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タイムベル編
07_勧誘
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静寂に包まれたタイムベルの地下で、アルバートと狼男アウルフの間で激しく火花が散り、一触即発の状態が続く。
どうすればいいんだ......。
僕ができること、僕がなさなければならないことは何だ。
駄目だ......全く思い浮かばない。
僕たちはただの非力で平凡な人間だ。このままだと、獣顔の者たちに簡単に命がもぎ取られてしまう。
火花が散って、導火線に火がついてしまった今。状況は刻一刻と悪化していく一方だ。二人とも殺されてしまう最悪な展開は、絶対に避けなければならないが、不安と恐怖が脳味噌につまった僕は、焦る気持ちだけが増すばかりで、全く打開策が浮かばなかった。
像男が、火花を散らす二人を落ち着かせる。
「まあ、落ち着け。この少年が言うことも一理ある。人間と面倒事を起こしたくないのは確かだ」
像男が狼男アウルフの肩に手を置き、落ち着かせるも、アウルフは、その手を振り払い、相変わらず苛立ちが収まらない。
「黙れ!ファントム。仮に、人間どもがここに来ようと、俺が一人残らず殺してやるよ」
狼男アウルフの言葉を聞いて、蛇女ムグリが不快感を露わにして言った。
「アウルフ、人間を殺してはダメよ。私たちの掟を忘れたの。あなたも、私たちの仲間になった時、掟を守ると約束したでしょ」
獣顔の者たちの間で、≪人間は殺してはいけない≫というルールが存在するようだ。だとしたら、少なくとも、殺されはしないということになる。絶望的だと思っていたけれど、生きてここから脱出できる一縷の望みが急に出てきた。
「忘れちゃいねーよ。生真面目な奴らだ。そんな掟を律儀に守りやがる」
蛇女ムグリの掟という言葉に、先ほどまで苛立っていた狼男アウルフは、少し落ち着きを見せた。
蛇女ムグリが、くすりと笑って言った。
「そんなこと言って、アウルフ、あなたも、私たちの仲間になってからは、人を一人も殺してないじゃない」
「ちっ、興が削がれた。こいつらのことは勝手にしろ!」
ふてくされた狼男アウルフは、目線を反らし両腕を組むと、黙りこんでしまった。一時は、どうなるかと思ったが、事態は、なんとかいい方向に収束しそうだ。
ライオン男が、口から鋭利な牙を覗かせながら、威厳のある声で話す。
「さて、この二人、どうする?このまま、野放しにしてもよいものか。この二人が、私たちのことを洩らす可能性も考えられる」
一斉に、獣顔の者たちが、僕たちの方に顔を向けた。心が押し潰されて悲鳴を上げそうになるくらい、とんでもない威圧感だ。
ライオン男の言葉を受け、アルバートは、すかさず、ライオン男に向かって返答した。
「それについては、約束しよう。俺たちは、絶対に、他の人間に、お前たちのことを話したりはしない。それに、仮に俺たちが他の人間に獣顔の人たちに襲われたと話したとしても、誰が信じる。誰も信じる訳がない」
悪い方向に話が行きそうになった時、すぐに、補足を入れ、良い方向に話を進めに行くのは、アルバートらしかった。
「なるほど。お前たちを、野放しにしたところで、私たちのことを口外しないというのだな」
ライオン男が、理解を示した直後、蛇女ムグリが、なぜか僕の目の前に来て、顔を近づける。
「あら、いっそのこと、この子たちを私たちの仲間にするのはどう?特に、あなた、素質あるわね。私の蛇たちに好かれているもの」
ムグリの言うように、無数の白蛇たちが、なぜか僕にすり寄って来ていた。昔から、動物に好かれる体質なのだが、ここで裏目に出てしまった。
「ぼ、僕がですか......」
突然の話の展開に、動揺が隠せない。
「ええ。そうよ。あなたなら、立派な蛇使いになれそう。仲間に、なれば、あなたを私たちと同じ半獣にしてあげる。半獣になれば、永遠ともいえる時間を生きられるわよ。超人的な身体能力も、鋼のような肉体も手に入る。ただ、人間の血なしでは生きられなくなるけれどね」
蛇女ムグリは、僕に半獣となり、仲間に加わるように、勧誘してきた。正直、半獣などという得たいの知れない存在にはなりたくなどなかったし、永遠の命も、超人的な力も興味がなかった。
「半獣......」
隣にいるアルバートが呟く声がかすかに聞こえた。呟いた時の彼は、いつもと違って何か思い詰め考えているふうに見えた。
