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第4章 会議は踊る

ひとりぼっちのギムナジウム

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 一人で大きなテーブルについている桃。髪の毛はぼさぼさで、猫背でじっとテーブルの上を見つめている。
 奈穂はすっと席を立つ。それにはかまいもしない知恵と墨子。今まさに決戦の時らしい。
「大須さん、昨日はお世話さま」
「ふぎゃ!!」
 奈穂が声をかけると、それに飛び上がらんばかりの反応をする桃。小さくなって震え始める。
「あ……ごめん……別に怖がらせようとしたわけでは……」
 視線を、テーブルの上に移す奈穂。一枚の皿。その皿の上には何やらパンらしきものが一つ。
「あ……私……それしか……食べられなくて……」
 皿のそばにある空箱。『カロリースタッフ』いわゆる栄養補助食品だ。
「植物とか……動物の形しているのがわかると……気持ち悪くて……」
 あまりの偏食。ベジタリアンやヴィーガンとも、また違う感じである。
「一緒に、食べようよ」
 桃を、自分のテーブルに誘う奈穂。最初は放心していた桃だったが、大きくうなずく。
「おお、書記長さんのご入来か」
 墨子がそう迎える。
「フルシチョフも、大祖国戦争で戦ったんだよね。中将待遇の政治委員として……っていうか将軍で政治委員って……」
 情報携帯端末で調べ始める知恵。あいかわらずだね~、という顔をしながら奈穂は桃に椅子を進める。
 ちょこんと席につく桃。
「大須さんのクラスはどんなかんじ?」
 奈穂が、食べかけのスパゲティをフォークに巻きながらそう聞く。
「私のクラスは……一人だけです」
 一人?その言葉を反芻する奈穂。
「一人って……一人なの?」
「大須さんは『マエストロ』コースだからね。私たちとは違うんだよ」
 知恵が墨子とのシミュレーションで、ドイツ軍に総攻勢をかけながらそう説明する。
「『マエストロ』……?」
「まあ、エリートコースっていうやつかな。この学校独自のシステムで……」
「それはおかしい」
 奈穂はまじめな顔でそう言う。
「ひとりぼっちで、勉強なんて……そんなの学校くる意味ないじゃん。だって……友達いないんだよ。そんなのおかしいよ」
 奈穂は、桃のほうを見やる。もじもじする桃。そして、ゆっくりと口を開く。
「あ……私も……本当はみんなと……授業とか……したいんだけど……まあ、わたしこんなんだから……お父さんとか……先生とかの勧めで……」
 消え入るような桃の声。今の状況は本意ではないことは伝わってくる。
 奈穂が口を開こうとしたその時、学食にざわめきが起きる。テーブルの間をゆっくりと歩み寄ってくる人影、数人の教員を、ひきつれている。
 奈穂は情報携帯端末のカメラをかざす。校内の人間であれば、即座に情報が引き出される。真ん中の若い男性。スーツ姿の——教員らしい。
『Directeur adjoint』と表示される。すなわち『副校長』、名前は『但馬向洋』と。
 さらに、ざわめきが起こる。——奈穂たちのテーブルにゆっくりと歩みを進める副校長——
 その影は奈穂たちの前で歩みを止める。
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