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聖女の復讐?
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「マリア……君にはもう愛想が尽きたんだ。だから……この場を持って、婚約破棄を宣告したいと思う……」
「どうしても、ですか???」
「どうしても、だ……」
「ああ、そうですか……」
だとすれば、これからは何を生甲斐に生活すればいいのだろうか……公爵令嬢のマリアは、ふと、そんなことを考えた。名門出身で、将来は第一王子ケルビンの婚約者になることを運命づけられていたマリアは、幼い頃から、手厳しい教育を施されてきたのだった。だが、それらを全て耐え抜いたのは、やはり、自分の人生のゴールが、第一王子との婚約と言う、非常に高いポジションにあったから、だった。
「ケルビン様???」
「なんだ???」
「もし……可能でしたら……婚約破棄の理由を御聞かせ願えないでしょうか???」
「ああ、そうか。君にはやはり、妃としての自覚が足りないようだなあ……」
「自覚……ですか???」
「そうだ。自覚が足りないのだ……」
「ああ、そうなのですか???私にはなんのことやら……さっぱり分からないのですが……」
マリアがケルビンに対して、この様に言うと、ケルビンはすぐさま顔色を変えて、
「そう言う君の態度が気に食わないと言うんだよ!!!!!!!」
と怒鳴り散らした。
「ケルビン様???」
マリアは思わず尻もちをついてしまった。
「どうして、怒っていらっしゃるのですか???」
マリアの話は、常に、ケルビンの怒りの灯に油を注ぐようなものだった。元々発火点の低いケルビンに対して、些細であっても、何か意見を言うと言うのは、正直不味いことだった。
しかしながら、マリアはまた、教育をうける中で、自らの独立、というものを心のどこかで考えるようにもなってみて、だからこそ、必ずしもケルビンの言いなりであり続ける……ということではなかったのだった。
それが、結果としては、ケルビンの怒りに一役買うことになったのだが。
「ふざけるな!!!!!その場で膝まづけ!!!!!!」
ケルビンは、常にマリアを従えていなければ、許すことができなかった。
「それは……どうしてですか???」
「お前は一々口答えしなければならない女なのか???」
このように、ケルビンはマリアのことを罵倒し続け、時には手を上げることもあった。だが、幸いと言うか、マリアはケルビンに殴られることを、特になんとも思わなかった。近頃は婦人の権利というものが声高に叫ばれるようになったのだが、それでも、マリアは、ケルビンに対して、この暴力を糾弾することだけは、決してなかった。これも一種の愛情表現、なのだと信じ切っていたのだった。
力による完全な従属……これが、ある種の理想形だったのだ。マリアにとっては。それが、全ての幸せだった。だが、それはもちろん、婚約と言う形態が維持されていることが大前提だった。殴られるのは結構だが、それはやはり、婚約というものが前提だった。
そして……婚約破棄が成立してしまった以上……この不可解なケルビンの仕打ちに甘んじる必要はもうなかったのだった……。
マリアは力を持っていた。それは、どこから湧いて来るのか、その源を知ることはできない。だがしかし、内秘めたる思いは思いのほか強く、それを発揮してしまうと、世界が滅びるほどの恐怖に結びつくというから、これはまた、驚きである。
「ケルビン様???もう一度確認致します。ケルビン様は……本当に……私との婚約を破棄する……これでよろしいのですね???」
「そうだと言っているだろう!!!何度も何度もしつこいぞ!!!」
「ああ、本当にそうなのですね???分かりました。あなた様がそこまでおっしゃるのでしたら……私にも考えがあります…………」
そう言って、マリアは悍ましい姿に変身を遂げた。それは、一瞬の出来事だった。あれほど血気盛んだったケルビンの顔色が急に褪せてしまうほどだった……。
「おい……これは一体何なのだ???」
「さあ……何でございましょうかね???私にも正直分からないのです……。ただ……なんとなく、怒りたいかなって、考えてしまいますと、こんな感じになってしまうんですよねえ…………」
「お前は……人間ではないのか???この悪魔め!!!」
そう言って、ケルビンは懐から刀を取り出した。マリアを完璧に殺すつもりのようだった。
「あら……そんな刀で、私の胸を貫けると思っていらっしゃいますの???まあ、なんて幼稚なのでしょう……」
マリアがこう言うと、
「うるさい!!!ふざけるな!!!
