上 下
1 / 1

しおりを挟む
「婚約を破棄させてもらおう……」

王子様はいつも太陽だ。国民の前に顔を出す時、そして、一瞬であっても私を一人の女として愛してくれたとき。

私にとって、いや、今更おこがましいか?

みんな、その笑顔を中心にして動いていた。私はかつて太陽に一番近い星だった。王子様から漲ってくる熱を快く受け入れた。

王子様の微笑みが偽りだと知っているのは、多分私だけだった。

王子様は私を残して、一人ベランダに立ち尽くし、竪琴を弾いていた。美しい月を見て一人泣いていた。私は王子様が涙する理由を知らなかった。私のことが嫌いっていう理由ならば、かえって安心した。

「生涯君を愛し続ける。でもこれ以上君を愛せる自信がないんだ……」

王子様があまりにも不憫でならなかった。婚約破棄を提案したのは私の方だった。

「しばらく考えさせてくれ……」

太陽に飲み込まれて、遥か彼方に潜んでいる琴線を探し続けた。でもそれは全て王子様のものだから見つけることなんてできなかった。

「王子様、一生愛し続けます」

「僕もだ……」

王子様を支える方法はないのだろうか、と考えた。でも、太陽よりパワフルな星なんて存在しないように、かりそめとはいえ、みんなに好かれる王子様を支えることなんてできやしない。

王子様は一人になった。私は時々王子様に招かれて話相手になった。

「中々晴れないんだ……」

気候が良くないことを嘆いている。

「月が見えませんね……」

王子様が泣く理由はそれくらいしかなかった。


私が月になれば……。

ふとそんなことを思った。

太陽の反対にはいつも月がいる。その美しさを語る者は枚挙にいとまがない。しかしながら、本当の美しさを知っている人は恐らくいない。

大陽はしばしば月に恋をする。

しかしながら、二人は決して結ばれない。 

「少し散歩してきますね……」

二人はいつも一人ぼっち。そっと上を向いて同じ夜空を眺めるだけ。

「王子様……?この広い空のどこかにいらっしゃるとするならば、今すぐ会いに行きます……」

王子様もきっと……。

後悔なんてしません。一人の男性に最後まで愛されたのですから。宇宙の理に戻って、もう一度、王子様と会えることを願い続けます。







しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

王太子に婚約破棄されたら、王に嫁ぐことになった

七瀬ゆゆ
恋愛
王宮で開催されている今宵の夜会は、この国の王太子であるアンデルセン・ヘリカルムと公爵令嬢であるシュワリナ・ルーデンベルグの結婚式の日取りが発表されるはずだった。 「シュワリナ!貴様との婚約を破棄させてもらう!!!」 「ごきげんよう、アンデルセン様。挨拶もなく、急に何のお話でしょう?」 「言葉通りの意味だ。常に傲慢な態度な貴様にはわからぬか?」 どうやら、挨拶もせずに不躾で教養がなってないようですわね。という嫌味は伝わらなかったようだ。傲慢な態度と婚約破棄の意味を理解できないことに、なんの繋がりがあるのかもわからない。 --- シュワリナが王太子に婚約破棄をされ、王様と結婚することになるまでのおはなし。 小説家になろうにも投稿しています。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

夫に惚れた友人がよく遊びに来るんだが、夫に「不倫するつもりはない」と言われて来なくなった。

ほったげな
恋愛
夫のカジミールはイケメンでモテる。友人のドーリスがカジミールに惚れてしまったようで、よくうちに遊びに来て「食事に行きませんか?」と夫を誘う。しかし、夫に「迷惑だ」「不倫するつもりはない」と言われてから来なくなった。

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

処理中です...