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第4章 会議は踊る

メッテルニヒの暗躍

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 水煙を上げて進む大軍。旗には、『白地に三つ葉葵』が記され、雨の中を進んでいく。それは史実より早い行動であった。
 その中ほどで、指揮を執る宗世の姿。だんだん雨は弱まってきているが、兜の下の濡れた黒髪は背にぴたりとはりつき、揺るぎもしない。
 ——中山道、関ケ原への入口、南宮山のふもとに達する東軍主力である。宗世は目の前にフィジカルウィンドウを立ち上げ、右手で認証を行う。浮かび上がる徳川家康の花押『認証のメッセージの後に、古めかしい文書が表示される。同じく見事な花押。その持ち主は『吉川広家』あった。書状の内容は徳川家康への消極的な内応を確約したもの。つまり日和見を行うというものだった。
 目の前の山に見ゆる、毛利の三星紋。
 ふっ、と笑みをもらすと再び馬の足を進めようとする宗世。全力で関ケ原に急ぎ、確たる橋頭保を築いて、西軍を待ち受ける算段が頭の中に展開していく。
 手綱を引き寄せ、馬を巡らせようとした——その時、足元に大きな衝撃。馬が大きくそる。焦らずに、それを御する宗世。そばにいた槍持ちが慌てふためくのを制する。
 宗世は即座に、フィジカルウィンドウを展開する。虚空のコンソールを操作して状況の把握に努める。
 もう一撃——そんな宗世の顔をめがけて、飛び込んでくる凶弾——懐から脇差を瞬時に抜き払い、返す刀で弾を落とす。
 南宮山をにらみつける宗世。明らかに、そちらの方向からの射撃である。もっとも長距離のためあてずっぽうで威力もかなり落ちている——火縄銃の射撃であったが。当然攻撃したのは毛利勢のはずだった。
 即座に宗世は、南宮山を包囲する形での陣の形成を、全軍に通達する。
 相手に敵意が感じられる以上『素通り』することはきわめて危険である。倍以上の軍勢を有するとはいえ、背後をつかれる形になれば西軍の本隊との挟み撃ちにもなりかねない。
 ゆっくりと、毛利の旗が動き始める。その後、矢玉は飛んでこないが明らかに内応が失敗したことを宗世は確信した——
 毛利本陣——山の下に見えるのはいくつもの陣。ゆっくりとこちらを威嚇するように編成を行っているようだ。いったい誰が——この策を用いているのか、それを宗世は想像し、にやりと笑みをもらす。

 毛利勢の大将は、AIである毛利秀元。しかし、彼は完全にイニシアティブを他の人間に渡していた。吉川広家ではない。実際に兵を動かしているのは、秀元の前にいる——鎧の上に袈裟をまとう金髪の少女——
(ナポちゃん……とりあえず『一つ』史実をひっくり返したよ)
 少女はそう小さくつぶやく。知恵=ベルナルディ——このシミュレーションでは毛利配下で四千もの大軍をひきつれる毛利家の知恵袋——安国寺恵瓊であった——
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