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第3章 ブリュメールのクーデター

円卓会議

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 まるで運命のカードを開くように、奈穂は残った選択肢のウィンドウに手をかける。運命を引き寄せるように。
 他のウィンドウは最小化され、選択されたウィンドウが拡大される。そこには複数の飛行機のシルエットが表示されていた。そして矢印が小さな島に伸びていく。
 それは『空爆』の選択肢であった。
 その選択を、意外そうに見つめる桃。平和にすぎる現代日本の女子高生の選択にしては、やや過激にすぎる感じがしたのだ。
 AIが反応する。国防省、統合作戦本部などは賛同をしめす。その他の参加者も、その意見に部分的ながら賛同していく。このまま、情勢が決まりそうだったその瞬間、新たなウィンドウが点滅する。
『空軍参謀本部:参謀総長よりの提案。この空爆にあわせて、核攻撃の準備をすべきである』
 即座に奈穂は、左手を強く握る。それは『No』の合図。
「空爆の提案だけで、軍部がそのようなことを考えるってことは……ちょっとまずいよね……もう一度考えさせてもらえるかな」
 奈穂はそう言うと、再び両手を組んで瞑想し始める。そして奈穂の両目の瞼の中には発光式情報展開コンタクトが、いつの間にか仕込まれていた。
 その様子を見て、桃は腑に落ちる。つまり、強硬策をあえて述べることにより、軍部を暴走させ、逆により過激な意見を諌めることで時間を稼ぎ、状況を変えようとしたのだと。とても女子高生のする技ではない。どういう経験をして、このようなことができたのか。
 奈穂にとってはそれほど難しい話ではない。
 中学生時代、よく人間関係の対立を経験した。大体はお互いの利害関係。委員長などに選ばれがちの奈穂は、常に難しい決断を要求された。「~さん、最近どう思う?」「ちょっとわがまますぎじゃない?」そんなときは微妙に話を合わせる。客観的に無理のない程度に。そうするとエスカレートする一部の女子。「そうだよね。ちょっときつい。はなししたくないよね」その時、奈穂は注意を入れる。そこまでではない。それはいじめだよ、と。正直、バランスで人間関係を操作しているようで気はひけたが、それで助かる人もいるのでは、という彼女なりの経験であった。
 あわせて、空軍の参謀総長の名前を、奈穂は中学の世界史の授業で知っていた。東京大空襲を指揮し、日本の都市を焦土作戦で焼き払った「鬼畜ルメイ」つまりカーチス・ルメイ空軍大将であることを。感情的な部分でも反論することは自然な流れである。
 今はただ、もう少し考える時間が必要である。この状況を逆転するための策を。
 そして、時間だけがただ過ぎていく。その時間の経過とともに、先程までの会議の熱気も少しずつ冷めていくような感じがした。
 空爆にかわって海上封鎖の意見が、多く見られるようになってくる。国連大使などは積極的に空爆に反対の意見を述べ始める。しかし、結論はまだ出ない。
 日付が一七日に変わろうとしていた。再び軍部が強硬な提案をし始める。奈穂はまだ情報を集めきれていない。
 あと数時間……シミュレーション上の数時間の余裕があれば自信のある決断を下せるのに、と焦り始める奈穂。
 女子高生にはあまりに重い決断のときが——せまる。
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