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第3章 ブリュメールのクーデター
ノートルダムの戴冠式
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豪壮な壁の装飾。ネオゴシック建築と思われるそれは、鈍い光を放ち天井へとそびえていた。そして天井には金色を基調とした絵画が配置され、所々にシャンデリアが吊るされている。
もっともそれは、フィジカル・プロジェクション=マッピングの成果であるが。
フィジカル・プロジェクション=マッピングシステムはより高精度に、まるで本物のように人間の視聴覚器官に働きかけ虚像を作り出すシステムである。この部屋もそのシステムが停止すれば、ゴツゴツとした倉庫的な空間が浮かび上がる仕掛けになっていた。
座席にかける少女たち。フランス第二帝政期の軍服をモチーフとした女学園の制服を身に着け、緊張の面持ちで壇上を見つめている。
ほぼ満席になっていた会場の壇上では、これまた時代がかったスーツを身にまとい、男性が挨拶をしていた。
『聖リュケイオン女学園入学式』
フランス語でそう書かれた旗は、学園旗とともにその男性の傍らにはためく。
『計……名の入学を、理性と神の名のもとに、私の職責をもって許可するものとする。聖リュケイオン副校長 但馬向洋』
その宣言を合図として、生徒が一斉に立ち上がる。今まで座席に座っていた生徒たちである。
しかし、その中に元気のない生徒が一人いた。
目の下がやや黒い。かなりまいったような風貌をさらして。
もともとの顔の素材がいいだけに、その崩れ具合が目だって見えるのは致し方ないことである。それは今日の朝まで『アリストテレス=システム』でシミュレーションをしていた——宍戸奈穂、その人であった。
友人に引っ張られる形とはいえ、無謀なことをしてしまったことに反省しきりである彼女。
その両側にはその原因となった二人——知恵と墨子が立っていた。奈穂とは対象的に、今日の朝までやらかした疲れを微塵とも感じさせず。
(なんで私がこんなに疲れてんのに、二人ともこんなにげんきなの?)
校歌斉唱。まだ習ってもいない校歌を、隣の二人は高らかに歌い上げる。その声の大きさがまた奈穂の怒りを増大させる。
「ナポちゃん、顔色悪い」
「ナポちゃんじゃない!ナホだ」
「いいじゃん、英雄『ナポレオン』の『ナポ』で。昨日は、かっこよかったよ!だから……もうちょっとシャンとしないと」
「そうだな。本物のナポレオンは三時間しか寝なかったらしい……のは有名な俗説だが」
隣の墨子も会話に混ざる。無言になる奈穂。
なんだか狐にでもつままれた気分である。なんでこんな事になってしまったのか、と。
校歌斉唱が終わり、全員着席する。少しの間をおいて、司会が告げる。
『入学生代表 入学の言葉 大須桃』
はい、という流れるような返事。コツコツと台上に登る一人の少女。腰までくる長い髪に、スラッとしたシルエットが印象的な少女、というよりは大人の女性といった方がしっくりくる感じだろうか。
こつこつと壇上の机に向かう。正面まで移動した後、くるりと生徒たちの方を向きなおす。通常の入学生代表とは違った行動。彼女はすべての生徒に入学の言葉を投げかけようとしていた。
この学園の伝説に残る演説——それが今始まった。
もっともそれは、フィジカル・プロジェクション=マッピングの成果であるが。
フィジカル・プロジェクション=マッピングシステムはより高精度に、まるで本物のように人間の視聴覚器官に働きかけ虚像を作り出すシステムである。この部屋もそのシステムが停止すれば、ゴツゴツとした倉庫的な空間が浮かび上がる仕掛けになっていた。
座席にかける少女たち。フランス第二帝政期の軍服をモチーフとした女学園の制服を身に着け、緊張の面持ちで壇上を見つめている。
ほぼ満席になっていた会場の壇上では、これまた時代がかったスーツを身にまとい、男性が挨拶をしていた。
『聖リュケイオン女学園入学式』
フランス語でそう書かれた旗は、学園旗とともにその男性の傍らにはためく。
『計……名の入学を、理性と神の名のもとに、私の職責をもって許可するものとする。聖リュケイオン副校長 但馬向洋』
その宣言を合図として、生徒が一斉に立ち上がる。今まで座席に座っていた生徒たちである。
しかし、その中に元気のない生徒が一人いた。
目の下がやや黒い。かなりまいったような風貌をさらして。
もともとの顔の素材がいいだけに、その崩れ具合が目だって見えるのは致し方ないことである。それは今日の朝まで『アリストテレス=システム』でシミュレーションをしていた——宍戸奈穂、その人であった。
友人に引っ張られる形とはいえ、無謀なことをしてしまったことに反省しきりである彼女。
その両側にはその原因となった二人——知恵と墨子が立っていた。奈穂とは対象的に、今日の朝までやらかした疲れを微塵とも感じさせず。
(なんで私がこんなに疲れてんのに、二人ともこんなにげんきなの?)
校歌斉唱。まだ習ってもいない校歌を、隣の二人は高らかに歌い上げる。その声の大きさがまた奈穂の怒りを増大させる。
「ナポちゃん、顔色悪い」
「ナポちゃんじゃない!ナホだ」
「いいじゃん、英雄『ナポレオン』の『ナポ』で。昨日は、かっこよかったよ!だから……もうちょっとシャンとしないと」
「そうだな。本物のナポレオンは三時間しか寝なかったらしい……のは有名な俗説だが」
隣の墨子も会話に混ざる。無言になる奈穂。
なんだか狐にでもつままれた気分である。なんでこんな事になってしまったのか、と。
校歌斉唱が終わり、全員着席する。少しの間をおいて、司会が告げる。
『入学生代表 入学の言葉 大須桃』
はい、という流れるような返事。コツコツと台上に登る一人の少女。腰までくる長い髪に、スラッとしたシルエットが印象的な少女、というよりは大人の女性といった方がしっくりくる感じだろうか。
こつこつと壇上の机に向かう。正面まで移動した後、くるりと生徒たちの方を向きなおす。通常の入学生代表とは違った行動。彼女はすべての生徒に入学の言葉を投げかけようとしていた。
この学園の伝説に残る演説——それが今始まった。
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