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三四七話
しおりを挟むそんな感じで、何だかんだあったものの、ようやく環境が整ったので早速調薬の実演をすることに。
ヴィヴィオ女史の研究室には、いくつもの研究用のテーブルが置かれていたので、その一つを拝借して作業を行うことにした。
と、その前にだ……
「ああ、そうだ。まずは竜の血を回収してこないと……」
竜の血を使って作る竜血晶は秘薬丸を作る上での必須アイテムである。
とはいえ、作業の工程上では竜血晶が必要になるのは最後の段階になってからなので、別に今すぐ竜血晶が必要というわけではない。
が、必要になってから取りに行くというのも面倒なので、事前に用意しておいた方がいいだろうな、と思ったのだが……
「ああ、それならいくらか既に研究室に運び込んでもらったいるよ」
と、ヴィヴィオ女史はそう言うと、部屋の一角を指差して見せた。
指先を目で追うと、そこには見覚えのある木製の樽が一つ。
俺が自分で作ったのだから見間違うはずがない。
あれはベルヘモスの素材を収納するためにと、学者のジジイ共に強制的に作らされた忌まわしき樽である。
ということは、だ。ヴィヴィオ女史の発言も相まって、中身は十中八九竜の血だろう。
「随分と用意がいいな」
「まぁな。バレーノから話しを聞いた時に必要になると思って、運び込んでおいたのさ」
そう言うと、ヴィヴィオ女史が誇らしげにドヤる。トラル女史の背中に隠れながらではあったがな……
「なに、如何にも自分で運びました、みたいに言ってんのよ?
実際に樽を運んだのはメイドさん達でしょうに……」
「うぐっ……」
で、そんな他人の手柄を横取りしようとしたヴィヴィオ女史に対して、トラル女史が呆れたようにあっさり真相を暴露する。
が、まぁ、だろうな。というのが素直な感想だ。
樽は結構なサイズなので、セリカの様な特殊能力持ちでもない限り、端からヴィヴィオ女史の様な細腕の女性が一人でこの樽を運べるとは思ってなどいない。
正直、このサイズは大の男でもかなり辛いのではないだろうか?
俺なら亜空間倉庫で一発だが、腕力で運べと言われたら絶対に無理だ。
にしても、メイドさん達スゲーな。
いくら騎士としての訓練を受けているとはいえ、あの樽を人力で運ぶとは……
トラル女史の話しだと、三人で運んでいたらしいが、それでもだ。
もしかしたら、セリカみたいな身体強化能力とかあるのかもな。
なんてことはさておいて。
では、材料が揃ったということで、いざ調薬を開始することに。
今回は秘薬丸だけを作るわけではなく、秘薬丸に至るまでの全工程を実演するという話しになっていた。
正確には、【病気】レベル4を治療する秘薬丸を作るには、前工程で【病気】レベル2と3に対応した治療アイテムを作る必要があった。
『アンリミ』では特定のアイテムを単品でポンと作れるわけではなく、一つずつ上の段階へと変換していくステップアップ式になっているので、それらを一つずつ作っていくことになる。
つまり、上位アイテムになればなるほど、必要になる素材数が増加し、作るのが大変になるのだ。
まぁ、その分価値が付き、高額で販売が出来るというわけだ。
おかげで、色々と荒稼ぎさせてもらっていたのは昔の話し。
それでは、まず【病気】治療系のアイテムのスタート地点である【病気】レベル2の治療アイテム“養命水”から作っていくことにする。
ということで、テーブルの上には調合用の調薬セットと錬金窯(小)を並べ、必要になる素材も並べていく。
ちなみにだが、【病気】レベル1、というか状態異常のレベル1はすべて状態回復ポーションで回復出来るため、専用のアイテムは存在していない。
なので、状態異常専用の回復アイテムは、すべてレベル2からのスタートとなっている。
俺は使う素材や工程などを二人に説明しつつ、出来る限りゆっくり作業をしてアイテムを完成させる。
本来ならじっくり時間を掛けて説明したいところだが、作業時間には制限時間があり、それをオーバーすると品質が低下してしまうのだ。
なのであまりゆっくりもしていられない。
出来ることなら品質の高い完成品を見せたいし、なにより素材を無駄にしたくはない。
そんなこんなで完成したのが“養命水 品質レベル10”である。
まぁ、この辺りは工程も少なく作業も楽なので、10くらいは作れて当然といった感じだ。
むしろ、この程度で10が作れないならこの先のアイテムを高品質で作るのは無理だと断言してもいい。
