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第2章 桃園の誓い
梁山泊に集いし者達
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入学式前日。寮の部屋には真新しい制服が二着、壁にかかっていた。当然、一つは奈穂のもので、もう一つは知恵のものである。どちらのものかは、ひとまわりサイズが違うことからもおのずと知れらた。
——広い部屋、その部屋の奥の両端に、二人の机とベッドが寄せられていた。そしてドアの手前には結構広いスペース。昨日までは二人の所有空間だったところは意図的に空けられていた。
昨日の夜、寮の舎監が不意にこの部屋を訪れる。いかめしい恰好。事務の人とはまた違った、執事——というよりかはまるで前世紀のヨーロッパの軍人のような恰好をした、二十代後半くらいの女性であった。すっと、書類を手渡す彼女。簡単にその内容を説明する。
それは
『この部屋にもう一人、ルームメイトが追加される』
という旨の、業務連絡であった。
えっ?と声にならない声を、奈穂はあげる。入学式の前日にしては、あまりにも唐突な連絡である。そんなやり取りをさらっと流すように、背後の知恵は読書に没頭している。
(ほんとに、知恵さんは……)
自分に気持ち悪いほどに執着することがあると思えば、まったく無関心な時もある知恵。
『俗っぽい宍戸さんには、興味ないんだな』
わけのわからないことを知恵がもらしていたことを思い出す。
奈穂はただうなずき、部屋の片づけを始めた。もともと、広い部屋ということもあり、三人目のスペースを確保することは、そんなに難しいことではない。
そもそも知恵のテリトリー自体が、その体に比例して少ないこともあり、小一時間で新たなルームメイトを迎え入れる準備は——できあがった。
古めかしい柱時計が、鐘の音で夜の十一時を告げていた。本来であれば、就寝時間のはず。しかし、奈穂も知恵も寝ようとはしない。
知恵は就寝時間を過ぎても、空間創造タブレットで何やら怪しいことをしているのが日課である。一方奈穂は珍しく、ナイトウェアを着こみ夜具をまとって、椅子の上にちょこんと座っていた。
外は、明日の入学式が危惧されるくらいの大雨。頑丈そうな窓が、ガタガタと小刻みに震えていた。春の嵐、とでもいうのであろうか。
(寝るわけに……いかないよな……)
待ち人来たらず。
明日が、入学式というのに夜遅くなっても同室の新入生は、姿を現さない。
常識的におかしい話だ。そもそも、なにかの手違いかもしれない。そんな風に思考を巡らしていると、自然と奈穂の口から大きなあくびが漏れた。
(……寝るか……)
さすがにしびれを切らせた奈穂は、すっと立ち上がる。
しかしその刹那。
大きな音が、部屋の中に響き渡る。音の発生先は、窓の外——であるようだった。震えあがる奈穂。一方知恵は、全く驚く様子を見せない。
「ち、知恵さん……」
その声に反応し、知恵はタブレットから視線を外す。
「なに、宍戸さん」
「あの、あの音は……」
はあ、とため息を一つはいて知恵は続ける。
「この時間に、学園の敷地に入ることができて、この部屋に用事のある人物——簡単な問題だよね。怖がることはないでしょ」
「怖いよ!十分!」
思わず奈穂は、声を上げる。
その声を合図にしたように、さらに大音響で、鉄の扉が勢いよく開け放たれる。
雨が、部屋に吹き込む。そして、黒い人の影が——
それは——待ち来たりし、訪問者の姿であった。
——広い部屋、その部屋の奥の両端に、二人の机とベッドが寄せられていた。そしてドアの手前には結構広いスペース。昨日までは二人の所有空間だったところは意図的に空けられていた。
昨日の夜、寮の舎監が不意にこの部屋を訪れる。いかめしい恰好。事務の人とはまた違った、執事——というよりかはまるで前世紀のヨーロッパの軍人のような恰好をした、二十代後半くらいの女性であった。すっと、書類を手渡す彼女。簡単にその内容を説明する。
それは
『この部屋にもう一人、ルームメイトが追加される』
という旨の、業務連絡であった。
えっ?と声にならない声を、奈穂はあげる。入学式の前日にしては、あまりにも唐突な連絡である。そんなやり取りをさらっと流すように、背後の知恵は読書に没頭している。
(ほんとに、知恵さんは……)
自分に気持ち悪いほどに執着することがあると思えば、まったく無関心な時もある知恵。
『俗っぽい宍戸さんには、興味ないんだな』
わけのわからないことを知恵がもらしていたことを思い出す。
奈穂はただうなずき、部屋の片づけを始めた。もともと、広い部屋ということもあり、三人目のスペースを確保することは、そんなに難しいことではない。
そもそも知恵のテリトリー自体が、その体に比例して少ないこともあり、小一時間で新たなルームメイトを迎え入れる準備は——できあがった。
古めかしい柱時計が、鐘の音で夜の十一時を告げていた。本来であれば、就寝時間のはず。しかし、奈穂も知恵も寝ようとはしない。
知恵は就寝時間を過ぎても、空間創造タブレットで何やら怪しいことをしているのが日課である。一方奈穂は珍しく、ナイトウェアを着こみ夜具をまとって、椅子の上にちょこんと座っていた。
外は、明日の入学式が危惧されるくらいの大雨。頑丈そうな窓が、ガタガタと小刻みに震えていた。春の嵐、とでもいうのであろうか。
(寝るわけに……いかないよな……)
待ち人来たらず。
明日が、入学式というのに夜遅くなっても同室の新入生は、姿を現さない。
常識的におかしい話だ。そもそも、なにかの手違いかもしれない。そんな風に思考を巡らしていると、自然と奈穂の口から大きなあくびが漏れた。
(……寝るか……)
さすがにしびれを切らせた奈穂は、すっと立ち上がる。
しかしその刹那。
大きな音が、部屋の中に響き渡る。音の発生先は、窓の外——であるようだった。震えあがる奈穂。一方知恵は、全く驚く様子を見せない。
「ち、知恵さん……」
その声に反応し、知恵はタブレットから視線を外す。
「なに、宍戸さん」
「あの、あの音は……」
はあ、とため息を一つはいて知恵は続ける。
「この時間に、学園の敷地に入ることができて、この部屋に用事のある人物——簡単な問題だよね。怖がることはないでしょ」
「怖いよ!十分!」
思わず奈穂は、声を上げる。
その声を合図にしたように、さらに大音響で、鉄の扉が勢いよく開け放たれる。
雨が、部屋に吹き込む。そして、黒い人の影が——
それは——待ち来たりし、訪問者の姿であった。
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