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三二九話

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 三人でかたまっていても仕方がないと、それぞれが手分けして周囲を調べることにしたのだが、調べる、といっても、そもそもが何か手掛かりや目星があるわけでもない草の根調査だ。
 怪しいと感じた場所を、ただただ手当たり次第に調べていく。

 が、まぁ、そんな地味な調査方法なので、案の定、そうそう簡単に芳しい成果を得るわけではなかった。
 業を煮やしたマレアが、適当な場所に穴を掘ってみよう、みたいな提案をしていたが、これをセレスが全力で拒否。

 まぁ、だろうな。今までもそうだったわけだし……

 そんなこんなで、何も進展しないまま、地道な調査が延々と続いた。

 結局、午前の調査では碌な成果は上がないまま、一旦昼食を挟むことに。

「ねぇ? もし地下に続く場所があるとしたら、それはどんな場所、形状をしているとスグミは考えているのかしら?」

 で、食事中、ちょっとした各員の報告も兼ねて雑談をしている時に、セレスがそんなことを聞いてきた。
 ちなみに、場所はいつもの百貫百足のリビングエリアである。 

「ん~、そうだな……俺としては巨大なエレベーターみたいなものがあるんじゃないか、とかそう思っているんだが……」

 大規模な人数を移動させることを前提として考えているとするなら、小人数しか利用出来ないような施設を設置しているとは考え難い。
 で、縦の移動となると、真っ先に思い浮かぶのがエレベーターというわけだ。
 だだ……

「えべれーたー?」
「エレベーターな」

 微妙な言い間違い方をするマレアに訂正を入れつつ、思った通りエレベーターについて知らないようなので簡単に説明する。
 
「昇降用の大型魔道具ねぇ……普通ならありえないって鼻で笑うところだけど……」
「はい。古代遺跡ここなら確かに、何があってもおかしくなさそうですね……でも……」

 と、マレアの言葉の後にセレスが同意するが、何かを言いたそうに言い淀む。

「どしたよ?」
「いえ、もしスグミの想定している様な大型魔道具があったとして、今のこの状況で動かせるものなのかなって、そう思ったのよ」

 もの言いたげなセレスに水を向けると、セレスが自身が感じた懸念点を口にした。
 確かに。その可能性は十分にあると俺も思っている。
 というか、現状、ほぼすべての施設が停止していることを考えると、むしろ動かな方が自然だ。
 しかし……

「これは俺の経験則なんだが、大規模施設には大体、少人数が利用するメンテナンス用の出入り口っていうのが別にあるものなんだ。
 それを見つけることが出来れば……」
「大型魔道具を動かさなくても、下に行ける、と?」

 俺の言葉を引き継ぐように、マレアがそう言った。

「まぁ、かもなって話しだ」

 巨大エレベーターもメンテナンス用の進入口も、結局はあくまで俺の予想に過ぎない。それが真実である保証などどこにもないのだ。

「それじゃ、午後はスグミのその路線で調べることにしましょう」

 が、何を思ったのか、セレスが突然そんなことを言い出したのだった。

「おいおい、今のはただの勘だぞ?」
「それを言ったら、地下施設説もマレア様の勘じゃない。 
 とにかく今は、何の手がかりもない状態だから、何かアタリを付けて調べた方がいいと思うのよ」

 まぁ、セレスの言い分も分からなくはない。
 実際、手当たり次第の探索をしたところで、何かいい結果を得ているわけでもないしな。
 
「それで、その整備用の出入り口ってスグミが知っている物だと、どんな形状をしているのかしら?」

 とは、マレアからの質問だ。

「そう言われても色々だな。建物の中から繋がっている場合もあるし、マンホールみたいに野外から直接繋がっている場合もある」

 そう軽く説明するが、セレスもマレアもマンホールというものを知らなかったので、それについても説明する。
 結果、午後は建物内部を捜索する班と、マンホールを探す班に分かれて調べることに決まった。

 セレスとマレアが建物班で、主に目立つ大きな建物を中心に内部を捜索することに。
 これは、要は“大きな建物ほど、政治に関わっていた重要な建物なのではないか?”という安直な理由からである。

 市庁舎とか、なんか無駄にデカいイメージがあるからなぁ……

 で、俺はというと、道路にマンホールがないか調べるという地味なものだ。
 
 そうした役割が決まったところで、いい時間だと午後の捜査を開始することにした。
 で、セレス達と別れて少し。

 しかし、こうして歩いていると、不思議な気分になる……

 俺は一人、無人の街中の地面を注視していた視線を上げ、周囲を見渡しながらそう心の中で独り言ちる。
 というのも、この街には今まで見て来たような異世界感がまるで感じられなかったからだ。
 箱型の背の高いビルがニョキニョキと連なり、大通りに面した場所にはガラス張りのショーケースや、飲食店らしき看板などが立ち並んでいた。
 少し奥まったところに行けば、アパートの様な集合住宅もあったしな。

 その風景は異世界というより、現代の方がずっと近い。むしろ、ちょっとしたSF感覚だ。

 セレスやマレアはこの光景をかなり不思議がっていたが、俺としては逆に馴染の光景とさえいえた。

 ホント、遥か昔にここに住んでいたのは、一体どんな人達だったのだろうか……と、古代の人達にロマンを馳せる。

 なんて、気取っていても仕方ないので捜査を再開。
 またぞろ小銭漁りよろしく地面を注視しながら、街中をウロウロウロ。

 にしても、この街ゴミがまったく落ちいてないなぁ……

 と、ふとそんなことを考える。
 昨日、この街に着いてから現在に至るまで、俺は街中でゴミが落ちているのを一度も見ていなかった。
 それこそ、道路だけでなく建物の中に至るまで、だ。まるで、誰かが掃除でもしたように奇麗なのだ。

 流石にすべての建物を調べたわけではないので、あくので目に付く限りの話しだがな。

 もし、この街の住人が何かの非常事態によってこの街を去ったとするなら、バタバタと慌ただしい中、ゴミを一つも残さずに避難なんてすることが出来るのだろうか?