と、ケルビンは言った。そして、刀を適当に振りかざして、マリアのところにやって来たのだった……。
刀は見事、マリアの胸を貫いた……かのように見えたのだが、実際はそうでもなかった。単純に、貫通したように見えただけで、実際は、どこにも刺さっていなかったのだ。
「そんな……悪を断ち切る聖剣が……どうして、こんなことに???」
「それはね、あなた自身が悪魔だからですよ!!!!」
そう言って、マリアはケルビンの胸をつかんだ。
「おい……何をしているんだ!!!!!離せ!!!!!」
「いやです……どうして???婚約破棄なんて言い出すんですか???ねえ、早く撤回しませんか???そしたらば、命だけは助けてあげてもいいですよ???」
「そんなこと……お前の正体を見てしまったら……尚更無理な話だ!!!!!」
「ああ、随分と強情ですね。まあ、そんなあなたに惚れたこともありましたっけ???でもね、こうやって、私のことを蔑ろにしようとするのは……大いに問題ありだと思うんですが???」
そう言って、マリアはケルビンを突き飛ばした。危うく、刀がケルビンの胸を通り抜けるところだった。
「危ないじゃないか!!!」
ケルビンは叫んだ。
「あらあら……そうやって、まだ私と張り合おうって言うんですか???随分と命知らずなんですね。まあ、そんなかっこよさに……私は惚れたのかもしれませんが……」
「お前……何を言っているんだ???頭おかしいんじゃないか???」
「可笑しいですって???私が???そんなことはないですよ???私はただ、第一王子ケルビン様を愛し続けております公爵令嬢のマリアです!!!」
そう言って、マリアは、ケルビンから奪った刀を持ち出して、ケルビンの元に飛んでいった。
「私ね、色々な能力を持っていましてね、こうやって飛ぶことだってできるんですよ???そしてね、ほら、あなたの胸にダイブすることだって、できるんです!!!」
「痛い!!!!止めてくれえええっ!!!!!」
「あらあら……随分と非力になってしまいましたね????あの強情なケルビン様は、一体どこに行ってしまったのですか????私の愛した、あのケルビン様は、一体どこに行ってしまったのですか!!!!!!」
ケルビンをことごとく粉砕する……それが、聖女マリアに残された最後の仕事だった。そして……ケルビンの屍を粉々に破壊するのも……これもまた、マリアの仕事だった。
「ああ、人間と言う生き物は、やっぱり理解できませんねえ……。神様が滅ぼしたいとお思いになるのも、よく分かりますわ。さて……次は誰を目標にしましょうか???なるべく、上物がいいですね。このケルビンとか言う男は……あまりにも下らない人間でした。神様に報告することなんて、一つもない……。ああ、もっと上物を探さないと…………」
マリアの旅は、まだまだ続く。
「どうしても、ですか???」
「どうしても、だ……」
「ああ、そうですか……」
だとすれば、これからは何を生甲斐に生活すればいいのだろうか……公爵令嬢のマリアは、ふと、そんなことを考えた。名門出身で、将来は第一王子ケルビンの婚約者になることを運命づけられていたマリアは、幼い頃から、手厳しい教育を施されてきたのだった。だが、それらを全て耐え抜いたのは、やはり、自分の人生のゴールが、第一王子との婚約と言う、非常に高いポジションにあったから、だった。
「ケルビン様???」
「なんだ???」
「もし……可能でしたら……婚約破棄の理由を御聞かせ願えないでしょうか???」
「ああ、そうか。君にはやはり、妃としての自覚が足りないようだなあ……」
「自覚……ですか???」
「そうだ。自覚が足りないのだ……」
「ああ、そうなのですか???私にはなんのことやら……さっぱり分からないのですが……」
マリアがケルビンに対して、この様に言うと、ケルビンはすぐさま顔色を変えて、
「そう言う君の態度が気に食わないと言うんだよ!!!!!!!」
と怒鳴り散らした。
「ケルビン様???」
マリアは思わず尻もちをついてしまった。
「どうして、怒っていらっしゃるのですか???」
マリアの話は、常に、ケルビンの怒りの灯に油を注ぐようなものだった。元々発火点の低いケルビンに対して、些細であっても、何か意見を言うと言うのは、正直不味いことだった。
しかしながら、マリアはまた、教育をうける中で、自らの独立、というものを心のどこかで考えるようにもなってみて、だからこそ、必ずしもケルビンの言いなりであり続ける……ということではなかったのだった。
それが、結果としては、ケルビンの怒りに一役買うことになったのだが。
「ふざけるな!!!!!その場で膝まづけ!!!!!!」
ケルビンは、常にマリアを従えていなければ、許すことができなかった。
「それは……どうしてですか???」
「お前は一々口答えしなければならない女なのか???」
