11 / 32
第1章 タルフィン王国への降嫁
二つ目の『つとめ』
しおりを挟む
王宮。眼の前には鎧を身に着けたロシャナク。そして机の上には空になった皿。
シェランはどきどきしながらそれを見つめる。
口をそっと白い布でふきとりながら、ロシャナクはこういった。
「――合格です」
やったー!とおもわずシェランは叫んでしまう。
「なんの変哲もない炊き込みご飯ですが――それがいい」
ルドヴィカの言う通りだった、とシェランは心のなかでつぶやいた」
「われらオアシスの民にとって、米は何よりのごちそう。そして貴重な野菜と羊の肉の組み合わせは栄養的にもかなっている。なにより――」
スプーンをとり、そのさきっぽをじっとみつめながらロシャナクは続けた。
「『香辛料』を使われましたね。これは食用だけではなく、薬としてもその効果は絶大と言われています。さらに」
これもまたルドヴィカの入れ知恵である。すこし恐縮してしまうシェランである。
「わが王国にとって、大事な交易の品でもある『香辛料』。これがわがオアシス都市に莫大な富をもたらす元となっています。まさに『永遠の命。不老長寿の秘訣。その糧』の命題にふさわしい。よって――」
こほんとせきばらいをするロシャナク。少し間をおいて。
「『王妃のつとめ』の一つ目、合格とします」
わー!と思わず歓声をシェランはあげる。
それをカーテンの奥から見つめる視線――他ならぬ国王ファルシードの姿であった。ホッとした表情を浮かべたあと、目を閉じ再び執務に向かう――
「ルドヴィカちゃん、ありがとう。おかげでお姫様喜んでくれた!」
市場の店でそうシェランはルドヴィカに報告する。
「あの『香辛料』は私の自慢の調合だからな。どんなやつでもイチコロだよ」
へへん、とルドヴィカは鼻をならす。
「――で、ねえ......実はまた問題が起きちゃって......」
ん?とルドヴィカはパンをはみながら聞き返す。
「姫様からこんなお願いされてしまって――」
小さな紙切れを手渡す。それをルドヴィカは開き、読み上げる。
「『類まれなる宝石。オアシスの女神。それを捧げよ』......?」
うんうんと腕を組みながらシェランはうなずく。
「姫様がねぇ、宝石がほしいって。それもこのオアシス都市でしか手に入れられないようなとーってもすごいやつを。で」
すこし間をおいて、シェランは続ける。
「ルドヴィカちゃんなら、商人だし知ってるかなって......」
ふーんとルドヴィカは考え込む。
「まあ、この都市にはいくらでも珍しい宝石は売っているぜ。もちろん」
指で輪っかを作る。
「これ次第――金次第だがな。姫様のご予算はおいくら万銀ゴルドだい?」
「ええと......それは......」
「まあ、一〇〇万銀ゴルドはほしいところだな」
「いやそれより、こうちょっと......」
「流石は『大鳳皇国』のお姫様だ。桁が違ったか」
「いや、上の方じゃなくて下の方に桁が違って」
「じゃあ一〇万」
「もうちょっとした」
「一万か?」
「いやもっとこう、ずっと――つまり......ゼロ......万銀ゴルドっていうやつで」
動きが止まるルドヴィカ。
「ゼロ......ロハ......つまりただってことで......」
「用事を思い出した。帰ってくれ」
そんな事言わずに~と泣きつくシェラン。
「お前、私は商人だぞ!ただでものを売るバカがどこにいる!」
ロシャナクから出された二つ目の『王妃のつとめ』。それはオアシスの女神と言われる宝石を、自らの力で手に入れることであった――
「まあ泣くのはやめろよ。こっちまで悲しくなる」
ぐすぐすと鼻をすするシェラン。それをそっとルドヴィカはなぐさめる。
「おまえさんがお姫様だとはな。こっちこそ失礼した」
すべてをシェランは打ち明けた。自分のおかれた境遇や生い立ちについても。
「どうせ私なんか......かわいくないし......ビンボだし.....」
「見た目はいいと思うけどな」
ルドヴィカはさり気なくシェランの銀髪をなでる。
「それにしてもなぁ......この『王妃のつとめ』の条件が『一切国費は使わないこと』というのも......シェラン、だったっけ?お前金持ってないのかよ」
全力で首をふるシェラン。
「いやさ、あの『大鳳皇国』からの輿入れだったら色々もらったんだろ。持参金」
「......父様の借金払って、道中の旅費でほとんどなくなって......お金管理している人も途中でいなくなっちゃって......」
なんともしがたい話を聞いてルドヴィカは、はあ、ため息をつく。
しゃあないか。
「よしわかった!私がなんとかしてやる!」
「......?」
「お姫様に恩を売っておくのも商人として悪くない。探してやるよ、『オアシスの女神』を!」
ありがとう!とルドヴィカに抱きつくシェラン。
こうして二つ目の『王妃のつとめ』を探すミッションが幕を開ける――
シェランはどきどきしながらそれを見つめる。
口をそっと白い布でふきとりながら、ロシャナクはこういった。
「――合格です」
やったー!とおもわずシェランは叫んでしまう。
「なんの変哲もない炊き込みご飯ですが――それがいい」
ルドヴィカの言う通りだった、とシェランは心のなかでつぶやいた」
「われらオアシスの民にとって、米は何よりのごちそう。そして貴重な野菜と羊の肉の組み合わせは栄養的にもかなっている。なにより――」
スプーンをとり、そのさきっぽをじっとみつめながらロシャナクは続けた。
