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第2章 桃園の誓い

山海関の開門

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 ごうごうと音がする。窓はあけ放たれ、夜の暗闇と冷たい空気が部屋に入ってくる。
その、闇の中からうっすらと現れる、人影。奈穂はハッとして、知恵に抱きつく。
(この部屋……二階だったよね!)
 声にならない、叫び。知恵のほうは、まったく意に介さず、奈穂を受け入れる。
人影がゆっくりと、その姿を明らかにする。ピタピタと床に滴る水滴。髪が大量の雨を吸い込むように垂れている。その髪の毛をかきあげるようにして、一言大きな声が放たれた。
「遅れちまった……」
 意外な一言。ほのかな部屋の明りに照らされている、その人影。服装は濡れそぼっているが、この高校の制服らしかった。
「バスがな……乗り遅れちまって……歩いてきた。雨は降るし、もう最悪」
 ドスンと床に背負っていたデイバッグをおろすと、自分の体も同じように床に預ける。奈穂は、ようやく気づく。その少女がどうやら、待ち人であるらしいことを。
「なんで……窓から……」
「しゃーねだろーよ、正面玄関が、締まってるんだから」
 うん、と知恵がうなずく。
「寮は、門限にうるさいからね。もっとも、学園敷地内に入ってしまえば、少々荒っぽいことをしても、問題ない感じだけど」
 知恵は、あけ放たれた窓の扉に視線を移す。明らかに、力任せにこじ開けられた跡が見えた。
「まあ、この雨の中で、一晩過ごすわけにもいかないし……ちゃんと、後で直しとくから……」
 そういいながら、彼女は荷物をごそごそと探る。そして何やらくしゃくしゃになった紙を取り出し、二人の前に高々と掲げる。
「同室になった、『孫墨子』だ。ちょいと変な名前だけどよろしくな」
 名前じゃない、気になっていることは。奈穂は情報量の多さに、何から尋ねたらよいか途方に暮れる。
「私は知恵=ベルナルディ、こちらは宍戸奈穂さん。よろしく」
 まったくの平静のふうで、知恵が自己紹介をする。
「知恵に、奈穂。よろしくな」
 はにかむように、答える墨子。
 外の雨はまた、激しさを強めたようだった。
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