上 下
15 / 19

その15 魔王アルビノーニ 

しおりを挟む
「この少女は迷いがあるようだな……」

アルビノーニはそう言って、ファンコニーの額にキスをした。

「迷いとは何ですか?」

私は未だにアルビノーニと話していることが信じられなかった。アルビノーニではなく、別の男と話しているような感じだった。これほど簡単に歴史を遡り、復活させることが可能だとは思わなかった。

「少女は復活の能力があるようだな。おかげで生き返ることができた」

「あなたは……本当に勇者アルビノーニなのですか?」

「疑っているのか?無理もないだろう。私がアルビノーニであることを証明する手段がないからな……」

アルビノーニは、そっと天を仰いだ。

「勇者と言うものは不思議だ。こうしてずっと長く眠っていると、もう一度世界を救いたいと思うようになる。しかしながら、私もしょせんは欲深い人間だ。生き続けるための手段として、戦い続けることを選択する必要があるのならば、私は喜んで魔王になろう!」

魔王……その言葉を聞いた瞬間、私はこの男を復活させてはならなかったと反省した。正義と悪の天秤が、今は圧倒的に悪の方へ傾いていた。

「復活の能力とは、欲深き人間の悪行だ!」

アルビノーニは不気味なほほ笑みを浮かべ、天を指さした。すると、今まで沈黙に埋もれていた地下都市が、ゴゴゴゴゴゴと大きな音を立てて動き始めた。

「このまま一気に地上まで浮上するぞ!」

ファンコニーのこしらえた地下通路を全て破壊し、巨大都市は高速エレベーターのように天を目指して一直線に進んだ。一分もすると、少しずつ陽の光が見え始め、もう一分もすると、地上へ顔を出した。

「さて、折角だから眠っていた砲台を動かすとしますか……」

アルビノーニは随所に備え付けられた砲台をいとも簡単に指で操作し始めた。巨大都市が空中に現れて、遺跡の近くに群がる人々がターゲットになった。

「これはある種の見せしめだ……」

アルビノーニがパチッと指を鳴らすと、照準に合わせて無数の火焔砲が発射された。見物人たちは逃げる間もなく、火焔砲によって焼き払われた。

「どうだ、これが勇者なる力だ。ところで、君も勇者なのだろう?その様子だと、まだ魔王にはなっていないようだね。どうだね、君の力というものを少し見せてもらおうじゃないか」

私はアルビノーニの言葉を聞くまでもなく、天から剣を召喚し、アルビノーニに襲い掛かった。本気で人を殺そうと思ったのは、今回がきっと初めてだった。

「アルビノーニ!死ねえええええっ…………………!」

私はもう無我夢中だった。勇者の成れの果てがこのような悲劇を生むのだとすれば、アルビノーニ、そして、復活の能力を授かったファンコニーを消さなければならないと思った。そして……ファンコニーを葬り去った後、私も滅びなければならないと思った。

剣は有無も言わさず、アルビノーニの胸を貫いた。アルビノーニは、その場に倒れ込んだ。

「なるほど……君の強さは確かに勇者の名に相応しいものだ……。しかしながら、この程度の力で私を消すことはできないのだ…………」

アルビノーニはその場で息絶えた。ファンコニーは意識を失っていた。

「ファンコニー!」

私はファンコニーを抱きかかえた。どうして意識を失ったのか、その理由が分からなかった。惨劇によるものなのか、あるいは……?


私は肝心なことを忘れていた。この空中都市が猛スピードで北へ向かっていることに気がついた。ひょっとすると、帝都を破壊するつもりではないのか?私は都市の操縦を試みた。しかしながら、びくともしなかった。先程のように、無数の民を殺すことだけは避けなければならない、この時はそう思っていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~

泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。 女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。 そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。 冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。 ・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。 ・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

奴隷勇者の異世界譚~勇者の奴隷は勇者で魔王~

Takachiho
ファンタジー
*本編完結済み。不定期で番外編や後日談を更新しています。  中学生の羽月仁(はづきじん)は勇者として異世界に召喚され、大切なものたちを守れないまま元の世界に送還された。送還後、夢での出来事だったかのように思い出が薄れていく中、自らの無力さと、召喚者である王女にもらった指輪だけが残った。  3年後、高校生になった仁は、お気に入りのアニメのヒロインを演じた人気女子高生声優アーティスト、佐山玲奈(さやまれな)のニューシングル発売記念握手会に参加した。仁の手が玲奈に握られたとき、玲奈の足元を中心に魔法陣が広がり、2人は異世界に召喚されてしまう。  かつて勇者として召喚された少年は、再び同じ世界に召喚された。新たな勇者・玲奈の奴隷として―― *この作品は小説家になろうでも掲載しています。 *2017/08/10 サブタイトルを付けました。内容に変更はありません。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 よろしくお願いいたします。 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

処理中です...