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第4章 会議は踊る
豪華客船『タイタニック号』出航
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奈穂は耐えていた。
なによりこれは、自分の矜持の問題である——授業中寝るなどということは許されがたい大罪——しかし、ここ二日間まともに寝ていない。
連夜にわたる、アリストテレス=システムのシミュレーションによって、心身ともに疲労の極みにあった奈穂。まして臨死体験のおまけつきとあれば——
机の上におかれた授業用タッチパッドに、必要な情報を打ち込みつつも、意識が途切れそうになる奈穂。今の時間は『西洋戦略論史』、ミハイル・トゥハチェフスキーの縦深戦術理論についての内容である。
(なんで、高校教育でこんなこと……)
学校設定科目、というやつで学習指導要領にない科目を、学校は独自に設定できた。その他にも『西洋哲学史』、『東洋経済史』などなど……聖リュケイオン女学園ならではの教科がずらりと並ぶ。
(数学とか、化学とかそういうのでいいんじゃないのかな。っていうかいいんだよそういうので……)
そんなことを考えながらも、必死に授業内課題をまとめていく奈穂。授業はノルマ提出式である。その授業を受けたとしても、与えられたノルマをこなさなければ出席とはみなされない。
ここで成績を落とすわけにはいかない。目標とする都立理化学修英高校理数科に転学するためにも……
そんな奈穂を尻目に、隣の知恵が欠伸をする。すでにノルマをこなしてしまったらしい。前に座っている墨子もすでに終わり、何やら古めかしい本を読んでいた。
『ナポちゃん、まだおわんないの?手抜いてる?』
小声でそう自分につぶやく知恵。
「『善く戦うものは人を致して人に致されず』。はやくおわらせないとな」
(こいつら……)
いかんせん、知識的なものでは二人に一日の長があるのは、明らかである。必死でレポートをまとめていく奈穂。結局、授業時間ギリギリの完成であった。
「この学校、おかしい」
奈穂はフォークを握りながら、そうつぶやく。
がやがやと騒がしい学園の学食。ただ、学食というにはあまりに豪華なその設営。もっともプロジェクションマッピングによる効果ではあるが。
日替わりで今日は『豪華客船タイタニックのディナー大ホール』の設定である。
「何が、ナポちゃん」
そろそろこの、呼び方も板についてきた知恵。パンをちぎりながら奈穂が答える。
「なんで……高校で旧ソ連軍人の戦闘理論とかやらなきゃいけないの?おかしいよね?」
「いやぁ……普通だろ」
墨子が麺をすすりながら、合いの手を入れる。
「普通だよね」
知恵がさらに追い込みをかける。
おかしいよ、ぜったい!
そう言いかける奈穂だが、それを飲み込む。なぜならこの学園ではその常識は通用しないのかもと思い直して。
早く転学して、普通の授業を受けて普通の女子高生のするような生活をするんだ、と心の中で強く誓う奈穂。
ふと見やると、目の前では食事中にもかかわらず、机の上に作戦地図を広げて独ソ戦を再現し始める知恵と墨子がいた。
「あっちゃー、こりゃ冬将軍も来ちゃうよな」
「……粛清粛清粛清……」
到底、女子高生の会話とは思えない。もっとこう、かわいいものとか……はやりの何かとか……
悶々とし始める奈穂。頭を抱えながら。
視線を別な方向に奈穂は向ける。その視線の先にいたのは——大須桃であった。
なによりこれは、自分の矜持の問題である——授業中寝るなどということは許されがたい大罪——しかし、ここ二日間まともに寝ていない。
連夜にわたる、アリストテレス=システムのシミュレーションによって、心身ともに疲労の極みにあった奈穂。まして臨死体験のおまけつきとあれば——
机の上におかれた授業用タッチパッドに、必要な情報を打ち込みつつも、意識が途切れそうになる奈穂。今の時間は『西洋戦略論史』、ミハイル・トゥハチェフスキーの縦深戦術理論についての内容である。
(なんで、高校教育でこんなこと……)
学校設定科目、というやつで学習指導要領にない科目を、学校は独自に設定できた。その他にも『西洋哲学史』、『東洋経済史』などなど……聖リュケイオン女学園ならではの教科がずらりと並ぶ。
(数学とか、化学とかそういうのでいいんじゃないのかな。っていうかいいんだよそういうので……)
そんなことを考えながらも、必死に授業内課題をまとめていく奈穂。授業はノルマ提出式である。その授業を受けたとしても、与えられたノルマをこなさなければ出席とはみなされない。
ここで成績を落とすわけにはいかない。目標とする都立理化学修英高校理数科に転学するためにも……
そんな奈穂を尻目に、隣の知恵が欠伸をする。すでにノルマをこなしてしまったらしい。前に座っている墨子もすでに終わり、何やら古めかしい本を読んでいた。
『ナポちゃん、まだおわんないの?手抜いてる?』
小声でそう自分につぶやく知恵。
「『善く戦うものは人を致して人に致されず』。はやくおわらせないとな」
(こいつら……)
いかんせん、知識的なものでは二人に一日の長があるのは、明らかである。必死でレポートをまとめていく奈穂。結局、授業時間ギリギリの完成であった。
「この学校、おかしい」
奈穂はフォークを握りながら、そうつぶやく。
がやがやと騒がしい学園の学食。ただ、学食というにはあまりに豪華なその設営。もっともプロジェクションマッピングによる効果ではあるが。
日替わりで今日は『豪華客船タイタニックのディナー大ホール』の設定である。
「何が、ナポちゃん」
そろそろこの、呼び方も板についてきた知恵。パンをちぎりながら奈穂が答える。
「なんで……高校で旧ソ連軍人の戦闘理論とかやらなきゃいけないの?おかしいよね?」
「いやぁ……普通だろ」
墨子が麺をすすりながら、合いの手を入れる。
「普通だよね」
知恵がさらに追い込みをかける。
おかしいよ、ぜったい!
そう言いかける奈穂だが、それを飲み込む。なぜならこの学園ではその常識は通用しないのかもと思い直して。
早く転学して、普通の授業を受けて普通の女子高生のするような生活をするんだ、と心の中で強く誓う奈穂。
ふと見やると、目の前では食事中にもかかわらず、机の上に作戦地図を広げて独ソ戦を再現し始める知恵と墨子がいた。
「あっちゃー、こりゃ冬将軍も来ちゃうよな」
「……粛清粛清粛清……」
到底、女子高生の会話とは思えない。もっとこう、かわいいものとか……はやりの何かとか……
悶々とし始める奈穂。頭を抱えながら。
視線を別な方向に奈穂は向ける。その視線の先にいたのは——大須桃であった。
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