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第4章 会議は踊る

ウァレリアヌス帝の誤算

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 西軍の後方を扼する島津勢。鉄砲隊が車撃ちで敵の混乱を誘い、そこに本隊が突入して傷口を拡大する。開いた傷口に更に突入する鉄砲隊。
 宗世は取り急ぎその傷口を閉じるべく下知を与えるが、島津のあまりの猛攻に対応が追いつかない。
 徳川本隊に楔が打たれる。
 そして——
 前陣にも、喧騒が巻き起こる。それまで——まんじりともせずに動かなかった、奈穂の騎馬隊が島津勢の動きに呼応して、突撃を開始したのだ。前陣の中でも一番薄いところをピンポイントに狙い、島津勢と同じく楔を打つ。
 三万の徳川本隊が前後両面から、鏨で挟み込まれるように変形していく。初めて宗世が焦った表情を浮かべる。
 そもそも、この島津勢はなぜここにいるのか。フィジカルウィンドウを開き、状況を確認する。はっと気づく宗世。大垣城が空になっていたことを。
 城には数百の兵のみを残し、島津本隊は福島、池田勢に気付かれないように伊勢街道を北進し、ここ中山道に至っていた。史実であれば、あまり戦意の高くない島津勢であったが、奈穂の『補正値』により積極的行動が可能となったのである。
 さらに、史実に名高い敵中突破を果敢に実行してきた。正面ではなく、より効果が高い背面からの奇襲攻撃という形で。それと全く同調する形での奈穂の突撃。それの最終的に意味するところは。
「…………!」
 宗世はあたりを見回す。本陣が——完全に取り囲まれていることに気がつく——前後からの挟撃により南宮山よりに移動していた本陣が徳川本隊から切り離される形となったのだ。徳川本本隊の、その数五千わずか。
 この状況にいたり、これもまた奈穂の命令と『補正値』により南宮山麓の毛利勢が一斉に攻撃を開始する。持てる限りの火力を浴びせるかける勢いで。結果五千の徳川本陣は二万の西軍に包囲殲滅される形となったのだ。
分離した部隊が主君を救出しようと攻撃を行うが、なんともうまく行かない。宗世からの命令ラインが途切れたことにより完全に後手に回っていた。
『井伊直政、戦死』
 赤いウィンドウが凶報を告げる。毛利勢の猛攻を受けた結果、その銃弾に指揮官が倒れる。井伊隊が混乱し統率が取れない状態になる。
 宗世の足元にすら、矢玉が弾け飛ぶ状況である。たった数刻前までは絶対的なアドバンテージを誇っていたはずの東軍は、一気にそのバランスを逆転されていた。
 ——陣幕が倒れ——騎馬の一体が現れる。ちっと舌打ちをする宗世。腰から刀を抜き払い、左手には槍を構える。
 騎馬に掲げられたのは『大一大万大吉』の旗印。かなりの数を失ったが——ついにここまでたどり着いたのだった。それは当然——奈穂の本隊である。それを確かめるまでもなく、宗世は槍を掲げると大きく旋回させる。二、三騎の騎馬武者が馬ごと転倒する。姿勢を低くして突っ込む宗世。刀の一線。馬の脚が見事に切断され、また倒れ込む。
「これまで……だね」
 はっとして振り返る宗世。振り向きざまに刀を振りかざす。激しい金属同士の衝撃音。宗世は地面に叩きつけられる。その首に突きつけられるやり先。馬上からそれを見つめるのは——石田治部少輔三成——奈穂の姿であった——
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