婚約破棄された悪役令嬢はやり直したい！〜転生したら王子に溺愛された件〜その後と将来を紡ぐ物語

その31

弱者は強者のために生きる……。お父様の哲学だった。

私はどっちなの？

「もちろん、強者だ」

でも、本当にそうなのかしら？

「クリスはこの世界の中心にいる」

お父様は時々そう言っていた。

お父様の古びた別荘に到着すると、私は荷物を置いて、散歩がしたいと言った。

「君一人では危ないな……」

お父様は渋い顔をした。

「今夜、お客様がいらっしゃる。私はちょっとしたパーティーの準備をしなければならない。だから、明日の朝ではダメだろうか？代わりと言ってはなんだが、豪華な食事を用意するから」

お父様はそう言い残して、玄関のロックを閉めてしまった。内側の鍵を持っていない私は外へ出ることができなかった。しかしながら、お父様のいう通り、これほど治安の悪い町を一人で歩くのはいささか不用心であると思った。

「分かりました。それでは、寝室で休んでおります」

「それがいい。寝室は2階にあるよ」

私はお父様に呼ばれるまで、寝室にこもった。その方がお父様にとって都合のいいことだと思ったからだ。

それにしても……。

寝室から見る景色は実家とほとんど変わらなかった。人々の悲しい物語はまるでフィクションのように流れ過ぎ去った。

「これでいいのかしら？」

私は自問自答した。

だから？

私に何ができるの？

私だってすごく弱い人間なのよ。お父様の庇護がなければ、もっと早く死んでいるでしょうよ。


私は少しの間眠った。お父様に呼ばれたのは、夜になる少し手前の頃合いだった。

「今日は懐かしいお客様が数名いらっしゃっているんだ。みんな、クリスのことを知っているんだよ」

そうは言われても、私はきっと顔も名前も覚えていない。だって、私の記憶は全て皇帝に書き換えられてしまったのだから。