ちなみに、養命水の素材は“清らかな水”と“幼樹木人の枝”の二つだけだ。
で、“幼樹木人の枝”を粉砕、乾燥後、この二つを適量、適温、適時間で煮だしたのが養命水である。
いってしまえば、木の枝を煮出したお茶だな。
ただし、色が長時間煮詰めた麦茶のような、とんでもなく濃い茶色をしているので、飲むには若干の忌避感があるが、味はそれほど悪くはない。
で、今度はこの養命水を材料に、【病気】レベル3を治療する漢方ドリンクを作っていく……ことになるのだが……
ここでヴィヴィオ女史に、養命水もサンプルとして欲しいと言われたので、今しがた作った物をサンプルとして提出し、新たにもう一つ……作ろうかと思ったが、この先同じことを言われるだろうと確信し、少し多めに作っておくことにした。
そしてようやく次の工程へ。
次は漢方ドリンクだ。
今回は単なる素材なので、飲みやすくした漢方ドリンク(ハチミツ味)にする必要はない。
なので材料は次の通りとなる。
“養命水”“古茸人の傘”“古樹木人の苔むした皮”“アルラウネの蜜”の、四点だ。
んで、これらを手順に則り正確に調合していく。
どうせ、サンプルに一つ欲しい、とか言われるだろうから予め少し多めに作っておく。
デキる男は違うのだ。
ちなみに、漢方ドリンク(ハチミツ味)にするには、完成した漢方ドリンクにハチミツを加えるだけでいい。
ただし、適正分量というのがあるので適当に混ぜると品質低下の原因になるので要注意となる。
そして次がいよいよ秘薬丸の調薬となる。
材料は、“漢方ドリンク”“竜血晶”“最古樹木人の根”“千年人参”“麒麟の角”だ。
しかし、その前に竜血晶がないのでまずは竜血晶の精製からとなる。
以前、エルフの村で秘薬丸を作った時は、既に結晶化していたのでそのまま使うことが出来たが、今回はまだ血の状態だからな。
実をいうと、竜の血から竜血晶を作るのは意外と手間なのだ。というか、一番面倒だといってもいい。
なにせ、この一つのアイテムを作るためだけに、複数の素材と、専用の機材が必要となるうえ、細かい作業が続くので神経も使うからだ。
で、まず、その竜血晶を作るのに必要な素材というのが“超純水”“世界樹の種”“不死鳥の骨”の三つ。
そして機材というのが、純度100パーセントのミスリルで作った鍋となる。
勿論、鍋の品質が完成品の品質にダイレクトに影響するので、使うミスリル鍋の品質は10の物を使う。
手順は、世界樹の種、不死鳥の骨を砕いて超純水で煮出して特殊な溶液を作る。
次いで、ミスリル鍋に竜の血を注ぎ、適温で煮ながら作った溶液を加え、混ぜる。
この時、溶液を一度に多くを入れてしまうと品質が低下してしまうので、ゆっくりと少量ずつ加えていくのが鉄則だ。
すると、竜の血と溶液の混合液、そしてミスリルが反応し、鍋の表面に小さな結晶が無数に生成される。これが竜血晶である。
正確には竜血晶の元となるミニ竜血晶、といった感じだ。
反応は、混合液とミスリルが触れている部分でどんどん起きるため、鍋に付着した結晶を丁寧に掃ぎ落していく。
放っておくと反応自体が鈍化し、品質の低い結晶が生まれてしまうので、この作業は手早くかつ丁寧に行わなければならない。
混合液が無色透明になったら反応は終了。
反応が終わった混合液はお役目終了なので破棄……しようとしたら、例によりヴィヴィオ女史からサンプルに欲しい、と言われたので適当なビンに詰めて譲渡した。
残ったミニ竜血晶を回収し、錬金窯(小)に放り込み、MPを加えて錬金窯でチン……通称・錬チンすれば、完成品の竜血晶の出来上がりとなる。
ここから先はエルフの村で行った調薬の再現となり、こうしてようやっと秘薬丸の完成となったのだった。
久しぶりに一からの制作となったが、やっぱめんどくせーなこれ……
「実に面白い講習だったよ。これは研究が楽しみだね」
こうして、出来上がったアイテム、また使った調合素材を少量、ヴィヴィオ女史に渡し、今日の調薬実演はようやく終了を迎えることになった。
まぁ、ヴィヴィオ女史がご満悦そうなので、まぁ、ヨシとしようじゃないか……
俺はめっさ疲れたけど……
そんなわけで、秘薬丸の上に更に二つの上位アイテム、【病気】レベル5の治療薬である“神命酒”と、完全回復薬である“エクストラ・エリクシル”があることは黙っておくことにした。
下手に話して、作れ、って言われたら面倒だからな。
言わぬが華、というヤツである。……違うか?
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