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第2章 桃園の誓い

敵は本能寺にあり

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(すごいことになってきたな……)
 ちょこんと体育座りをして、寝間着のまま、事の成り行きを見守る奈穂。
 頭上では身振り手振りを交えながら、コンソールを操作し、次の一手を出し合いしのぎ合う二人の姿があった。
「回避!回避!たかが、基地航空隊の攻撃機などにヤラセはせんよ!」
 そう言いながら、方向を指示する墨子。指示する先には——あまりにも大きな艦船——まるでタンカーのようなそれは『赤城』という空母であることを、奈穂は情報携帯端末で知る。
『空母『赤城』 もともとは、巡洋戦艦として建造されたが、航空母艦に改造。支那事変にも参加。特に、太平洋戦争の初戦、真珠湾攻撃では機動部隊の旗艦として活躍』
 そこまで見て奈穂は息を呑む。
『……ミッドウェー海戦で、アメリカ急降下爆撃機の攻撃を受け大破の後、自沈』
 目の前で爆撃、雷撃を巧みな回避運動で、かわしていく『赤城』。何度もその状況と情報携帯端末を見比べる奈穂。
「そうだね。この程度の攻撃でやられるほど弱くはないよね。史実だってここは持ちこたえているし」
 にやっと笑みを浮かべ、知恵は眼下の奈穂を見やる。情報携帯端末を手に、きょろきょろあたりをうかがっている奈穂を。
「史実と違うのは……こちらは、一切攻撃部隊の『爆装転換』をしていない。二次攻撃隊はいつでも、出撃可能だ。目標は当然……そちらの、三空母になるがな!」
 知恵を指差しながら、そう言い放つ墨子。しかし、知恵はゆるぎもしない。
「この学園を志すものなら、当然の決断だろうね。まあ、日本の敗因はそれだけではないと思いますが」
 水面に描かれる、何本もの筋。先ほど、アメリカの攻撃隊によって投下された、魚雷の軌跡である。日本の艦船、特に『赤城』を目指して、その線は伸びていく。回避運動を続ける、日本艦隊。まるで自分の手足のように、墨子は艦隊運動を指揮していた。
「……決して、手は緩めないよ。そっちが、攻撃隊を発艦できなければ、同じことだからね。ハンデをつけてあげようか?秘密の情報だけど、今さっき、我が空母艦隊から一〇〇機以上の攻撃隊を発進させた。さあどう出る?孫さん?」
「……見えた!」
 右手を右耳に添える墨子。
「四号機より報告あり!空母見ゆとの報あり!」
 両拳を突き上げる墨子。力を貯めるように、そしてそれを放出するように。
「戦艦『榛名』、『霧島』を前方に展開。直掩の『零戦』は以後、全力で制空権の獲得を、目指す!警戒の駆逐艦隊も、これを海上より援護。ここで沈んでも、犬死ではないぞ!……『其の疾きこと風の如く、侵掠すること火の如し』……!」
 空中に、いくつもの火球が現れる。全力で、円運動を行う戦艦。そして、花火のごとく対空砲火を行う駆逐艦隊。時間にしてはわずかだったが、あまりにも激しい応酬。戦艦『榛名』の甲板が火を吹く。駆逐艦のいくつかも。
 火薬の煙が、ゆっくりと晴れる。もうその空には、敵の機体は一つも見えなかった。
 そして、日本の空母四隻は全くの——無傷であった!
 すべて同じ方向にかじを切り全力で、攻撃機を送り出すための速度を出し、その牙をむき出しにしている。甲板には、魚雷を満載した攻撃隊がずらりと並ぶ。
「肉を切らして……骨を断つ!第二次攻撃隊全機出撃!目標は、敵空母『エンタープライズ』『レキシントン』!」
 ビクッと反応する知恵。
 晴れ渡る空に、日の丸の翼が翻る。
 歴史は少女たちの手により、大きくその姿を変えようとしていた——
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