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第4章 会議は踊る

カンナエの戦い

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 混乱する小早川隊を尻目に、ゆっくりと展開を行う西軍——その中心は石田隊。戦闘には火縄銃の鉄砲隊がずらりと並ぶ。今度は、敵の姿を見極めたうえでの射撃。それに呼応して、背後の弓隊も一斉に矢の嵐をお見舞いする。そして、その隊の隙間から、両手に火縄銃を抱えた隊が足早に前進する。同じく、先ほど射ったとは別の弓隊も。
 前線の二十メートルほど手前に、同じく、鉄砲隊と弓隊の陣が構成される。反撃をしようとする小早川隊を正面に見つつ、新たな鉄砲隊による射撃、そして矢の射撃が繰り返される。
 いわゆる島津お得意の『車撃ち』である。射撃をして消耗した部隊は一番後ろに移動する。その後ろには、何隊もの鉄砲隊、弓隊が備え、補給をしつつ何度も全面で射撃を行う。
 奈穂は鉄砲だけではなく、弓隊もこの『車撃ち』に組み込むことで火力を高めた。これが何度繰り返されただろうか。あまりの火力に、小早川の前陣が完全に崩れる。それを石田隊側面に控えていた墨子が看破する。
 左手で、ハンドサインを送る。同じく奈穂も。了承のしるしである。
 右手を、すっと上げる墨子。その刹那、石田隊両側面から稲妻の如く数千の騎馬隊が、一斉に小早川隊をめがけて突っ込んでいく。この時代の騎馬は小型で、あまり騎馬格闘能力は高くないものの、この騎馬隊は特に、西軍の大型馬を中心に編成された部隊であった。
 騎馬によるの突進により、すでに崩壊しつつあった小早川勢の前陣はとどめを刺され、その混乱は、陣中までにしていた。
 槍を片手に、縦横無尽に駆け回る墨子。一騎打ちを避け、とにかく敵陣を混乱させることを目的としてジグザグに駆け回る。他の騎馬武者も同じように小早川勢を分断していく。
 本陣も、もう目の前、という状況——墨子は一瞬馬の歩みを止める。懐から愛銃のモーゼルC96を引き抜き、天に向けて放つ。
 ぱあーんという音と光。それを合図に西軍のすべての騎馬武者が回頭し、混乱する敵陣の中を一斉に自陣へ駆け巡る。それを入れ替わりにゆっくりと押し迫る西軍本隊。
 それまで支援に徹していた小西、宇喜多隊の槍兵を中心とする一万以上の部隊。崩壊した小早川隊を押しつぶすように少しずつ歩みを進める。それは一方的な攻撃であった。逃げることもかなわない。
 小早川隊の背後——かつては正面であったが——には数は少ないとはいえ、勇猛なる大谷隊が控えている。さらに、大谷隊は少しずつ後退することにより、小早川隊の圧力をうまくそらしていた。ほどなく小早川本隊も壊滅する。戦闘能力をなくした兵がばらばらと離脱していく。
『小早川秀秋。乱戦の中において死亡、確認』
 そう告げる、AI。
 奈穂はゆっくりと目を閉じる。
「やったな……」
 奈穂の肩に、ポンと手をのせる墨子。そのままうんとうなずく。
「知恵ちゃんに『ナポレオンみたい』っていわれたからね」
 ナポレオンの三兵戦術。砲兵の火力を重視した間接攻撃により、敵の陣にほころびを作り、そこに機動力の高い騎兵を突撃させ、内部から撹乱し、最後に歩兵が突撃し戦場を制圧する——奈穂はヨーロッパの戦場で実用化されるよりも二百年早くこれを日本でシミュレーションした。もっとも、火力も騎馬も、その力はのちのヨーロッパには及ぶべくもなかったが。
 フィジカルウィンドウで自軍の勢力を確認する。
 人的な損害は、ほとんどない。一万五千の大軍と戦ってこの結果は、ほぼコールドゲームといってもよかった。やや矢玉を消費した感はあったが。
 敵の残党は顧みず、関ケ原中央で西軍の再編成を行う奈穂。史実であれば、この勝利で『関ケ原』の戦いは終了であったに違いない。この世界では、さらに戦わなければならない敵がいた。それは——今南宮山のふもとに陣取っている東軍主力徳川家康——宗世の軍である。
 それは、総勢四万を越す大軍。南宮山に陣取る毛利勢と併せてほぼ互角と言える敵である。
 太陽はまだ東にある。いよいよ決戦が近づいてきた——
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