このように、ケルビンはマリアのことを罵倒し続け、時には手を上げることもあった。だが、幸いと言うか、マリアはケルビンに殴られることを、特になんとも思わなかった。近頃は婦人の権利というものが声高に叫ばれるようになったのだが、それでも、マリアは、ケルビンに対して、この暴力を糾弾することだけは、決してなかった。これも一種の愛情表現、なのだと信じ切っていたのだった。
力による完全な従属……これが、ある種の理想形だったのだ。マリアにとっては。それが、全ての幸せだった。だが、それはもちろん、婚約と言う形態が維持されていることが大前提だった。殴られるのは結構だが、それはやはり、婚約というものが前提だった。
そして……婚約破棄が成立してしまった以上……この不可解なケルビンの仕打ちに甘んじる必要はもうなかったのだった……。
マリアは力を持っていた。それは、どこから湧いて来るのか、その源を知ることはできない。だがしかし、内秘めたる思いは思いのほか強く、それを発揮してしまうと、世界が滅びるほどの恐怖に結びつくというから、これはまた、驚きである。
「ケルビン様???もう一度確認致します。ケルビン様は……本当に……私との婚約を破棄する……これでよろしいのですね???」
「そうだと言っているだろう!!!何度も何度もしつこいぞ!!!」
「ああ、本当にそうなのですね???分かりました。あなた様がそこまでおっしゃるのでしたら……私にも考えがあります…………」
そう言って、マリアは悍ましい姿に変身を遂げた。それは、一瞬の出来事だった。あれほど血気盛んだったケルビンの顔色が急に褪せてしまうほどだった……。
「おい……これは一体何なのだ???」
「さあ……何でございましょうかね???私にも正直分からないのです……。ただ……なんとなく、怒りたいかなって、考えてしまいますと、こんな感じになってしまうんですよねえ…………」
「お前は……人間ではないのか???この悪魔め!!!」
そう言って、ケルビンは懐から刀を取り出した。マリアを完璧に殺すつもりのようだった。
「あら……そんな刀で、私の胸を貫けると思っていらっしゃいますの???まあ、なんて幼稚なのでしょう……」
マリアがこう言うと、
「うるさい!!!ふざけるな!!!
と、ケルビンは言った。そして、刀を適当に振りかざして、マリアのところにやって来たのだった……。
刀は見事、マリアの胸を貫いた……かのように見えたのだが、実際はそうでもなかった。単純に、貫通したように見えただけで、実際は、どこにも刺さっていなかったのだ。
「そんな……悪を断ち切る聖剣が……どうして、こんなことに???」
「それはね、あなた自身が悪魔だからですよ!!!!」
そう言って、マリアはケルビンの胸をつかんだ。
「おい……何をしているんだ!!!!!離せ!!!!!」
「いやです……どうして???婚約破棄なんて言い出すんですか???ねえ、早く撤回しませんか???そしたらば、命だけは助けてあげてもいいですよ???」
「そんなこと……お前の正体を見てしまったら……尚更無理な話だ!!!!!」
「ああ、随分と強情ですね。まあ、そんなあなたに惚れたこともありましたっけ???でもね、こうやって、私のことを蔑ろにしようとするのは……大いに問題ありだと思うんですが???」
そう言って、マリアはケルビンを突き飛ばした。危うく、刀がケルビンの胸を通り抜けるところだった。
「危ないじゃないか!!!」
ケルビンは叫んだ。
「あらあら……そうやって、まだ私と張り合おうって言うんですか???随分と命知らずなんですね。まあ、そんなかっこよさに……私は惚れたのかもしれませんが……」
「お前……何を言っているんだ???頭おかしいんじゃないか???」
「可笑しいですって???私が???そんなことはないですよ???私はただ、第一王子ケルビン様を愛し続けております公爵令嬢のマリアです!!!」
そう言って、マリアは、ケルビンから奪った刀を持ち出して、ケルビンの元に飛んでいった。
「私ね、色々な能力を持っていましてね、こうやって飛ぶことだってできるんですよ???そしてね、ほら、あなたの胸にダイブすることだって、できるんです!!!」
「痛い!!!!止めてくれえええっ!!!!!」
「あらあら……随分と非力になってしまいましたね????あの強情なケルビン様は、一体どこに行ってしまったのですか????私の愛した、あのケルビン様は、一体どこに行ってしまったのですか!!!!!!」
ケルビンをことごとく粉砕する……それが、聖女マリアに残された最後の仕事だった。そして……ケルビンの屍を粉々に破壊するのも……これもまた、マリアの仕事だった。
「ああ、人間と言う生き物は、やっぱり理解できませんねえ……。神様が滅ぼしたいとお思いになるのも、よく分かりますわ。さて……次は誰を目標にしましょうか???なるべく、上物がいいですね。このケルビンとか言う男は……あまりにも下らない人間でした。神様に報告することなんて、一つもない……。ああ、もっと上物を探さないと…………」
マリアの旅は、まだまだ続く。
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