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第3章 南の海を目指して

ストレンジ=パーティー

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 ......あれは1週間前のことであった。イェルドの提案を受け入れたハルトウィンは、南の国『アリタニア』へ行くことを決定した。正式な使節となると何かと面倒なので、最少人数で身分を明かさない隠密行動になる予定であった。
「私も行きたいです」
 はっ、としてハルトウィンは顔を上げる。視線の先には、椅子に座っているラディムの姿である。
「は......?」
 ラディムの返事に戸惑うハルトウィン。クリューガー公国首都ハレンスブルクの公宮。その玉座にいるラディムにしばしの暇を許可してもらうはずだったのが、それは意外な返答であった。
「私も、見てみたいです。南の国の様子を」
「ええと......公爵閣下におかれましてはそのような軽々しいことは......」
「伯は行かれるのでしょう。爵位では一つしか違いません」
「この旅は隠密で.......その......安全上の」
 右手を出すラディム。そのうえでボッと炎が立ち上がる。
「公爵位を世襲してから更に魔法術力が強くなったようです。自分の身は、いや『おねえさま』の身は守ることはできると思いますが」
 この世界、貴に属する血が魔法力を増大させるといういわれがあった。
 ハルトウィンはなにか寒気が走るのを感じた。何かとても大きな荷物を背にしたような思いにとらわれて。
「しかし、公爵になられて間もない不安定な状況でハレンスブルクを閣下が離れられるのも。領民の人心によろしくないと......」
 そっと自分の口に人差し指を立て、ラディムはウィンクする。
 一時間後、別の人物が玉座に座る。顔にはベールをまとって。
「これなら大丈夫でしょう」
 そう言いながら、兵士の軍服をまとったラディムがそうつぶやく。目線の先には公爵の衣をまとったクリューガー公爵――ならぬカレルが座っていた。
「.......」
 無言のハルトウィン。いわゆる『替え玉』である。
「カレル、それでいいのか?」
 ハルトウィンはそう問う。
「公爵閣下のご命令のとおりに」
 下をうつむきながら、そうカレルは返す。
(ドレスの借りはこれで返しましたよ)
 心のなかでカレルはそう繰り返す。ハルトウィンは額にそっと手を伸ばしてため息を付いた。

 結果、三名の同行者が決定した。
 南の国の状況に詳しいイェルド。そして、強引ながら同行者の権利を得たラディム。
(......ううん)
 ハルトウィンは悩んだ挙げ句、ある人物を同行者に決定する。
「わたし?ですか......?まあ、今は暇なので......南の国!......そりゃあ良いですな!ぜひ!」
 声をかけたのはハレンスブルク商業参事会女傭兵隊長にて現在は辺境伯警護室長ドラホスラフ=バルトシークであった。女性の身ではあるが歴戦の勇士で、個人としてもとてつもない剣術の持ち主という人物である。先の内戦では後方を安心して任せることができた。
 実力信頼ともに問題ない。合わせてとりあえず女性の身のハルトウィンとしても、同性であるほうが色々都合が良いのも事実であった。
 かくて四人の奇妙なパーティーの旅が始まるのであった――
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