ヤンデレ妹に捧げるレクイエム

妹解放区 その1

　多大なる犠牲の元に平和はもたらされる。これを実感できる人ってそんなに多くは無いと思う。ちなみに私はその一人である。

　今思い返すと、妹を刺殺する時、滞りなくことが進んだことにぞっとする。あの後傷跡を注意深く観察してみたのだが、恐らく十回くらい刺していたのだろう。あぁっ……あれをもう一回再現してくださいと言われたら、相当に厳しいだろうな……。


　長い刑期を終えて出所した人は、まずどこへ向かうのだろうか？

　自宅？

　結局は故郷が恋しいか……。

　私の場合、故郷は戦場になって崩壊した。


　さて……。どこに行こうか？このままだとなんか、風に当たっただけで死んじゃいそうな感じがするから……。


「お客さーん！」

　気が付くと私は最寄の駅前に立っていた。本能的にどこか遠くへ逃亡することを望んでいるのだろうか？

　ニコニコうるさい輩がしきりに、お客さーん、と叫んでいる。何かあったのだろうか？

「なんだ、いきなり呼びつけて」

「いや、すみません。切符を拝見させてください」

　恭しく頭を下げているのが余計に腹立たしい。あなたの本音を聞かせてもらおう。

　無賃乗車してんじゃねえよ、バカヤロウ！

　あはは……面白い。おっと、呼び止められた老人が怒り始めたぞ。

「俺は客だ！」

　面白いやつだな。あれっ？警察が来ちゃった。そうか、あの爺さん、勢いに任せて駅員を殴っちゃったのか！


「大丈夫ですか？」

　うんっ？救急車も来たの？ありゃりゃ、血を流してるじゃない。派手にやったものだ。まぁっ、僕ほどじゃないけれど。

「下がってくださぁい！」

　またまたけたたましく吠えられてるぞ。あっ、私もか。

　本当、私が歩くとろくでもないな！

　あぁっ……ちょっと休憩。大地はこれほど美しいのか！私は今、意志を持ってこの地に足跡を刻んでいるんだ！これってすごいことじゃないか！