37 / 70
第3章 ブリュメールのクーデター
葉隠
しおりを挟む
虚空の青空を切る、二機の灰色の矢。その名称は『RF―8A』。それはかつて『ミグマスター』と呼ばれ、重武装の機関銃を搭載していた機体『F―8クルセイダー』の改造型で、武装をすべて取り外したバージョンである。
乗員は一名。指揮を執るのは『少佐』たる、『孫墨子』であった。
キューバ基地の航空写真は『U―2』で撮影済みである。しかし、それはぼんやりとしたドット絵的な情報に過ぎない。本当に核ミサイルが配備されているかという点では、疑問の余地が残る。
『そんなら、俺が行ってくるぜ!鮮明なミサイル基地の写真が必要だろ』
そう志願する墨子。自分の権限を『司法長官』から、『海軍少佐:第44超低空偵察隊隊長』に変更する。
『え、でも……』
躊躇する奈穂。
いくらシミュレーションとはいえ、危険な役割を担わせるのは気が引けた。
特に最前線の指揮となれば、見たくないものも見てしまう可能性がある。戦場に必然的な『死』——それは自分のものである可能性も。
『大丈夫!まあ……こういうのはなれてるからな。スーツ着ているよりはこういう仕事のほうが気が楽だ。何より……おめーらたちの役に……立てばな……』
奈穂は、一歩前に出る。
ぎゅっと墨子を抱きしめる。
驚く、墨子。
『絶対、けがしないでね。これは大統領命令ではなくて……私の一番の希望だよ』
ちょっと、時間差を置いておう!と墨子が声を上げる。何やら不満そうな知恵。
そして、たった一機の僚機を引き連れて超低空の偵察に向かう。コクピットに飛び乗る墨子。親指を立て、奈穂に合図を送る。
『絶対撃ち落されない。例え片翼になったとしても。撃ち落されたら、それ自体国際問題になるしな。大丈夫!』
ハッチがしまる。懐から、墨子はごつい何かを取り出す。墨子の愛用のモーゼルC96。それは固定装備のないこの機体において唯一、安心できる武器である。
『奈穂氏は自分を信頼してくれた。ならば……』
士は己を知る者の為に死す。
あの人は優秀で、自分にないものをいっぱい持っている。もしかしたら自分が今ここにいるのは、そのためかもしれない。
しかも、彼女は私を抱きしめてくれた。自分を『ミッドウェー海戦』のシミュレーションで助けてくれた。恩は返さないといけない。この身に代えても。
「さあ、行くぜ!目指すはサンクリストバル頼るはただ、この一丁の拳銃のみだけどな。まあ、カストロさんもたった十八人でキューバ革命したんだ。いい勝負だぜ!」
機体が唸る。出力を全力開放する。海面にかわり、緑に埋め尽くされた不揃いな地面がまるで床のように迫ってくる。墨子の戦いがいま、始まる——
乗員は一名。指揮を執るのは『少佐』たる、『孫墨子』であった。
キューバ基地の航空写真は『U―2』で撮影済みである。しかし、それはぼんやりとしたドット絵的な情報に過ぎない。本当に核ミサイルが配備されているかという点では、疑問の余地が残る。
『そんなら、俺が行ってくるぜ!鮮明なミサイル基地の写真が必要だろ』
そう志願する墨子。自分の権限を『司法長官』から、『海軍少佐:第44超低空偵察隊隊長』に変更する。
『え、でも……』
躊躇する奈穂。
いくらシミュレーションとはいえ、危険な役割を担わせるのは気が引けた。
特に最前線の指揮となれば、見たくないものも見てしまう可能性がある。戦場に必然的な『死』——それは自分のものである可能性も。
『大丈夫!まあ……こういうのはなれてるからな。スーツ着ているよりはこういう仕事のほうが気が楽だ。何より……おめーらたちの役に……立てばな……』
奈穂は、一歩前に出る。
ぎゅっと墨子を抱きしめる。
驚く、墨子。
『絶対、けがしないでね。これは大統領命令ではなくて……私の一番の希望だよ』
ちょっと、時間差を置いておう!と墨子が声を上げる。何やら不満そうな知恵。
そして、たった一機の僚機を引き連れて超低空の偵察に向かう。コクピットに飛び乗る墨子。親指を立て、奈穂に合図を送る。
『絶対撃ち落されない。例え片翼になったとしても。撃ち落されたら、それ自体国際問題になるしな。大丈夫!』
ハッチがしまる。懐から、墨子はごつい何かを取り出す。墨子の愛用のモーゼルC96。それは固定装備のないこの機体において唯一、安心できる武器である。
『奈穂氏は自分を信頼してくれた。ならば……』
士は己を知る者の為に死す。
あの人は優秀で、自分にないものをいっぱい持っている。もしかしたら自分が今ここにいるのは、そのためかもしれない。
しかも、彼女は私を抱きしめてくれた。自分を『ミッドウェー海戦』のシミュレーションで助けてくれた。恩は返さないといけない。この身に代えても。
「さあ、行くぜ!目指すはサンクリストバル頼るはただ、この一丁の拳銃のみだけどな。まあ、カストロさんもたった十八人でキューバ革命したんだ。いい勝負だぜ!」
機体が唸る。出力を全力開放する。海面にかわり、緑に埋め尽くされた不揃いな地面がまるで床のように迫ってくる。墨子の戦いがいま、始まる——
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

びるどあっぷ ふり〜と!
高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。
どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。
ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね?
※すでになろうで完結済みの小説です。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
【本格ハードSF】人類は孤独ではなかった――タイタン探査が明らかにした新たな知性との邂逅
シャーロット
SF
土星の謎めいた衛星タイタン。その氷と液体メタンに覆われた湖の底で、独自の知性体「エリディアン」が進化を遂げていた。透き通った体を持つ彼らは、精緻な振動を通じてコミュニケーションを取り、環境を形作ることで「共鳴」という文化を育んできた。しかし、その平穏な世界に、人類の探査機が到着したことで大きな転機が訪れる。
探査機が発するリズミカルな振動はエリディアンたちの関心を引き、慎重なやり取りが始まる。これが、異なる文明同士の架け橋となる最初の一歩だった。「エンデュランスII号」の探査チームはエリディアンの振動信号を解読し、応答を送り返すことで対話を試みる。エリディアンたちは興味を抱きつつも警戒を続けながら、人類との画期的な知識交換を進める。
その後、人類は振動を光のパターンに変換できる「光の道具」をエリディアンに提供する。この装置は、彼らのコミュニケーション方法を再定義し、文化の可能性を飛躍的に拡大させるものだった。エリディアンたちはこの道具を受け入れ、新たな形でネットワークを調和させながら、光と振動の新しい次元を発見していく。
エリディアンがこうした革新を適応し、統合していく中で、人類はその変化を見守り、知識の共有がもたらす可能性の大きさに驚嘆する。同時に、彼らが自然現象を調和させる能力、たとえばタイタン地震を振動によって抑える力は、人類の理解を超えた生物学的・文化的な深みを示している。
この「ファーストコンタクト」の物語は、共存や進化、そして異なる知性体がもたらす無限の可能性を探るものだ。光と振動の共鳴が、2つの文明が未知へ挑む新たな時代の幕開けを象徴し、互いの好奇心と尊敬、希望に満ちた未来を切り開いていく。
--
プロモーション用の動画を作成しました。
オリジナルの画像をオリジナルの音楽で紹介しています。
https://www.youtube.com/watch?v=G_FW_nUXZiQ
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる