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第3章 ブリュメールのクーデター

ペリクレスの演説

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 まばゆいライトが、空間の中央に集中する。いくつもの大きなテレビカメラが様々な角度から中央の演台を映そうとしている。
その演台にすっと現れる、奈穂。十月二十二日アメリカ東部標準時十九時。事前の予告通りにキューバに関する大統領会見がテレビで行われた。
「国民の皆さん、こんばんわ」
 自分で見ることはできないが、たぶん国民はテレビの画面に釘付けであろうことは予想できる。
 緊張する奈穂。軽く息を吸い込んでから、運命の演説を開始する。
 大丈夫、知恵さんに何回もチェックしてもらった原稿だ。そして墨子さんも——右目にはめられた半透過型コンタクトレンズプロンプターに映し出されるセリフを確認しながら声の形にしていく。ゆっくりと、そしてかみしめるように。
「以前お約束しました通り、合衆国政府はキューバの革命政権に対する、ソ連の軍備増強について、安全保障の観点から注意深く監視を続けてきました。そして——この一週間の間に、危機的な状況を察知するに至りました。あの島に、複数の攻撃的ミサイル——アメリカ本土のかなりを射程とする中距離核戦力を、発見したのです」
 そこまで一気に読み上げる奈穂。たぶん、テレビの前の国民が混乱し、驚愕している様子を目にしながら。
「この放送を見ている方。それはわが国民に限らず、他国民、特に本来ならば体制は異なれど、ともに世界の平和を築き上げていく義務を有する社会主義諸国、すなわちソ連の国民の皆さん、そして、その指導者に向けて通告します——いま世界は、核戦争五分前の状態にあると——」
 史実と違う、奈穂の通告。東西緊張のステータスが一気に上昇する。両手を合わせて、何かを懇願するように見つめる知恵。そして——奈穂も何かを祈るように——
「状況を説明します」
 奈穂の背後に登場する、ウィンドウ。アメリカの地図。そしてキューバの地図。そして——U2が撮影した空中写真——
(あと……もう一つ……)
 そう思いながら、奈穂はこぶしを握りしめる。それが間に合うかどうかで、この会見の成功の可否が決定するといっても過言ではない。すべては墨子にかかっていた——墨子のもたらす情報に——
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