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翌日は婚約者候補の令嬢たちと王太子のお茶会だ。
もうやだもうやだ帰りたい。
そんな思いは顔に出さずにこやかーに、にこやかーに。マルティナ王女に扮したアズラエルは、ただただ時間が過ぎるのを耐えていた。
おほほ、うふふと微笑んでいるくせに、王太子の視線が外れた瞬間にもの凄いおっかない顔で睨み合っている王女たちに茶、吹きそうになりながら。
途切れることのない令嬢たちの自国自慢に、終始にこやかに話を聞いているイケメン王太子には本気で尊敬した。
昨夜出会った王太子の側近、セルジュも控えているのだが、先ほどからびしびしと視線を感じて落ち着かない。
バレた?
今日はしっかり金髪のカツラつけて、盛りに盛った似非ナチュラルメイク。ラズリエルとマルティナが同一人物とは思われないはず、なのに、じぃっと視線を感じで汗が出る。
バレて、ないよね?
イヤな汗が背中を流れる。
そんな視線なんて気づいてませんよーの態で、優雅にお茶をすするアズラエル。
「ハシノ国、マルティナ王女は」
さすが大国、いいお茶使ってんなー、うま。
「マルティナ王女?」
ん? マルティナ? あ! オレのことか!
「は、はいっ」
って、こわ! 王太子の隣を陣取ったNo2大国の王女、そんな顔で睨まないで、顔芸やめて。うける。
「え、ええと、私の国は農業と、淡水パールの生産が主で……」
淡水パールという言葉に令嬢たちの目の色が一気に変わった。
そうだよ、君たちの首や耳を飾る七色パールの産地はうちだからね。うんうん、正直だね、でもオレと仲良くしてもパールは安く手に入んないよ。オレなんの権利も持ってないからね?
そんなお国自慢のお茶会は終了した。お疲れさまでした、自分。と労った。
お茶もうまいし、ご飯もうまい。日に数時間王太子のとの顔合わせ以外は特にやることはないこの環境。王太子妃の座を狙う王女さま方は王太子の休憩時間を狙って突撃し、王女同士、牽制、威嚇というお茶会を開いているようだった。
アズラエルといえば、できれば大広間に飾れてた百年前のカラクリ時計を、もっと近くで眺めてみたいのだが、変にうろついて肉食獣に会いたくない。蒸れるカツラも厚い化粧を落として、コルセットから解放された。で、侍女に図書館で本を借りてきてもらい大人しく部屋にこもって時間を潰している。
「マルティナ様、おやすみなさいませ」
「はーい、おやすみーおつかれー」
侍女を下がらせて、アズラエルはテラスの窓を開けた。
今日はしっかりヒールのない靴を用意した。
月は雲に覆われているが、庭は所々灯された明かりが花々を浮かび上がらせていた。
昨日は邪魔され途中で引き返したが、今日はもっと奥まで行ってみたい。あの東屋に行ってみたい。さすがに、昨日の今日であの男もいないだろう、と。
花のアーチをくぐり、玻璃の東屋が見え、
「また会ったな」
「ひっ!」
撤収っ!!
「待て待てって」
王太子の側近、セルジュに腕を掴まれた。
「帰ります! 戻ります! おやすみなさい!」
「そんなに、急いで帰らなくてもいいだろ? △堂のチョコレートを用意したんだ」
「え!? △堂!?」
有名ブランドの名前に勢いよく振り返ってしまった。
「あ……」
にっこりと、セルジュのその笑みがあまりにも黒くで、背に汗が流れた。
しまった。
「良かった、君のために用意したんだ、お茶も用意させたんだよ」
「あ、ありがとうございますぅ……」
頬を引きつらせるアズラエルだった。
もうやだもうやだ帰りたい。
そんな思いは顔に出さずにこやかーに、にこやかーに。マルティナ王女に扮したアズラエルは、ただただ時間が過ぎるのを耐えていた。
おほほ、うふふと微笑んでいるくせに、王太子の視線が外れた瞬間にもの凄いおっかない顔で睨み合っている王女たちに茶、吹きそうになりながら。
途切れることのない令嬢たちの自国自慢に、終始にこやかに話を聞いているイケメン王太子には本気で尊敬した。
昨夜出会った王太子の側近、セルジュも控えているのだが、先ほどからびしびしと視線を感じて落ち着かない。
バレた?
今日はしっかり金髪のカツラつけて、盛りに盛った似非ナチュラルメイク。ラズリエルとマルティナが同一人物とは思われないはず、なのに、じぃっと視線を感じで汗が出る。
バレて、ないよね?
イヤな汗が背中を流れる。
そんな視線なんて気づいてませんよーの態で、優雅にお茶をすするアズラエル。
「ハシノ国、マルティナ王女は」
さすが大国、いいお茶使ってんなー、うま。
「マルティナ王女?」
ん? マルティナ? あ! オレのことか!
「は、はいっ」
って、こわ! 王太子の隣を陣取ったNo2大国の王女、そんな顔で睨まないで、顔芸やめて。うける。
「え、ええと、私の国は農業と、淡水パールの生産が主で……」
淡水パールという言葉に令嬢たちの目の色が一気に変わった。
そうだよ、君たちの首や耳を飾る七色パールの産地はうちだからね。うんうん、正直だね、でもオレと仲良くしてもパールは安く手に入んないよ。オレなんの権利も持ってないからね?
そんなお国自慢のお茶会は終了した。お疲れさまでした、自分。と労った。
お茶もうまいし、ご飯もうまい。日に数時間王太子のとの顔合わせ以外は特にやることはないこの環境。王太子妃の座を狙う王女さま方は王太子の休憩時間を狙って突撃し、王女同士、牽制、威嚇というお茶会を開いているようだった。
アズラエルといえば、できれば大広間に飾れてた百年前のカラクリ時計を、もっと近くで眺めてみたいのだが、変にうろついて肉食獣に会いたくない。蒸れるカツラも厚い化粧を落として、コルセットから解放された。で、侍女に図書館で本を借りてきてもらい大人しく部屋にこもって時間を潰している。
「マルティナ様、おやすみなさいませ」
「はーい、おやすみーおつかれー」
侍女を下がらせて、アズラエルはテラスの窓を開けた。
今日はしっかりヒールのない靴を用意した。
月は雲に覆われているが、庭は所々灯された明かりが花々を浮かび上がらせていた。
昨日は邪魔され途中で引き返したが、今日はもっと奥まで行ってみたい。あの東屋に行ってみたい。さすがに、昨日の今日であの男もいないだろう、と。
花のアーチをくぐり、玻璃の東屋が見え、
「また会ったな」
「ひっ!」
撤収っ!!
「待て待てって」
王太子の側近、セルジュに腕を掴まれた。
「帰ります! 戻ります! おやすみなさい!」
「そんなに、急いで帰らなくてもいいだろ? △堂のチョコレートを用意したんだ」
「え!? △堂!?」
有名ブランドの名前に勢いよく振り返ってしまった。
「あ……」
にっこりと、セルジュのその笑みがあまりにも黒くで、背に汗が流れた。
しまった。
「良かった、君のために用意したんだ、お茶も用意させたんだよ」
「あ、ありがとうございますぅ……」
頬を引きつらせるアズラエルだった。
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