのこと......。
「アルバートが一人行くなら、僕も、行くよ」
僕は、顔をあげ、まっすぐアルバートの方を見た。
「そうか、じゃあ、決まりだな」
アルバートは、僕の言葉を待っていたとばかりに言った。
「なんか、誘導された感じだな......」
「お前なら、ついてきてくれると思ったぜ。どうする。実際のところ、俺一人で行ってもいいんだぜ」
「行くよ。僕も気になるし」
僕たちは、変死体が見つかった河川敷へと足を踏み入れることになった。アルバートには、危険な目にあってほしくない。彼を失いたくはなかった。僕のエゴかもしれない。だけど、アルバートが危険な所に行くのに、親友として黙って見ていられない。いざとなったら、アルバートを僕が守る。
部屋の中で、彼らの旋律の余韻に浸っていると、蛇女ムグリからもらった白蛇が、瓶の中で蠢く音がした。
僕には、心を許しているようだけど、一緒に家に住んでいる家族に危害を及ぼす可能性はあった。白蛇の牙には、人を簡単に殺傷できるほどの猛毒を持っているのだ。
白蛇には不便をかけて申し訳ないけれど、家のなかを移動しないように瓶の中にいれ、さ迷わないようにした。家族に見つかると、面倒なので、瓶は目につかないところに、隠してある。
僕は、この白蛇に名前をつけることにした。
ーートッドピッド。
ふと、頭のなかで浮かんできた名前だ。特に意味もなく、なんとなくトッドピッドという名前の響きが良かったので、特に悩まずその名前をつけることにした。
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どんなものにも、どんな人にも、必ず出会いがあり、そして、別れが来る。
最近、不意に、周りにいる大切な人たちがどこか手の届かない遠くまで行ってしまうのではないかという感情に苛まれることがある。必死に大切な人たちの背中に向かって手を伸ばしても、僕の手はいつまでも届かない。そんな、しんみりとした虚無感が襲う。
ーー当たり前だ。
離れて行ったのは、周りではなく、僕自身なのだから。半獣化が進むにつれて、徐々に自分が日常の延長線上から、逸脱していくのを感じていた。
ぐぇえええ。
やはり、今日も、朝食を食べることができなかった。せっかく、母親に作ってもらったのに、トイレに行き、お腹に入れた食事を激しく嘔吐してしまった。相変わらず、体が異物と判断して拒絶してくる。
朝はお腹に入らないから、母親に朝食は作らなくていいと伝え、家を出て学校に向かった。食事をする時が、一番、厄介だが、なんとか食事を避けて、生活していくしかなかった。
(どうして、こんな生活を強いられなければならないんだ)
正直、惨めな気持ちになったが、なってしまったことは仕方がないと気持ちを落ち着かせて平常心を保った。
体の変化以外は、ごく普通の日常だ。大丈夫だ。このまま、いつもの風景に身をまかせて、慣れていけばいい。そうすれば、今の日々もきっと日常になる。
いつものように学校に行き、僕は、机に肘をつき、教室の窓から青く澄んだ空を眺めた。
「鬼山、最近、付き合い悪くないか?何か、あったのか?」
アルバートが、最近の僕の様子を心配して話しかけてきた。
「いや、別に何もないんだ......」
僕は、半獣になることを黙ったままだった。一時期は、アルバートに相談してみようかと考えたが、アルバートは、半獣になることを強く望んでいた。僕が、半獣になってしまったことを知れば、僕たちの友情にひびが入るように感じた。
「ならいいけどよ。そう言えば、聞いたか、また、変死体が見つかったみたいだぜ」
「そうなんだ。獣の毛が、生えた死体なの?」
僕がそう聞くと、アルバートは首を横に振った。
「今度は、全身の血が抜かれた死体が三体も見つかったようだ」
「三体も......」
半獣の仕業に思えた。血を抜かれていたのは、半獣が血を啜ったからではないだろうか。僕は、口から溢れ出た涎をすすった。
「ああ、河川敷のちょうど橋がかかっているところで死体が見つかったらしい。どうだ、二人で今日そこに行ってみないか?」
「危ないよ!おそらく、半獣がらみの事件だと思う。前に、半獣がらみのことには関わらない方がいいと言ってたじゃないか」
僕は、アルバートに危険な目にあってほしくなかった。半獣に襲われれば、人間であるアルバートの命は一瞬で刈り取られてしまう。親友を失ってしまうと考えるだけで、胸が抉られるように苦しくなる。
「ああ、言ったな。だが、その時は、その時だ。今は、気が変わったんだよ」
僕は、両手で机を強く握る。木製の机は、僕の手に握られて、軋んだ悲鳴を上げた。
「死体の場所に行くのは、やっぱりだめだ。半獣に襲われるかもしれない!」
「なら、俺一人で行く」
「そんな......」
アルバートの半獣に対する興味は、まだまだ冷めてはいなかった。なんとしても、変死体が見つかった場所に行こうとするだろう。それならば、いっそのこと......。
「アルバートが一人行くなら、僕も、行くよ」
僕は、顔をあげ、まっすぐアルバートの方を見た。
「そうか、じゃあ、決まりだな」
アルバートは、僕の言葉を待っていたとばかりに言った。
「なんか、誘導された感じだな......」
「お前なら、ついてきてくれると思ったぜ。どうする。実際のところ、俺一人で行ってもいいんだぜ」
「行くよ。僕も気になるし」
僕たちは、変死体が見つかった河川敷へと足を踏み入れることになった。アルバートには、危険な目にあってほしくない。彼を失いたくはなかった。僕のエゴかもしれない。だけど、アルバートが危険な所に行くのに、親友として黙って見ていられない。いざとなったら、アルバートを僕が守る。
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