「『香辛料』を使われましたね。これは食用だけではなく、薬としてもその効果は絶大と言われています。さらに」
これもまたルドヴィカの入れ知恵である。すこし恐縮してしまうシェランである。
「わが王国にとって、大事な交易の品でもある『香辛料』。これがわがオアシス都市に莫大な富をもたらす元となっています。まさに『永遠の命。不老長寿の秘訣。その糧』の命題にふさわしい。よって――」
こほんとせきばらいをするロシャナク。少し間をおいて。
「『王妃のつとめ』の一つ目、合格とします」
わー!と思わず歓声をシェランはあげる。
それをカーテンの奥から見つめる視線――他ならぬ国王ファルシードの姿であった。ホッとした表情を浮かべたあと、目を閉じ再び執務に向かう――
「ルドヴィカちゃん、ありがとう。おかげでお姫様喜んでくれた!」
市場の店でそうシェランはルドヴィカに報告する。
「あの『香辛料』は私の自慢の調合だからな。どんなやつでもイチコロだよ」
へへん、とルドヴィカは鼻をならす。
「――で、ねえ......実はまた問題が起きちゃって......」
ん?とルドヴィカはパンをはみながら聞き返す。
「姫様からこんなお願いされてしまって――」
小さな紙切れを手渡す。それをルドヴィカは開き、読み上げる。
「『類まれなる宝石。オアシスの女神。それを捧げよ』......?」
うんうんと腕を組みながらシェランはうなずく。
「姫様がねぇ、宝石がほしいって。それもこのオアシス都市でしか手に入れられないようなとーってもすごいやつを。で」
すこし間をおいて、シェランは続ける。
「ルドヴィカちゃんなら、商人だし知ってるかなって......」
ふーんとルドヴィカは考え込む。
「まあ、この都市にはいくらでも珍しい宝石は売っているぜ。もちろん」
指で輪っかを作る。
「これ次第――金次第だがな。姫様のご予算はおいくら万銀ゴルドだい?」
「ええと......それは......」
「まあ、一〇〇万銀ゴルドはほしいところだな」
「いやそれより、こうちょっと......」
「流石は『大鳳皇国』のお姫様だ。桁が違ったか」
「いや、上の方じゃなくて下の方に桁が違って」
「じゃあ一〇万」
「もうちょっとした」
「一万か?」
「いやもっとこう、ずっと――つまり......ゼロ......万銀ゴルドっていうやつで」
動きが止まるルドヴィカ。
「ゼロ......ロハ......つまりただってことで......」
「用事を思い出した。帰ってくれ」
そんな事言わずに~と泣きつくシェラン。
「お前、私は商人だぞ!ただでものを売るバカがどこにいる!」
ロシャナクから出された二つ目の『王妃のつとめ』。それはオアシスの女神と言われる宝石を、自らの力で手に入れることであった――
「まあ泣くのはやめろよ。こっちまで悲しくなる」
ぐすぐすと鼻をすするシェラン。それをそっとルドヴィカはなぐさめる。
「おまえさんがお姫様だとはな。こっちこそ失礼した」
すべてをシェランは打ち明けた。自分のおかれた境遇や生い立ちについても。
「どうせ私なんか......かわいくないし......ビンボだし.....」
「見た目はいいと思うけどな」
ルドヴィカはさり気なくシェランの銀髪をなでる。
「それにしてもなぁ......この『王妃のつとめ』の条件が『一切国費は使わないこと』というのも......シェラン、だったっけ?お前金持ってないのかよ」
全力で首をふるシェラン。
「いやさ、あの『大鳳皇国』からの輿入れだったら色々もらったんだろ。持参金」
「......父様の借金払って、道中の旅費でほとんどなくなって......お金管理している人も途中でいなくなっちゃって......」
なんともしがたい話を聞いてルドヴィカは、はあ、ため息をつく。
しゃあないか。
「よしわかった!私がなんとかしてやる!」
「......?」
「お姫様に恩を売っておくのも商人として悪くない。探してやるよ、『オアシスの女神』を!」
ありがとう!とルドヴィカに抱きつくシェラン。
こうして二つ目の『王妃のつとめ』を探すミッションが幕を開ける――
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
片翅の火蝶 ▽半端者と蔑まれていた蝶が、蝋燭頭の旦那様に溺愛されるようです▽
偽月
キャラ文芸
「――きっと、姉様の代わりにお役目を果たします」
大火々本帝国《だいかがほんていこく》。通称、火ノ本。
八千年の歴史を誇る、この国では火山を神として崇め、火を祀っている。国に伝わる火の神の伝承では、神の怒り……噴火を鎮めるため一人の女が火口に身を投じたと言う。
人々は蝶の痣を背負った一族の女を【火蝶《かちょう》】と呼び、火の神の巫女になった女の功績を讃え、祀る事にした。再び火山が噴火する日に備えて。
火縄八重《ひなわ やえ》は片翅分の痣しか持たない半端者。日々、お蚕様の世話に心血を注ぎ、絹糸を紡いできた十八歳の生娘。全ては自身に向けられる差別的な視線に耐える為に。
八重は火蝶の本家である火焚家の長男・火焚太蝋《ほたき たろう》に嫁ぐ日を迎えた。
火蝶の巫女となった姉・千重の代わりに。
蝶の翅の痣を背負う女と蝋燭頭の軍人が織りなす大正ロマンスファンタジー。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる