上 下
18 / 19

その18

しおりを挟む
「ザイザル様?何か考えごとですか?」

「私がこれ以上説明する必要はないと思います。この爆弾を解除する方法を模索しているのです」

帝都に到着するまで、残り時間は恐らくわずかだった。火焔砲に刻まれるエネルギーは、太陽光による発電が影響しているのか、詳しくは分からなかったが、しばらくの間、天を仰いでいて、その後、陸地に向けて照準を合わせ始めた。

私は科学に疎い方だが、それでも、現代の技術でなし得る業ではないと思った。未来からの刺客が時を遡って、人間に悪魔なる業を授けようとしているのだと思った。その標的になったのが、かつての勇者であるアルビノーニであったということだろう。

「無駄ですよ。私たちが考えて解決できるレベルを遥かに超えています。誰が仕組んだのかは分かりませんが、いずれにしても、私たちはこの空中都市にいる限り安全ということですよね?」

安全……確かに勇気を出して地上に降り立てば、いずれ、この空中都市の餌食になるだろう。コマンダーは不在であるが、少なくともここにいれば攻撃されることは有り得ない。地上に降り立って、勇者ザイザルが復活したことの奇跡を祝ってもらうのか、それとも、死んだまま空中都市に居残るのか……。

「ねえ、ザイザル様?この世界に守りたいものはあるのですか?」

守りたいもの……勇者である以上、平和世界トロイツの市民を守る責務がある。

「でもね、あなた様は守り抜こうとした人々に殺されたのですよ?」

「あれは…………」

「同じことですよ。ですから、もう守る必要なんてないんですよ。ザイザル様、私たちには、最強の能力と最強の勇者、そしていま、最強の武器を手に入れたのです。つまり、私たちがこの世界の神になったということなのですよ!」

ファンコニーの微笑みは、既に堕天使だった。かつて尊敬し、淡い恋心の結晶たりえた能力が、自分では神の優しさに等しいと思っていた能力が、皮肉にも悪魔を生み出した。そして、悪魔の純粋な欲求に飲み込まれた彼女は、もう戻ることのないだろう、漆黒の視線を私に投げ続けた。

「ザイザル様、私はザイザル様が望む通りの未来を実現するために生きているのです。ですから、ご希望があればなんでもおっしゃってくださいね?」

私の希望は勇者になることだから、もうかなってしまったのだ。

強いていうならば、神様に問いたい。

このまま勇者であり続けるにはどうすればいいのか?

「最強の力を携えたものが勇者になる。このまま戦いを続けなさい」

私は笑いが堪えきれなかった。

「ザイザル様、あなたが本当に叶えたいことはなんですか?」

ファンコニーの問いに、私はこう答えた。

「私の願いは力を持つことです。私のことを裁けるのは神様だけです」

私はファンコニーを抱き寄せた。

「君は私の理解者ですか?」

ファンコニーは頷いた。

「私は一生をザイザル様に捧げると決めましたから」

しおりを挟む

処理中です...