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第3章 ブリュメールのクーデター

アポロ13号の帰還

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 テレビ演説が終わる。長い沈黙。そして知恵が奈穂に飛びつく。パイロット姿の墨子も一緒に。
『駐ワシントンソ連大使館より。第一書記『フルシチョフ』よりの親書を送付。大統領権限のみの開封となります』
 シミュレーション内時間を特別イベントが起こるまで早送りにしていたため、きわめて早く反応が返される。知恵に抱きかかえられたまま奈穂は親書を開封する。
 三人の目の前に浮かび上がる『フルシチョフ』、すなわち桃の姿。机の上に手を組み、三人を微笑みながら見下ろす。
『ソ連政府、というか第一書記としてその提案を受け入れます。十月二十五日に国連安保理にて今回の危機及び中距離核戦略についての話し合いを持つことも』
 時間がまた経過する。十月二十五日の安保理。アメリカ国連大使とソ連国連大使が向かい合う。
 アメリカ国連大使には知恵がその役割を果たす。
「今回のような危機が起こってしまうのは、中距離核戦略のような、発射から到達まで時間が短い核兵器があるからだと思います。その結果、お互いが疑心暗鬼となり、話し合いの時間も持たずに、危機的状況がただエスカレーションしてしまう。まさに今回がその例です。核の均衡——核抑止という面であれば、お互いが同数の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有することで事足りると思います。今回は『中射程、及び短射程ミサイルを削減するアメリカ合衆国とソヴィエト社会主義共和国連邦の間の条約』を提案します。ゆくゆくは、全廃の方向に持っていけるように」
 視線でけん制する。ソ連大使。『ニエット』の言葉は出てこない。当然『拒否権』の発動も。
(このまま……押し切れるかな……)
 知恵の頭の中に『デタント』の文字が現れる。雪解け、緊張緩和と訳されるそれは東西対立の融和を意味した。
 すでに、西ベルリン包囲は国際的な非難もあり解除されている。このままいけば、史実よりも四半世紀早く中距離核を制限、全廃できるかもしれない。
 知恵は年表をそらんじる。

 一九六四年八月 トンキン湾事件勃発
 一九六五年二月 全面北爆開始、翌月アメリカ軍上陸
 一九六八年一月 テト攻勢
 一九七三年一月 アメリカ軍全面撤退

 このおよそ十年間で、三十万以上の人的損害、そしてあまりに大きすぎる経済的損失を史実ではアメリカはこうむることとなる。この後のアメリカの凋落の原因となった『ベトナム戦争』を、ソ連との融和で回避できる可能性が出てくる。
 知恵は、すでに次の交渉を考えていた。
 ベトナムからの双方の即時撤退案。北緯十七度の線——当時の南北ベトナムの暫定的軍事境界線を固定的な国境とする。腐敗したゴ・ディン・ジェム政権に代わる民主的な南ベトナムの新政権樹立を約束する。
 待っていれば、社会主義体制は間違いなく崩壊するだろう——社会主義経済の持つ根本的な欠陥によって——少なくとも、ソ連型の社会主義経済がそのまま改革されることなく続けられれば。
 ならば、ここはアメリカの経済力を削ることなく、ソ連崩壊を待つことが賢明という判断だった。むろん、今は目の前の条約を調印にこぎつけることが大事だが。明日のステーキより、今日のパンである。
 十月二十八日、ついに両国の間に条約が締結される。
『中距離核戦力削減条約の成立』
 これによって、キューバ危機は回避されるともに、無制限に拡大してきた核戦力は見直されることとなった。
 キューバ危機勃発から、ちょうど十三日目(13days)のことであった——
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