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第3章 ブリュメールのクーデター
『史記』
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部屋に広がる、紅茶の香り。小さな机の上には趣味のよいティーカップが、二つ並んでいる。そのティーカップをじっと見つめる奈穂。
居心地の悪さ。
先ほどまでとは全く立場が逆になったように思われた。
そんな奈穂に気づいたのか、桃はニコリと微笑みかける。
「——驚いた?……まあ当然よね」
そっと、ティーカップに手をやる桃。その手の動きは、どこまでも優雅なものだった。
「いや、なんか雰囲気が……」
「雰囲気が?」
びくっとする奈穂。まるで年上の女性に、口頭試問を受けているような感じすらする。先ほどまでの子供じみた桃は、どこに行ってしまったのだろうか。
奈穂の心中を察してか、桃が口を開く。
「私は——二つの人格を、使い分けられるの。一つはさっきのようなおどおどした子供っぽい桃。もう一つは」
軽く、ティーカップを人差し指ではじく桃。澄んだ音が部屋に響く。
「入学式新入生代表のような、堂々として、落ち着いた大人の桃——」
顔を上げる奈穂。そこにあるのはまさしく、入学式の時の桃の姿であった。
「公式な場——例えば入学式とかの式典で、後者の桃の人格が立ち上がるの。私自身にもコントロールできないけどね」
「え……じゃあ……」
当然浮かぶ一つの疑問。それをさえぎるように、片手を差し出す桃。
「さすが、優秀な宍戸さんね。入試データは確認したわ。優秀——そう、この学園には皆無なタイプのの言う力の持ち主」
疑問が尽きない。なぜ一生徒に過ぎない彼女が、そんなことを知っているのか。
「私が変わるのは、そう——『アリストテレス=システム』のシミュレーションの時もそう。だからこの学園に入学した——」
そう言い終わるやいなや、部屋に振動音が鳴り響く。
次の瞬間に周りの景色が一変する。奈穂はデジャブを感じる。そう、それは昨日の夜の出来事。あの時は一面の海が広がっていたが——
「この部屋には特別に、小型のアリストテレス=システム『司馬遷ver4.3』がついているの。宍戸さん、昨日自習室で知恵さんを打ち負かしたのは知っているわ。面白い——とても面白い——ならば、私とも戦ってくれないかな?学校が始まる前に、あなたの実力を知っておきたいので——」
奈穂は身構える。どうやら選択の余地がないことに気づいて。二夜連続の戦いが、始まろうとしていた。
居心地の悪さ。
先ほどまでとは全く立場が逆になったように思われた。
そんな奈穂に気づいたのか、桃はニコリと微笑みかける。
「——驚いた?……まあ当然よね」
そっと、ティーカップに手をやる桃。その手の動きは、どこまでも優雅なものだった。
「いや、なんか雰囲気が……」
「雰囲気が?」
びくっとする奈穂。まるで年上の女性に、口頭試問を受けているような感じすらする。先ほどまでの子供じみた桃は、どこに行ってしまったのだろうか。
奈穂の心中を察してか、桃が口を開く。
「私は——二つの人格を、使い分けられるの。一つはさっきのようなおどおどした子供っぽい桃。もう一つは」
軽く、ティーカップを人差し指ではじく桃。澄んだ音が部屋に響く。
「入学式新入生代表のような、堂々として、落ち着いた大人の桃——」
顔を上げる奈穂。そこにあるのはまさしく、入学式の時の桃の姿であった。
「公式な場——例えば入学式とかの式典で、後者の桃の人格が立ち上がるの。私自身にもコントロールできないけどね」
「え……じゃあ……」
当然浮かぶ一つの疑問。それをさえぎるように、片手を差し出す桃。
「さすが、優秀な宍戸さんね。入試データは確認したわ。優秀——そう、この学園には皆無なタイプのの言う力の持ち主」
疑問が尽きない。なぜ一生徒に過ぎない彼女が、そんなことを知っているのか。
「私が変わるのは、そう——『アリストテレス=システム』のシミュレーションの時もそう。だからこの学園に入学した——」
そう言い終わるやいなや、部屋に振動音が鳴り響く。
次の瞬間に周りの景色が一変する。奈穂はデジャブを感じる。そう、それは昨日の夜の出来事。あの時は一面の海が広がっていたが——
「この部屋には特別に、小型のアリストテレス=システム『司馬遷ver4.3』がついているの。宍戸さん、昨日自習室で知恵さんを打ち負かしたのは知っているわ。面白い——とても面白い——ならば、私とも戦ってくれないかな?学校が始まる前に、あなたの実力を知っておきたいので——」
奈穂は身構える。どうやら選択の余地がないことに気づいて。二夜連続の戦いが、始まろうとしていた。
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