34 / 35
第3章 南の海を目指して
ストレンジ=パーティー
しおりを挟む
......あれは1週間前のことであった。イェルドの提案を受け入れたハルトウィンは、南の国『アリタニア』へ行くことを決定した。正式な使節となると何かと面倒なので、最少人数で身分を明かさない隠密行動になる予定であった。
「私も行きたいです」
はっ、としてハルトウィンは顔を上げる。視線の先には、椅子に座っているラディムの姿である。
「は......?」
ラディムの返事に戸惑うハルトウィン。クリューガー公国首都ハレンスブルクの公宮。その玉座にいるラディムにしばしの暇を許可してもらうはずだったのが、それは意外な返答であった。
「私も、見てみたいです。南の国の様子を」
「ええと......公爵閣下におかれましてはそのような軽々しいことは......」
「伯は行かれるのでしょう。爵位では一つしか違いません」
「この旅は隠密で.......その......安全上の」
右手を出すラディム。そのうえでボッと炎が立ち上がる。
「公爵位を世襲してから更に魔法術力が強くなったようです。自分の身は、いや『おねえさま』の身は守ることはできると思いますが」
この世界、貴に属する血が魔法力を増大させるといういわれがあった。
ハルトウィンはなにか寒気が走るのを感じた。何かとても大きな荷物を背にしたような思いにとらわれて。
「しかし、公爵になられて間もない不安定な状況でハレンスブルクを閣下が離れられるのも。領民の人心によろしくないと......」
そっと自分の口に人差し指を立て、ラディムはウィンクする。
一時間後、別の人物が玉座に座る。顔にはベールをまとって。
「これなら大丈夫でしょう」
そう言いながら、兵士の軍服をまとったラディムがそうつぶやく。目線の先には公爵の衣をまとったクリューガー公爵――ならぬカレルが座っていた。
「.......」
無言のハルトウィン。いわゆる『替え玉』である。
「カレル、それでいいのか?」
ハルトウィンはそう問う。
「公爵閣下のご命令のとおりに」
下をうつむきながら、そうカレルは返す。
(ドレスの借りはこれで返しましたよ)
心のなかでカレルはそう繰り返す。ハルトウィンは額にそっと手を伸ばしてため息を付いた。
結果、三名の同行者が決定した。
南の国の状況に詳しいイェルド。そして、強引ながら同行者の権利を得たラディム。
(......ううん)
ハルトウィンは悩んだ挙げ句、ある人物を同行者に決定する。
「わたし?ですか......?まあ、今は暇なので......南の国!......そりゃあ良いですな!ぜひ!」
声をかけたのはハレンスブルク商業参事会女傭兵隊長にて現在は辺境伯警護室長ドラホスラフ=バルトシークであった。女性の身ではあるが歴戦の勇士で、個人としてもとてつもない剣術の持ち主という人物である。先の内戦では後方を安心して任せることができた。
実力信頼ともに問題ない。合わせてとりあえず女性の身のハルトウィンとしても、同性であるほうが色々都合が良いのも事実であった。
かくて四人の奇妙なパーティーの旅が始まるのであった――
「私も行きたいです」
はっ、としてハルトウィンは顔を上げる。視線の先には、椅子に座っているラディムの姿である。
「は......?」
ラディムの返事に戸惑うハルトウィン。クリューガー公国首都ハレンスブルクの公宮。その玉座にいるラディムにしばしの暇を許可してもらうはずだったのが、それは意外な返答であった。
「私も、見てみたいです。南の国の様子を」
「ええと......公爵閣下におかれましてはそのような軽々しいことは......」
「伯は行かれるのでしょう。爵位では一つしか違いません」
「この旅は隠密で.......その......安全上の」
右手を出すラディム。そのうえでボッと炎が立ち上がる。
「公爵位を世襲してから更に魔法術力が強くなったようです。自分の身は、いや『おねえさま』の身は守ることはできると思いますが」
この世界、貴に属する血が魔法力を増大させるといういわれがあった。
ハルトウィンはなにか寒気が走るのを感じた。何かとても大きな荷物を背にしたような思いにとらわれて。
「しかし、公爵になられて間もない不安定な状況でハレンスブルクを閣下が離れられるのも。領民の人心によろしくないと......」
そっと自分の口に人差し指を立て、ラディムはウィンクする。
一時間後、別の人物が玉座に座る。顔にはベールをまとって。
「これなら大丈夫でしょう」
そう言いながら、兵士の軍服をまとったラディムがそうつぶやく。目線の先には公爵の衣をまとったクリューガー公爵――ならぬカレルが座っていた。
「.......」
無言のハルトウィン。いわゆる『替え玉』である。
「カレル、それでいいのか?」
ハルトウィンはそう問う。
「公爵閣下のご命令のとおりに」
下をうつむきながら、そうカレルは返す。
(ドレスの借りはこれで返しましたよ)
心のなかでカレルはそう繰り返す。ハルトウィンは額にそっと手を伸ばしてため息を付いた。
結果、三名の同行者が決定した。
南の国の状況に詳しいイェルド。そして、強引ながら同行者の権利を得たラディム。
(......ううん)
ハルトウィンは悩んだ挙げ句、ある人物を同行者に決定する。
「わたし?ですか......?まあ、今は暇なので......南の国!......そりゃあ良いですな!ぜひ!」
声をかけたのはハレンスブルク商業参事会女傭兵隊長にて現在は辺境伯警護室長ドラホスラフ=バルトシークであった。女性の身ではあるが歴戦の勇士で、個人としてもとてつもない剣術の持ち主という人物である。先の内戦では後方を安心して任せることができた。
実力信頼ともに問題ない。合わせてとりあえず女性の身のハルトウィンとしても、同性であるほうが色々都合が良いのも事実であった。
かくて四人の奇妙なパーティーの旅が始まるのであった――
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる