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二七九話

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 その日の夕食時。
 侍女隊含めて、みんなで食卓を囲んでいると、俺の正面でメシを貪り食っていたマレアから、ラルグスさんから連絡があったと報告を受けた。
 それによると、研究員の視察は二日後になったらしい。

「ああ、あとあと、フューズ様から伝言ね。「此度の配慮に大いに感謝する」だって」

  ラルグスさんからの伝言は非常に短いものではあったが、そこになにか多大な苦労が見え隠れしているような気がするのは果たして気のせいだろうか?

 まぁ、なんにしろだ。今日で大まかな作業はほぼ終わっているので、こちらの準備は既に完了。なので、何時でも受け入れられる状態なので、問題なし。

 というわけで、了承した旨をマレアからラルグスさんに伝えてもらうように頼んでおく。
 ついでに、ご苦労様です、と労いの伝言も頼んでおくことにした。

 ちなみに、我が家? といっていいのか、ウチでの食事スタイルはミラちゃんイースさん含めた侍女隊が当番制で食事作りと給仕を担当し、それ以外の子達は俺と一緒に食卓を囲うということにしていた。
 今日はミラちゃん達が当番なので、今頃は厨房だろう。
 
 初めは、俺が一人で食べて、俺が終わってから他が……なんて、あまりに非効率的なことをしようとしていたので、俺が家主権限でこのスタイルに変更させたのだ。
 普通はこんなことしないと、マレアやセレスから指摘をされたが、他は他、ウチはウチ、である。

「となると、明日は丸々空だな……」

 ここ数日で、大概のことは終わってしまったからな。
 とはいえ、マキナバハムートの修理も出来ない、正式な許可が出てないからダンジョンの調査にも行けない、と本来やりたい事は先送り状態となっていた。
 ん~、やることといえば、まだ手付かずになっているダンジョン探索用の人形を作ることくらいだが……

 あれは既存の人形を改造するだけなので、そう時間が掛かるものでもなし。
 なんて明日の予定を考えていたら……

「あれ? 中央棟の二階とかは? あの辺は掃除しただけでまだ何もしてないけどいいの?」

 なんて、忙しなく口に料理を運ぶ手を止めて、マレアがそんなことを聞いて来た。

「二階以降は必要になったら手を入れようかと思ってな。
 特に目的もなく適当にレイアウト決めて、後でやっぱ変更、とかになったら面倒だし……」

 大々的な改修はせずとも、一通りの整備はするつもりだが、それは今でなくてもいいしな……

「なる……」

 俺の言葉に納得したのか、マレアはそれ以上は何も聞いて来ず、止まっていた手が再び動き出した。

 しかし、急に降って湧いた空き時間。どうしたものかな……
 街の方に遊びに行ってもいいし、屋敷でのんびりしても居てもいい。

 そういえば、なんだかんだでぬるっと作業が終わってしまったが、お屋敷完成パーティーというか、ご苦労様会、みたいなことをしてもいいかな? と、ふと思った。
 前半はともかく、後半は侍女隊の協力がなければ、これだけ早く完成することはなかっただろうからな。
 彼女達とて仕事ではあるのだろうが、そこはやはり感謝の一つでも形にするのが礼儀というものではないだろうか?

 二日後。明後日からは研究員達も来るため、侍女達は本格的に忙しくなるだろうし、そう考えると自由に使える時間は明日だけ、ということになる。
 
「なぁ? 明日ってマレア達の方では何かすることが決まっていたりするのか?」
「ん? むぐむぐ、っん……別に、これをしなきゃいけない、ってのはないけど?
 強いていうなら、細々とした備品の配置だとか、自分の部屋の整理とか? あとは、警備に備えて周囲の地形の確認とか? かな?」

 と、俺が急に声を掛けたこともあり、マレアは口の中に詰め込んでいた物を嚥下してからそう話した。

「そっか。なら明日は全員休みってことにして、ちょっとしたパーティーでも開こうか?」
「ちょっ……スグミくん、それ、マジで言ってんの?」

 と、マレアに提案したところ、目をまん丸にして驚かれてしまった。

「マジだな。侍女のみんなには、屋敷の掃除で随分と世話になったし、明後日からは忙しくもなる。
 そうなると、全員でまとまって何か出来る機会もそうそうなくなるだろ?
 そこで、慰労会……ってほどでもないが、まぁ、お掃除お疲れ様兼これから頑張りましょう、それとまぁ、親睦的な意味も込めて、軽くパーティーでもやろうかと思ったんだが……勿論、費用は全額俺持ちで、な」
「ちょっとちょっと!? えっ? それってもしかしてあたし達の為にパーティーを開いてくれるってことっ!?」

 と、俺がそう話すと、マレアが再び目をひん剥いて、テーブル越しにそう詰め寄って来た。
 てか、マレアの身長的にテーブルに体を乗り出すのは不可能だから、これ椅子の上にでも乗ってるな?
 危ないから降りろと、一応指摘だけはしておく。

「ああ、そうだけど? なんだと思ったんだ?」
「いや……普通、パーティーっていったらお貴族様とか招いてするものでしょ? 
 だから、あたし達に休みを出す、っていうのが理解出来なかったけど、今の話しで納得したわ……」

 俺がそんな疑問を口にすると、マレアはそう言って力なく自分の椅子へと戻って行った。
 少し詳しく聞くと、どうやら俺が屋敷の完成を披露する為、貴賓を招いてパーティーをすると思った、らしい。
 それで、明日、とんでもなく忙しくなるんじゃないかと、マレアはそんな心配をしていたそうだ。

「スグミも酔狂なことをするわね。普通、侍女の為に、しかも自費でパーティーなんて開かいわよ?」

 とは、今まで隣で静かに食事をしていたセレスからだ。

「そうなのか? 他のところは知らんが、まぁ、いいんじゃないか? これから仲良くしていきましょう、ってことで」
「あ~、それじゃ一つ確認したいんだけど……は?」

 で、椅子に戻ったマレアが急に神妙な顔になり、何かをもごもごと聞いて来た。
 だが、声が小さくて何て言ったか全然聞こえなかったな。なので、もう一度聞き返すことに。

「ん? なんだって?」
「……は?」
「は?」
「……お酒は?」

 何度かぼそぼそと呟いて、そうやっと拾った言葉がそれだった……こいつは……

「はぁ……まぁ、羽目を外し過ぎない程度にはよしとしよう」
「おひょー! やったぁー!!
 みんなっ! 明日全員休みだって! で、スグミくんの好意であたし達の為にパーティー開いてくれるってさ! しかもお酒も出るってっ!」

 そして、俺がそう答えるや否や、唐突にマレアは座ってい椅子の上に立ちあがり、周囲に向けて声高にそう告げたのだった。
 だから、椅子の上に立つな。危ないだろ。
 まぁ、背が小さいマレアでは、そうでもしないと人の注目を集められない、というのは分からんでもないが……
 そのうち、マレア用の踏み台でも用意しておくか?

 で、マレアがそう告げたことで、食堂が一気にザワつき出し、周囲から喜びや驚きの声が聞こえて来た。

 まぁ、俺達の近くに座っていた侍女達は期待の眼差しを込めて、堂々と盗み聞きしていたのだが……

 ということで、急遽、明日パーティーが催されれることが決定したのだった。

 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢

 翌日。
 今日は朝から街へと買い出しである。
 今日開くパーティーの目的は、主には侍女隊への感謝と親睦だ。
 なのに、その為の食事などを侍女隊に用意させる、ということでは意味がないので、こうして街に出来合いを買いに行くことにした、というわけだ。
 
 最初は侍女隊の誰かが行くつもりだったようだが、そこは俺が行くと押し切った。
 先も述べたが、これは彼女達への感謝を込めた催しであるため、彼女達を率先して働かせるつもりがない、というのが理由の一つ。
 そして、俺ならどれだけ買い込んでも亜空間倉庫やチェストボックスを使って一人で持ち帰って来れる、というのがもう一つの理由だ。
 しかも、亜空間倉庫やチェストボックスは、出来立てをそのままの状態で保管することも可能だ。

 ついでに、昨日改造した馬車のチェックも兼ねての移動である。
 ちなみに、買い出しの面子は、俺、マレア、ミラちゃん、そしてセレスの四人だ。
 しかし、これ……

 傍から見たら、いい歳した男が少女を三人も連れて歩いてるようにしか見えないんだよなぁ……というか、そのものだし。
 一名、見た目詐欺が居るが、そんなこと詳しく説明されないと分からんわな……

