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第5章 夜も激しくなりそうです
第76話 約束
しおりを挟む「いやぁ! 凄まじい決着でした! これはナイトライセンス試験史上、最上級の戦闘だったのではないでしょうか!」
「受験者も試験官も、かつてないハイレベルでござったなぁ……! うぅむ眼福眼福!」
決着のついた蓮とシイナはカメラから外れ、配信では実況と解説によるエンディングトークが流れていた。
・シイナ様ぁあああああああ!
・まさかシイナ様が負けるとか
・さすがの蓮くんさんよ!
・なんだよ、アイビスってガチじゃん!
・忖度バトルどころじゃなかったな
・でも最後、あっさり降参しなかった?
・あそこから逆転は無理だろ
「キューゴさん、リスナーの中でも疑問に思っている方がいるようですが――」
「ラストでござるな?」
解説役のキューゴがうなずく。
「たしかにシイナ殿はまだ戦闘続行できる状態ではありましたが。しかし、接近戦に持ち込まれた時点で勝敗は決まっていたでござるな」
「接近戦では、遠野蓮が有利だったと」
「武器はなくしてもなお――と、シイナ殿は判断したようでござるな。そして【夜嵐】は、魔力の消耗も激しいでござる。対する蓮殿は、まだまだ余裕があった」
・確かにあれだけ攻められてもほぼノーダメージだったよな
・ガチで攻撃始めてからは一瞬で決着だったし
・シイナより蓮のほうが強いってこと?
・悔しいけどそんな感じ
「改めて、恐ろしいルーキーですね……」
「拙者もまさか、ここまでとは……」
・実況とキューゴもビビってトーンダウンしてるんだがw
・やべ、俺アイビス見始めるわ
・文句つけようと思って開いてたけど俺も
・アイビスはいいぞ
・いらっしゃいませ! 豚小屋、空いてますよ!
・蓮くんの「お兄ちゃん&お姉ちゃん」も続々増えるね!
「――さて、遠野蓮の試験結果は後日発表されます。いやはや、それにしても、どちらも凄まじい戦闘を見せてくれました。お2人は1階層に戻っている頃でしょうか」
「マニアには垂涎モノのバトルでしたな! きっと今頃は互いの健闘を称え合って、固い握手でも交わしているのでござろう!」
「同じ事務所の先輩と後輩、絆が深まったことでしょうね。――それでは、この実況配信もここで終了したいと思います。リスナーの皆さま、ありがとうございました!」
・実況さんもおつかれ~
・キューゴもまあまあ良かったぞ!(何様)
・まだ興奮が止まらんわ
・2次会が必要だな
・アイビスのフリーチャットでやろうぜ!
・語ろう語ろう!
・私もお邪魔させてください! 蓮くんとシイナさんのファンになりました!
・あの2人、いまごろイチャついてるかもな~
・シイナも蓮くんの魅力にイチコロか
・そこも配信してくれよ~w
■ ■ ■
四ツ谷ダンジョン1階層。
転移魔法陣で到着した蓮とシイナは、配信を見ていたギャラリーに囲まれそうになったが、試験のスタッフとアイビスのマネージャーの先導で、どうにかその人垣を抜けてレンタルスペースに避難していた。
「…………」
「…………」
殺風景な会議室で2人きり、向き合って。
「……………………」
「……………………シイナ先輩?」
返事がない。
険しい表情のままなので、まだ怒っている可能性が高いが――自分によく似た性格ということは。
「……もしかして、緊張してる?」
「し!?」
「し?」
「し、ししし、してないし!?!?」
(してるんだ)
裏返った声で目を泳がせるシイナ。蓮だって人見知りだが、ここまで見事に緊張した人間を前にすると、逆に落ち着こうというものだ。
(この隙に……)
シイナの、蓮に対する怒りを取り除いておかなければ。戦闘中はいくら殺意を投げかけられても構わないが、普段からあの調子で絡まれたらたまったものじゃない。
「あのさ、梨々香先輩のことで――」
「は?」
彼女の名前を口にしただけで、瞬時にスイッチが入る。今にもここで戦闘を始めそうな雰囲気。
「――たぶん、試験前に聞こえてなかったっぽいけど」
「何を?」
蓮は、シイナに梨々香との会話を教えてやる。
「梨々香先輩、シイナ先輩のことも応援しに来てたんだけど」
〝今日はね、レンレンの活躍が見たくって試験のバイトに申し込んだんだよ! ぴーす☆ それにぃ――〟
――それに。
「『友達のシイナちゃんも出るし! 2人の応援に来たんだよ』って」
「ふぇっ!? う、ううう、うそだ」
と、そこへ。
「おっつかれさまーっ☆」
バーン!とドアを開けて、部屋に梨々香が入ってきた。
「り、梨々香ちゃん……!?」
「先輩。あの――」
蓮は、今の会話の流れを梨々香に伝える。
「うん、そーだよ! シイナちゃんカッコ良かったよね~」
「お、おっふぅ……!? ま、負けちゃったけどぉ……」
「関係ないよ! 梨々香、シイナちゃんの戦ってるとこも、メッチャ好きなんだ~」
「ッッ!? ふっ、ふぇふぇっ……」
梨々香のボディタッチに驚いたシイナの、ヘアピンが落ちて両目が前髪に隠れる。
