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2:妖狐~盗賊少女~女盗賊

第16話 瘴気くっさぁ

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 ■ ■ ■


「んー? なんだこの穴」

 森を抜けたところにあった大きな穴の前で、1人の少女がいぶかしげな声をあげる。

「こんなんあったっけ? 姉御と前に来たときには――」

 短いポニーテール。
 整った顔をしているが、気の強い、反発心のかたまりのような表情。

 薄い胸を隠したチューブトップに、ボロ布のマフラー。下半身は太ももがほとんど見えるほどのホットパンツに、履き古したショートブーツ。

 防御力皆無な格好をした少女は、目をこらして穴の中を確認する。

「あっやしいなー。てか、お宝のにおいプンプンじゃん」

 真っ暗な内部はほとんど見えないが、ただならぬ気配だけは漂ってくる。

 威嚇とは違う。
 誘うような雰囲気でもない。
 どうにも、まるで『見つかりたくない』とでも言わんばかりのだ。

「ふふん、このキア様の鼻はごまかせないよ~? すんすん」

 漂うかすかな魔力から危険を察知する、【盗賊】としてのスキル。
 
「――ッッ!? ちょっ!? なにこの瘴気!?」

 かつて嗅いだことがないほど濃密な瘴気。

「瘴気くっさぁ……んでも、ちょっと癖になるかも? すー、すー……」

 吸い込むと背筋がゾクゾクっと震えて、体の芯が――なぜか下半身が特に痺れるような、背徳的な――

「――って、こんなことしてる場合じゃないし!」

 頭をブンブン振って瘴気を取り戻す。

「これ、絶対なんかあるヤツじゃん。姉御を呼んで……いや、ウチ1人でお宝見つけたら姉御もメッチャ褒めてくれるよね?」

 粗野な男連中すら従える、キアの姉御。キアが所属する盗賊団のお頭だ。
 孤児だった自分を拾ってくれたのは彼女だった。ボロ雑巾みたいだった自分を庇護し育ててくれた恩もあるが、それ以上に憧れの人だ。

 男にも負けない、権力にも屈しない女盗賊。
 早く彼女に追いつきたい。役に立てる自分になりたい。

「よ~し、待ってろよお宝~」

 盗賊少女は舌なめずりをし、意気揚々と横穴の中へと入っていった。まさか――

 この暗く深い穴の中で、乙女の肌をすべて晒して悶えることになるなんて、知らないままで……。


 ■ ■ ■


「侵入者だ」

 キッチンで3人分の調理をしていた俺の脳内に、人間の侵入を告げるアラートが流れた。

 すぐさまリビングでモニターを展開する。さながらここは監視室であり、司令室にもなる。

「……盗賊か!」

 ネームドキャラだ。
 侵入者レベルがアップしている。しばらくは村娘ちゃんだけで凌げると思ってたのに。

「にんげん?」

 ソファに腰を下ろした俺の横に、メディがちょこんと座る。

「ああ。ダンジョンのお宝目当てにやってきた盗賊の下っ端、キアだな」
「名前わかる?」
「…………、王子だった頃にちょっとな」

 危ない、これは前世でのゲームの知識だったな。

 モニターに映し出されるキアは、最初の小部屋で戸惑っている。
 入ってすぐに行き止まり。普通ならここで『何もない』と判断するんだが……

「コツコツしてる」
「探ってるな」

 さすがは盗賊。
 洞窟の壁を拳で叩いて確かめている。
 年齢は――たしか設定では13歳だったはず。それでも盗賊としての経歴は長く、しかも探索に向いたタイプなんだろう。

 慎重に、確実に辺りを探っている。
 やがて、通路を塞いだ壁に行き当たり、

『……ここ、おかしくない?』

 と独り言をこぼす。
 手の平で壁に触れ、

『スキル【解錠】――っと』

 すると、防壁がボロボロと崩れ落ちる。侵入者の行く手を阻むものを、【解錠】スキルの判定ではトラップとして認識したのかもしれない。 

「厄介なスキルだな。これじゃあどんだけぶ厚い壁で塞いでも無駄か」

【銅級】とはいえ、トラップへの耐性どころか対抗する手段すら持っている盗賊少女――やっぱり【無印】の村娘ちゃんとはレベルが違うな。

「アルトさま、どうするの?」
「そうだな――ここは新人の朧にさっそく活躍してもらうかな」

 俺は人間と会いたくないし、メディは石化させてしまう。ここは人を化かすのが得意な【千年妖狐】に前線を張ってもらうのがいいだろう。そのためにスカウトしたしな。

「――朧?」
「ふへぇ……?」

 風呂あがりの彼女は、完全にのぼせ上がってしまいフローリングの床で五体投地――全身を投げだし、突っ伏して死体のようになっていた。

「……なんじゃあ、あるじ殿ぉ……」
「聞こえてなかったか。もう一肌脱いでもらおうと思ってな」
「ぬ、脱ぐ……!?」

 さっきの入浴でトラウマにでもなったかな?

「あるじ殿の命令で――脱ぐ! よ、よいじゃろう!」

 と思ったら、うろんだった瞳に力強さを取り戻し、朧はぐぐっと体を起こした。

「風呂場で見せてくれたあの逞しく漲るモノ!」
「魔力な」
「あれほど濃いのは初めてじゃ、やみつきになる――メスの本能が刺激された!」
「魔力な」
「やはり強いオスは素晴らしい! そして、なぜだかあるじ殿の命令を受けると活力が満ちてくるのじゃ。もはや快感ですらある!」
「そりゃあ良かった」

 何だか知らないがやる気は満々らしい。

「メディはお留守番できるか?」
「家……まもる?」
「そう。俺たちの家をな」
「まもる!」

 はりきるメディの頭を撫でて、朧を引きつれ、盗賊少女の迎撃に向かった。
  



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