「いやぁ~、この馬車、見た目普通の馬車なのに、何でこんなに揺れないの? チョー快適なんですけどっ!! しかもこの椅子っ! なんかやたら柔らかいのなにっ!?」

 で、試験走行する改造馬車の御者台で、マレアが隣でムッションの感触を確かめるように、ポヨンポヨンと座ったまま飛び跳ねていた。

「あーっ! 邪魔だから暴れるんじゃないっ! ミラちゃんとセレスは大人しく座ってんだろうがっ! 年下を見習えっ!」

 ちなみに、この馬車には荷台部分に座席はないため、今は全員御者台に横並びで座っていた。
 並びは、右端からセレス、マレア、俺、ミラちゃんという順だ。
 四人全員が大人なら、流石に並んで座るのは難しいだろうが、うち三人は子どもサイズなので、まぁなんとか、といった感じだ。

 余談だが、侍女隊がこの馬車で屋敷に来た時は、自分用の荷物をまとめたケースを椅子代わりに下に敷いて座って来たらしい。
 整備されていない悪路、碌なサスペンションもない馬車、クッションどころかそれこそ椅子もなく、硬い箱に直座り……
 そう考えると、中々に過酷な移動だったことが窺い知れる。
 そりゃ、揃って馬車での移動を拒否るわけだ。

「そういえば、セレっちから聞いたけど、この馬車の作り方を教えてくれるんだって?」

 一通り遊んで満足したのか、はふぅ~、と気の抜ける溜息い一つ。マレアがそんなことを聞いて来た。

「ん~、馬車の作り方を教えるっていうか、正確にはこの馬車に使っている板バネとボールベアリングの作り方、だな。
 あと他にも色々。
 一応、今回の試乗で上手くいくようなら、作り方をまとめた図面を起こして、ラルグスさんに渡そうかと思ってる」

 というのも、この国には発案権という、まぁ、平たくいえば著作権に似た権利が存在しているのだと、セレスが教えてくれたのだ。
 要は、非常に有用と思えるアイデアに国が賞金を出すよ、という制度だ。
 で、集めたアイデアを国が他者に売ったり、また、そのアイデアを利用して別の商品を作って売ったりすることで、国が儲けを出すという図式のようだな。

 ただ、著作権のように権利を利用したら発案者に使用料が支払われる、という形式ではなく、一回ポンと賞金を渡されたらお終いらしい。
 その代わり、金額は固定ではなく内容によって大きく異なるため、それが良い物であるなら、かなりの金額が支払われるとのことだった。
 例えば、過去に凄い発明をした人がいるらしいのだが、その人は一回の発案権で一生暮らせるだけの賞金を手にしたこともあるとかなんとか。

 まぁ、長期的に見れば、発案者が自分でアイデアを売った方が儲かるかもだが、こうして一括でまとまった金額が貰えるというメリットもあり、なんだかんだで毎年結構な数の応募があるそうだ。
 とはいえ、その中で本当に使えるアイデアなんて、一握りもないみたいだが……

 ちなみに、国から買った知識をそれより安い金額で又売りする……所謂、転売は重罪らしく、一発で物理的に首が飛ぶとかなんとか。
 ただし、買った知識を無償で他人に指導したり、また、自分で研究して二次利用するのはお咎めなしなんだとか。

 そもそもこの発案権という制度自体、国のカネ儲けがメインではなく、国全体の技術力を高める為に、研究や発明を民間レベルで高揚させるのが目的なんだそうだ。
 なので、利益はそこまで大きいものではないのだという。
 だが、それを利用して悪事を犯す奴は絶対に許さないマン、ということで厳しく取り締まっているらしい。
 
 で、セレスが板バネとボールベアリングを見て、申請してみらた? と勧めて来たのでじゃあとお願いすることにしたのだ。
 こういってはなんだが、申請書類を書くのは結局セレスだからな。
 俺の手間など、作り方を説明した図面を起こすだけで、行政的な手続きはすべてセレス先生にお任せなのだ。
 セレスがそれでいいというのなら、好きにさせることにした。
 セレスの見立てでは、結構いい線行くのでは? とのことだった。
 
 別にお金に困っているわけではないが、まぁ、貰える物は貰っておくか、の精神である。
 それに、セレスとしてもこの国の法律に関してのアドバイザーとして雇用されているので、そういう意見を言うのも仕事の一つ、だと思っているのだろう。
 なら任せておくに限る、ということだ。

 ただ、マレアも大絶賛ていたムッションだが、セレスにあれも申請すればいいのでは? と進められたが、生憎とあれはプレーヤーが作ることが出来ないイベントアイテムなので、俺でも作り方は分からないんだよなぁ……

 セレスが昨日、現物を俺からむしり取って行って色々と調べているみたいだが……
 はてさて、再現出来るかどうかは彼女の頑張り次第である。
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