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第3章 ブリュメールのクーデター
アーヘンの和約
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奈穂の後ろに立ち上がるフィジカルウィンドウ。一つではなく複数。
慌ただしく移動する人の群れ。港が見える。その港に横付けされる輸送船団。沖合には駆逐艦と見える船の群れが見える。
「この映像は——キューバ東南端のグァンタナモ海軍基地です。現在、基地の『撤収』に向けて、第一次のオペレーションを実行しています」
あまりにも意外な奈穂の説明。この基地はキューバにおけるアメリカの橋頭堡ではなかったのか。
知恵は表情を変えようとはしない。次の一言をただ待つ。
「アメリカは、キューバ政府に対して『租借の返還』という形での交渉を求めます。至急に。これは、その気持ちが本当であることのしるしです。交渉終了後、完全なる撤退をお約束します。なお、現在キューバ周辺に展開している海上封鎖の艦隊はこの輸送部隊を安全に本国まで届けるための護衛部隊として、キューバ政府には認識してほしいと思います」
正直、譲歩し過ぎだ、と知恵は最初、思った。しかしこれがなかなか、うまい手であることも実感していた。
このような対価を突きつけられては、キューバ政府も交渉を断ることはできないだろう。キューバとアメリカが交渉に入れば、ソ連もこれ以上強硬策には出にくくなる。
またキューバの周辺に展開している艦隊群も、輸送のための出動ということで、フリーハンドを手に入れられる。国際的に領海侵犯、公海における臨検を認めさせることができる。
しかしこれでは不十分だった。ソ連に直接『交渉』を促すさらなる何かの材料がなければ。
「あわせて——ソ連に対して通告します」
奈穂のその声に合わせて、すべてのウィンドウが閉じる。少しの間の後、再び開くウィンドウ。
いくつもの白い塔が映し出される。白い塔——それはトルコに配置されている準中距離弾道ミサイル『ジュピター』であった。当然、国家機密に属するその映像。
知恵はごくんと喉を鳴らす。
「これは——トルコ・イズミルに配置されている我が国の準中距離弾道ミサイル『ジュピター』——核ミサイルです。向いている方向はソ連——首都モスクワ、つまりクレムリン——われわれはこの核兵器を——キューバのグァンタナモ海軍基地を同じく、撤去することをお約束します」
意外すぎる奈穂の提案。緊張が高まっている中で、あえて手の内を明かし、かつ一方的に戦力を減らすというのは。
しかし、アメリカの軍部からは、全く異論は出ない。驚きもない。知恵による完全な根回しが功を奏していた。とうぜんその真の意図も通達済みである。
「ソ連政府に通告します。この条件のもと、交渉のテーブルに十二時間以内につくことを希望します。交渉の内容は『今回の危機、および今後の中距離核戦略削減並びに全廃に向けての協議』です。交渉場所は、ニューヨーク国際連合安全保障理事会。多国間での協議を希望します——最後に、国民のみなさんにむけて。これからわが合衆国政府は、ソ連との会議を持つことになるでしょう。それはこの危機だけではなく世界平和に向けて、共存に向けての第一歩になるものと信じます。決して、世界大戦は起こしません。そしてアメリカの国民の権利が損なわれないことも約束します。神の思し召しにより、この目標が達せられますように。ご清聴に感謝します。goodnight」
流れる沈黙。そして、奈穂は一礼する。国民に向けて始まった演説は今終わりを告げた——核戦争をするか否かを決定するボールはいまや、ソ連の手に投げられたのだった。
慌ただしく移動する人の群れ。港が見える。その港に横付けされる輸送船団。沖合には駆逐艦と見える船の群れが見える。
「この映像は——キューバ東南端のグァンタナモ海軍基地です。現在、基地の『撤収』に向けて、第一次のオペレーションを実行しています」
あまりにも意外な奈穂の説明。この基地はキューバにおけるアメリカの橋頭堡ではなかったのか。
知恵は表情を変えようとはしない。次の一言をただ待つ。
「アメリカは、キューバ政府に対して『租借の返還』という形での交渉を求めます。至急に。これは、その気持ちが本当であることのしるしです。交渉終了後、完全なる撤退をお約束します。なお、現在キューバ周辺に展開している海上封鎖の艦隊はこの輸送部隊を安全に本国まで届けるための護衛部隊として、キューバ政府には認識してほしいと思います」
正直、譲歩し過ぎだ、と知恵は最初、思った。しかしこれがなかなか、うまい手であることも実感していた。
このような対価を突きつけられては、キューバ政府も交渉を断ることはできないだろう。キューバとアメリカが交渉に入れば、ソ連もこれ以上強硬策には出にくくなる。
またキューバの周辺に展開している艦隊群も、輸送のための出動ということで、フリーハンドを手に入れられる。国際的に領海侵犯、公海における臨検を認めさせることができる。
しかしこれでは不十分だった。ソ連に直接『交渉』を促すさらなる何かの材料がなければ。
「あわせて——ソ連に対して通告します」
奈穂のその声に合わせて、すべてのウィンドウが閉じる。少しの間の後、再び開くウィンドウ。
いくつもの白い塔が映し出される。白い塔——それはトルコに配置されている準中距離弾道ミサイル『ジュピター』であった。当然、国家機密に属するその映像。
知恵はごくんと喉を鳴らす。
「これは——トルコ・イズミルに配置されている我が国の準中距離弾道ミサイル『ジュピター』——核ミサイルです。向いている方向はソ連——首都モスクワ、つまりクレムリン——われわれはこの核兵器を——キューバのグァンタナモ海軍基地を同じく、撤去することをお約束します」
意外すぎる奈穂の提案。緊張が高まっている中で、あえて手の内を明かし、かつ一方的に戦力を減らすというのは。
しかし、アメリカの軍部からは、全く異論は出ない。驚きもない。知恵による完全な根回しが功を奏していた。とうぜんその真の意図も通達済みである。
「ソ連政府に通告します。この条件のもと、交渉のテーブルに十二時間以内につくことを希望します。交渉の内容は『今回の危機、および今後の中距離核戦略削減並びに全廃に向けての協議』です。交渉場所は、ニューヨーク国際連合安全保障理事会。多国間での協議を希望します——最後に、国民のみなさんにむけて。これからわが合衆国政府は、ソ連との会議を持つことになるでしょう。それはこの危機だけではなく世界平和に向けて、共存に向けての第一歩になるものと信じます。決して、世界大戦は起こしません。そしてアメリカの国民の権利が損なわれないことも約束します。神の思し召しにより、この目標が達せられますように。ご清聴に感謝します。goodnight」
流れる沈黙。そして、奈穂は一礼する。国民に向けて始まった演説は今終わりを告げた——核戦争をするか否かを決定するボールはいまや、ソ連の手に投げられたのだった。
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