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婚約破棄
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私が一瞬でも愛した夫から、婚約破棄の話を持ちだされました。
私は少しショックでした。まあ、なんとなくは分かっておりました。でも、改めて宣告されると、やはり、悲しかったのです。
婚約者は、ファーガソン公爵家の長男であるケリー様でした。正直、私の婚約者としては勿体ないくらいのスペックを持ち合わせておりました。成績は非常に優秀で、そして、誰よりも優しかったのです。私を含め、数多くの令嬢たちから求愛される、そんな方でした。
ついに、この時が来てしまった……でも、私は既に腹をくくっておりました。
あの時、婚約を交わしてくれたケリー様が私の前におります。私は中々話を始めないケリー様の横顔をじっと眺めておりました。
ちなみに、この世界では婚約破棄はもはや、当たり前のものになっておりました。婚約の際、神様の前に歩み出て、自らの将来を誓うのはもはや形骸化したことでした。今の我々の世代では……今後何十年と続く婚約生活の安泰を確約することなんてできませんでした。令嬢が浮気する、あるいは、殿方が他の女と恋に落ちる……このような話はたくさんありまして、もはや、当たり前のことになっておりました。
まあ、それが通じないのは、私の両親たちでした。厳格な人間であり、ケリー様が婚約破棄の話を持ちだしたとき、どこから聞きつけたのかは分かりませんが、私たちの家にやって来て、ケリー様を叱りつけたのでした。
「あなたは、私の娘を陥れようとしているのですか!!!」
お父様は大声で、ケリー様を非難しました。
「そう言うわけではありません。ただ……貴方の娘さんは、私が想像しているよりも酷い人でした……」
ケリー様は静かにそう言いました。お父様は呆れてしまって、それ以上、ケリー様とは話をしませんでした。
「申し訳ないな。私がもう少し、きちんと婚約者を選ぶべきだった……」
お父様は私にそう言いました。
「いいえ、別に気にしてはおりません。それよりも……私も少し疲れました。ああ、今回の一件はもちろんですが、それ以外にも……少しだけ休ませてください」
お父様はもちろん、許可してくれました。
私は元々、一人で生活している方が性に合っているようでした。お父様の用意してくれた田舎の別荘に行き、そこで休んでおりました。もう正直言って、一生ここで暮らしてもいいと思えるほど、静かなところでした。
後日、私の愛したケリー様が、私の元を訪れました。要するに、もう一度やり直さないか、ということでした。
ケリー様の話ですと、ケリー様の好きになった令嬢のお父様が失脚して、令嬢も都を追われるようになったのだそうで、ケリー様はあっさりと、その令嬢を捨てたそうでございました。
ケリー様は結局のところ、自分自身に一番優しいのでした。どのような理想があるのかは分かりませんでしたが、結局のところ、そこに到達しなかったら諦める……自分を守ることしか考えていなかったのです。
でも、なんでもかんでも背負い込むのはやめて、そうやって、自分のことだけを考えて生きるのもいいことだと思いました。だから、私はケリー様に言いました。
「実を申しますと、今この瞬間、あなた様のお顔を見ましたところ、あの時の恋心が蘇ってくるような心地が致しました。ですが……その恋心ほど、私にとって煩わしいものはございません。私がこの地にいるのは、最後まで一人になることを自分自身に約束したからでございます。ですから……私はもう、あなたの手をつなぐ覚悟はございません……」
私はケリー様に勝ったのだと思いました。意味のない勝負を仕掛けてきて、それで自滅していく男の哀れな背中を拝むのが、私にとっては一つの慰めにもなったわけでございました……。
私は少しショックでした。まあ、なんとなくは分かっておりました。でも、改めて宣告されると、やはり、悲しかったのです。
婚約者は、ファーガソン公爵家の長男であるケリー様でした。正直、私の婚約者としては勿体ないくらいのスペックを持ち合わせておりました。成績は非常に優秀で、そして、誰よりも優しかったのです。私を含め、数多くの令嬢たちから求愛される、そんな方でした。
ついに、この時が来てしまった……でも、私は既に腹をくくっておりました。
あの時、婚約を交わしてくれたケリー様が私の前におります。私は中々話を始めないケリー様の横顔をじっと眺めておりました。
ちなみに、この世界では婚約破棄はもはや、当たり前のものになっておりました。婚約の際、神様の前に歩み出て、自らの将来を誓うのはもはや形骸化したことでした。今の我々の世代では……今後何十年と続く婚約生活の安泰を確約することなんてできませんでした。令嬢が浮気する、あるいは、殿方が他の女と恋に落ちる……このような話はたくさんありまして、もはや、当たり前のことになっておりました。
まあ、それが通じないのは、私の両親たちでした。厳格な人間であり、ケリー様が婚約破棄の話を持ちだしたとき、どこから聞きつけたのかは分かりませんが、私たちの家にやって来て、ケリー様を叱りつけたのでした。
「あなたは、私の娘を陥れようとしているのですか!!!」
お父様は大声で、ケリー様を非難しました。
「そう言うわけではありません。ただ……貴方の娘さんは、私が想像しているよりも酷い人でした……」
ケリー様は静かにそう言いました。お父様は呆れてしまって、それ以上、ケリー様とは話をしませんでした。
「申し訳ないな。私がもう少し、きちんと婚約者を選ぶべきだった……」
お父様は私にそう言いました。
「いいえ、別に気にしてはおりません。それよりも……私も少し疲れました。ああ、今回の一件はもちろんですが、それ以外にも……少しだけ休ませてください」
お父様はもちろん、許可してくれました。
私は元々、一人で生活している方が性に合っているようでした。お父様の用意してくれた田舎の別荘に行き、そこで休んでおりました。もう正直言って、一生ここで暮らしてもいいと思えるほど、静かなところでした。
後日、私の愛したケリー様が、私の元を訪れました。要するに、もう一度やり直さないか、ということでした。
ケリー様の話ですと、ケリー様の好きになった令嬢のお父様が失脚して、令嬢も都を追われるようになったのだそうで、ケリー様はあっさりと、その令嬢を捨てたそうでございました。
ケリー様は結局のところ、自分自身に一番優しいのでした。どのような理想があるのかは分かりませんでしたが、結局のところ、そこに到達しなかったら諦める……自分を守ることしか考えていなかったのです。
でも、なんでもかんでも背負い込むのはやめて、そうやって、自分のことだけを考えて生きるのもいいことだと思いました。だから、私はケリー様に言いました。
「実を申しますと、今この瞬間、あなた様のお顔を見ましたところ、あの時の恋心が蘇ってくるような心地が致しました。ですが……その恋心ほど、私にとって煩わしいものはございません。私がこの地にいるのは、最後まで一人になることを自分自身に約束したからでございます。ですから……私はもう、あなたの手をつなぐ覚悟はございません……」
私はケリー様に勝ったのだと思いました。意味のない勝負を仕掛けてきて、それで自滅していく男の哀れな背中を拝むのが、私にとっては一つの慰めにもなったわけでございました……。
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