 ……もしくは、本当に誰かが掃除をしていた、とか?
 例えば、あの大広間を守っていた巨大ゴーレムの様に、街中を綺麗にするお掃除用のゴーレムが居たと考えればどうだ?
  
 住民とて、街のすべての機能が停止してから避難したとは思えないので、避難する直前までは街は機能していて、放棄後停止した、と考える方が自然だろう。
 
 となれば、人が去っても機能が生きている間にお掃除ゴーレム達が街を綺麗にした……

 と、そう考えた方が、住人全員が品行方正に避難したと考えるより余程現実的な気がする。
 お掃除ゴーレムというとなんだかファンタジー色が強いが、高性能なお掃除ロボだと思えばそこまで不思議な話しでもない。
 実際、巨大ゴーレムの様な実例もある。

 なんてことを考えていると……

「スグミく~ん! どこ~っ! いたら返事してぇ~! スグミく~ん!」
 
 と、何処からか俺を呼ぶマレアの声が聞こえて来た。
 声の感じからすると、少し離れた所にいるようだ。

 てか、普通に街中でこれをやられたら、恥ずかしくて絶対に反応したくないのだが、今はこの街には俺達三人しかいないからな。
 特に気にすることもなし。

「お~いっ! スグミくんや~いっ!」

 なんて考えていると、またしても俺を呼ぶ声が。
 にしても、どうしたのだろうか?

「こっちだっ! こっちにいるぞっ!」

 と、声のした方に向かって俺からも声を張り上げつつ、こちらからもマレアの方へと近づいていく。
 で、ビルの曲がり角からひょっこっと姿を現したマレアと出くわした。

「あっ! スグミくんいたっ! こっち来て! こっちっ! こっちっ!」

 そして、慌てた様子で俺の手を取ると、有無を言わさず引っ張り出した。

「おいっ! ちょっと! どした急に?」
「なんか鍵が掛かった扉を見つけたんだど、これがちょっと変わっててさ……
 スグミくんなら開け方を知ってるんじゃないかって、探してたんだよ。
 ほら? 壊したりするとセレっちが怖いじゃん?」

 ……分かる。

 にしても、変わった鍵とはどういうことだろうか?

 実は、街を探索していて鍵が掛かった建物、場所というのは結構あったりした。
 が、使っている鍵が所謂シリンダー錠の系統だったため、マレアがピッキングですべて開錠していたのだ。

 ちなみにだが、この街も例に漏れず、構造物がすべて抗魔鉱製なので、俺の【形状変化シャープ・チェンジ】は完全に無効化されております。
 ガラスっぽく見える物にまで抗魔鉱が使われているという徹底ぶりだ。
 なので、鍵開けはすべてマレア頼みとなっていた。
 
 そのマレアが開けられないと言うのだ。
 俺に何が出来るか分からないが、取り敢えずはその発見した扉にまで行ってみることにした。

 で、事前情報として、移動の間にマレアから詳しい話しを聞くことに。

 曰く。
 確実に鍵は掛かってるのに鍵穴がないらしい。
 となると、内側からだけ鍵を掛けられるタイプの扉、ということになるのだが……

「それじゃ中の人はどうやって外に出るっていうのさ? まさか中で死んでるとか?」
 
 内側からしか鍵が出来ないとなけば、そういうことになる。
 もしくは、中が別の所に繋がっていて、そちらから出たか……だな。
 まぁ、その別の何処かが分からないわけだが。
 
 で、マレアに手を引かれ連れて来られたのは大きなビルだった。
 外観は他と同じような箱型のビルだが、入り口に“総合管理棟”と書かれていた。
 市役所的な場所だったのだろうか?
 
「この中だよ」

 と、総合管理棟の大きな押し開きの扉を潜り中へ。
 ちなみに、この扉も元々は鍵が掛かっていたらしいのだが、マレアが開けたのだとか。

 で、中に入って驚いた。
 なんというか、内部が完全にオフィスビルのそれであったからだ。
 こんな近代風建築を異世界で見ることになるとは……
 そんな驚く俺などお構いなしに、マレアは迷うことなく中を進み、通路を曲がり、階段をどんどん下りて行く。その一番下。

「あっ、スグミ来たのね」

 そこにはセレスの姿があった。
 で、そのセレスの前に、何の飾り気もない真っ白な扉が一つ。ドアノブが付いている以外、本当に何もない扉だった。
 
 一応確認の為にドアノブを回してみるが、確かにガチャガチャと音を立てるだけで回らない。そして、鍵穴らしきものもない。

「確かに、鍵が掛かっているのに鍵穴がないな……」
「そうなのよ。で、スグミ。これの開け方って分かったりしないかしら?」

 と、隣でセレスがそんなことを言って来る。

 いやいや、そんな“知ってるよね?”みたいな軽い感じで無茶を言われてもな……
 まぁ、一応は見てみるけどさ……

 セレスに無茶振りされつつも、呼ばれ以上は一応の確認をすることに。
 ということで、改めて扉をまじまじと観察することにしたのだが……
 ん? なんだこれ?

 
 
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