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第3章 ブリュメールのクーデター
トロイの木馬
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「これって……」
小さな西ベルリンを取り囲むように、丸とバツ印のマーカーがどんどん包囲網をしぼめていく。丸は機甲部隊。バツ印は歩兵——日本の自衛隊でいうところの普通科である。その数は四機甲師団と三歩兵師団。これを一軍団として、編成しているようだった。
「これは、第二次ベルリン封鎖とみるべきですね」
知恵が表面上は極めて冷静に、状況を分析する。
ベルリン封鎖。一九四八年六月に、ソ連の指導者スターリンの命令により、西ベルリンが物理的に封鎖された事件。その際には、電気や水道などのインフラも遮断され市民生活に大きな影響が出た。その反省として、西ベルリンではほぼ自給自足が可能な体制が確立されていた。
しかし、今回は規模が違っているようだった。
完全な軍事侵攻を視野に入れての、構えである。
知恵は理解する。これはアメリカの海上封鎖に対する、ソ連の陸上封鎖の意思表明なのだと。『もしキューバを海上封鎖するのであれば、ソ連は西ベルリンを陸上封鎖する』という意思表示。
マスコミ的にはソ連の過剰反応程度に報じられるかもしれない。しかしそれはあまりに過小評価である。
全くの孤島であるキューバに対して、西ベルリンの先には西ヨーロッパがある。そしてその先にはフランスの首都パリ。ソ連が戦術核兵器を使用し、パリ侵攻作戦までを——想定できる状況なのである。
この先、最終的に待っているのは——全面戦争、第三次世界大戦であった。
取り乱す知恵。各所に連絡や確認をするが一向に状況が整理されない。あまりに混乱する現場の状況が、見て取れる。
一方で墨子も、会議におけるイニシアティブをなくしつつあった。空爆では甘すぎる。このような状況に至りもはや、核戦争しかないという、軍部からの提案が大多数を占める。
『第二次ベルリン封鎖』
そのような名で、この状況が公式記録に登録された。
『大西洋上に、第二艦隊を出動させる必要を認める』
『アメリカ戦略軍より、より深刻な状況に備えるためにデフコン5への移行を進言する』
もはや、収集がつかないと思われたその時、今まで目を閉じていた奈穂が口を開く。
「これは、大丈夫だと思うよ」
奈穂の一言に度肝を抜かれる墨子と知恵。AIもまたざわめく。
「ナポちゃん……それはさすがに」
「なぁ……」
くすっと笑みを浮かべる奈穂。
奈穂は新しいウィンドウを開き、その内容を提示する。
「現在、西ベルリンを包囲している戦力だけど……分析したところソ連軍ではなく、東ドイツ軍。それも二戦級の戦力のようだしね」
映し出される、戦車のスペック。確かに、いずれも旧式のものばかりである。歩兵も後方の予備役、もしくは、東ドイツの治安部隊に近いような装備であった。
知恵はまた、度肝を抜かれる。奈穂が先程の僅かな時間で、ここまで調べていたことに。ばりばりの理系である奈穂にとってはこういうことは一番得意な分野である。感覚ではなく、情報に基づく考察。
「だとしたら、これは向こう側……大須さんからのメッセージであるような気が、するんだよね。だったら、それに答えないと」
そう言って、奈穂は国務長官に指令を与える。
「ソ連外務大臣『アンドレイ・グロムイコ』氏をここに。至急会談を用意してね。OK?」
外務担当官の『了承』のサインが灯る。
奈穂の力により、次の段階に危機は移行しようとしていた——
小さな西ベルリンを取り囲むように、丸とバツ印のマーカーがどんどん包囲網をしぼめていく。丸は機甲部隊。バツ印は歩兵——日本の自衛隊でいうところの普通科である。その数は四機甲師団と三歩兵師団。これを一軍団として、編成しているようだった。
「これは、第二次ベルリン封鎖とみるべきですね」
知恵が表面上は極めて冷静に、状況を分析する。
ベルリン封鎖。一九四八年六月に、ソ連の指導者スターリンの命令により、西ベルリンが物理的に封鎖された事件。その際には、電気や水道などのインフラも遮断され市民生活に大きな影響が出た。その反省として、西ベルリンではほぼ自給自足が可能な体制が確立されていた。
しかし、今回は規模が違っているようだった。
完全な軍事侵攻を視野に入れての、構えである。
知恵は理解する。これはアメリカの海上封鎖に対する、ソ連の陸上封鎖の意思表明なのだと。『もしキューバを海上封鎖するのであれば、ソ連は西ベルリンを陸上封鎖する』という意思表示。
マスコミ的にはソ連の過剰反応程度に報じられるかもしれない。しかしそれはあまりに過小評価である。
全くの孤島であるキューバに対して、西ベルリンの先には西ヨーロッパがある。そしてその先にはフランスの首都パリ。ソ連が戦術核兵器を使用し、パリ侵攻作戦までを——想定できる状況なのである。
この先、最終的に待っているのは——全面戦争、第三次世界大戦であった。
取り乱す知恵。各所に連絡や確認をするが一向に状況が整理されない。あまりに混乱する現場の状況が、見て取れる。
一方で墨子も、会議におけるイニシアティブをなくしつつあった。空爆では甘すぎる。このような状況に至りもはや、核戦争しかないという、軍部からの提案が大多数を占める。
『第二次ベルリン封鎖』
そのような名で、この状況が公式記録に登録された。
『大西洋上に、第二艦隊を出動させる必要を認める』
『アメリカ戦略軍より、より深刻な状況に備えるためにデフコン5への移行を進言する』
もはや、収集がつかないと思われたその時、今まで目を閉じていた奈穂が口を開く。
「これは、大丈夫だと思うよ」
奈穂の一言に度肝を抜かれる墨子と知恵。AIもまたざわめく。
「ナポちゃん……それはさすがに」
「なぁ……」
くすっと笑みを浮かべる奈穂。
奈穂は新しいウィンドウを開き、その内容を提示する。
「現在、西ベルリンを包囲している戦力だけど……分析したところソ連軍ではなく、東ドイツ軍。それも二戦級の戦力のようだしね」
映し出される、戦車のスペック。確かに、いずれも旧式のものばかりである。歩兵も後方の予備役、もしくは、東ドイツの治安部隊に近いような装備であった。
知恵はまた、度肝を抜かれる。奈穂が先程の僅かな時間で、ここまで調べていたことに。ばりばりの理系である奈穂にとってはこういうことは一番得意な分野である。感覚ではなく、情報に基づく考察。
「だとしたら、これは向こう側……大須さんからのメッセージであるような気が、するんだよね。だったら、それに答えないと」
そう言って、奈穂は国務長官に指令を与える。
「ソ連外務大臣『アンドレイ・グロムイコ』氏をここに。至急会談を用意してね。OK?」
外務担当官の『了承』のサインが灯る。
奈穂の力により、次の段階に危機は移行しようとしていた——
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