ナイトドレスを纏った美麗な18歳が、その整った相貌をニチャァっと歪めて妙な声を漏らすさまというのは……何とも言いがたい光景だった。
そんなところへさらに、
――コンコン
ノックと共に入室してきたのは、
「蓮くん、お疲れさま」
「おー、結乃ちゃん☆」
結乃だ。
この1階層で試験配信を見ていたらしい。
「今日も凄かったね」
「う、うん――」
満面の笑みで労われると、つい目を逸らしてしまう。
「あ、はじめましてシイナさん。私、蓮くんの配信に出させてもらってる柊結乃といいます」
「――えっ、あっ、は、はい、どもです……」
シイナのほうが年上のはずだが、初対面の結乃を前に縮こまってしまっている。結乃はいつもどおり、人当たりの良い笑顔と態度だ。
「そだ!」
と、梨々香が声をあげる。
「レンレンの『おめでとう会』やろーよ結乃ちゃん!」
「おめでとう会、ですか?……いいですね!」
「いや、試験結果は後日らしいって――」
「そんなの合格に決まってるじゃん! だからおめでとう会だよ☆」
「は、はあ」
梨々香はマイペースに、うーんと考えるジェスチャーをしてから、
「うん、【フェアリーランド】にしよ! ね、いいでしょ!」
「! いいですねフェアリーランド」
結乃も乗り気だ。
蓮も、知ってはいるが……
「フェアリーランドって、あの『夢と妖精の国』……?」
それは、国内最大級のアミューズメントパークだ。
キラキラしていて、人がとてつもなく多くて、みんなワーワー、キャーキャー言って騒いでいる……。
「蓮くん、行ったことある?」
「な、ないけど」
「じゃあ案内するね。蓮くんとフェアラン、楽しいだろうな~」
「――――っ! う、うん……」
結乃の嬉しそうな顔を見ると、『行ってもいいかな』という気持ちになる。
「梨々香もいろいろ教えたげるね? えー、なんかコスプレして行こうよ~☆」
「私、あそこのポップコーン大好きなんです」
「わかる~! 持ち歩いて食べるのがまたいいんだよね」
盛り上がる2人。
――蓮は、その背後で立ち上りかけている黒いオーラを、いち早く察知して、
「あ、あの梨々香先輩、シイナ先輩も一緒に」
「ファッ!?」
「え? もちだよ~☆ シイナちゃんも行くよね? 行ったことある?」
「な、ない、っすー…………」
「んじゃ、いこいこ! ね?」
「おっ、あ、あうぅ……、い、いくぅ……」
「やったー!」
全身で喜びを表現して梨々香は――あろうことか、シイナの右腕にぎゅっと抱きつく。
「――――――――ッッッ!?!?」
「ダブルデートだね☆ 楽しみ~」
「ふぉッ!? で、ででで――――!?!?!?」
「そんじゃ結乃ちゃん、経験者2人でプラン立てよ☆」
「はい」
はしゃいで打合せを始める結乃と梨々香。
(あ……、これマズいか?)
梨々香が他の人間とイチャイチャするのを、隣のこの人は嫌うはずだ。そう思ってチラリと見上げるが、
「で、デート……梨々香ちゃんとデート……ふふっ」
「…………」
どうやら、それどころではないようだ。
そんなシイナが、ふと蓮からの視線に気づく。一瞬、表情が固くなるが、
「ふ、ふへ……」
頬をヒクヒクさせるから何かと思えば、
――グッ!
と親指を立ててきた。サムズアップのつもりらしい。つまり、喜んでいると思っていい……のか?
(うーん、扱いが難しいのか簡単なのか……)
なんて、蓮は自分のことを棚に上げた感想を抱く。
「とりま!」
と、梨々香の声がふたたび響く。
「コスプレ決まったよ~」
「え」
冗談ではなかったのか。テーマパークに行くだけでコスプレ? 何のために?
「JKのコスプレしま~す☆ 結乃ちゃんはJKだけどぉ、ギャルっぽいやつ!」
「結乃――」
「え、えへへ」
照れくさそうに頬をかく結乃。やる気ではいるらしい。
「シイナちゃんもね!」
「うぇっ!? ぎゃ、ギャルは……」
「前に着てた制服着てくればいいよ! 梨々香がいろいろグッズ持ってくから、現地でメイクしよ☆」
「う、うぇい~……」
「レンレンは――」
「僕!?」
まさか女子高生の格好を!?
「蓮くんは、高校生っぽいブレザーの服にしよ」
「だ、男子の……?」
「うん」
ほっ、と胸を撫でおろす。
「――――話は聞かせてもらいましたッッッ!」
またもやドアがバーーーン! と開かれて、マネージャーの衛藤が拳を握っていた。
「その衣装は事務所が用意しましょう! 経費です、経費! 超経費!」
「経費……なるの?」
「します! させます! できなくても私が自腹で払います! 結乃さんたちと、たっぷり楽しんできてください!!」
「う、うん」
「そしてその画像をたくさん私にもくださいね!」
「え、うん」
なんだか勢いで変な約束もさせられた気がするが……。
「レンレンとシイナちゃんの、『おめでとう&お疲れ会』! けって~~い☆」
こうして、夢と妖精の国でのダブルデートが決定してしまった。
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