それはさておき、蛇女に仲間にならないかと誘われてしまった。当然、僕の頭のなかは、真っ白になり、思考停止していた。
どうすればいいんだ......。
僕ができること、僕がなさなければならないことは何だ。
駄目だ......全く思い浮かばない。
僕たちはただの非力で平凡な人間だ。このままだと、獣顔の者たちに簡単に命がもぎ取られてしまう。
火花が散って、導火線に火がついてしまった今。状況は刻一刻と悪化していく一方だ。二人とも殺されてしまう最悪な展開は、絶対に避けなければならないが、不安と恐怖が脳味噌につまった僕は、焦る気持ちだけが増すばかりで、全く打開策が浮かばなかった。
像男が、火花を散らす二人を落ち着かせる。
「まあ、落ち着け。この少年が言うことも一理ある。人間と面倒事を起こしたくないのは確かだ」
像男が狼男アウルフの肩に手を置き、落ち着かせるも、アウルフは、その手を振り払い、相変わらず苛立ちが収まらない。
「黙れ!ファントム。仮に、人間どもがここに来ようと、俺が一人残らず殺してやるよ」
狼男アウルフの言葉を聞いて、蛇女ムグリが不快感を露わにして言った。
「アウルフ、人間を殺してはダメよ。私たちの掟を忘れたの。あなたも、私たちの仲間になった時、掟を守ると約束したでしょ」
獣顔の者たちの間で、≪人間は殺してはいけない≫というルールが存在するようだ。だとしたら、少なくとも、殺されはしないということになる。絶望的だと思っていたけれど、生きてここから脱出できる一縷の望みが急に出てきた。
「忘れちゃいねーよ。生真面目な奴らだ。そんな掟を律儀に守りやがる」
蛇女ムグリの掟という言葉に、先ほどまで苛立っていた狼男アウルフは、少し落ち着きを見せた。
蛇女ムグリが、くすりと笑って言った。
「そんなこと言って、アウルフ、あなたも、私たちの仲間になってからは、人を一人も殺してないじゃない」
「ちっ、興が削がれた。こいつらのことは勝手にしろ!」
ふてくされた狼男アウルフは、目線を反らし両腕を組むと、黙りこんでしまった。一時は、どうなるかと思ったが、事態は、なんとかいい方向に収束しそうだ。
ライオン男が、口から鋭利な牙を覗かせながら、威厳のある声で話す。
「さて、この二人、どうする?このまま、野放しにしてもよいものか。この二人が、私たちのことを洩らす可能性も考えられる」
一斉に、獣顔の者たちが、僕たちの方に顔を向けた。心が押し潰されて悲鳴を上げそうになるくらい、とんでもない威圧感だ。
ライオン男の言葉を受け、アルバートは、すかさず、ライオン男に向かって返答した。
「それについては、約束しよう。俺たちは、絶対に、他の人間に、お前たちのことを話したりはしない。それに、仮に俺たちが他の人間に獣顔の人たちに襲われたと話したとしても、誰が信じる。誰も信じる訳がない」
悪い方向に話が行きそうになった時、すぐに、補足を入れ、良い方向に話を進めに行くのは、アルバートらしかった。
「なるほど。お前たちを、野放しにしたところで、私たちのことを口外しないというのだな」
ライオン男が、理解を示した直後、蛇女ムグリが、なぜか僕の目の前に来て、顔を近づける。
「あら、いっそのこと、この子たちを私たちの仲間にするのはどう?特に、あなた、素質あるわね。私の蛇たちに好かれているもの」
ムグリの言うように、無数の白蛇たちが、なぜか僕にすり寄って来ていた。昔から、動物に好かれる体質なのだが、ここで裏目に出てしまった。
「ぼ、僕がですか......」
突然の話の展開に、動揺が隠せない。
「ええ。そうよ。あなたなら、立派な蛇使いになれそう。仲間に、なれば、あなたを私たちと同じ半獣にしてあげる。半獣になれば、永遠ともいえる時間を生きられるわよ。超人的な身体能力も、鋼のような肉体も手に入る。ただ、人間の血なしでは生きられなくなるけれどね」
蛇女ムグリは、僕に半獣となり、仲間に加わるように、勧誘してきた。正直、半獣などという得たいの知れない存在にはなりたくなどなかったし、永遠の命も、超人的な力も興味がなかった。
「半獣......」
隣にいるアルバートが呟く声がかすかに聞こえた。呟いた時の彼は、いつもと違って何か思い詰め考えているふうに見えた。
それはさておき、蛇女に仲間にならないかと誘われてしまった。当然、僕の頭のなかは、真っ白になり、思考停止していた。
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