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二四六話
しおりを挟む翌日。
その日は朝から放置していたクラフトボックスにて制作していた絨毯を回収し、それを設置していく作業になった。
一先ず、ミラちゃんとセレスには手当たり次第に絨毯を床に置いて行ってもらい、俺が形状変化で細かい部分を調整しながら、最終的には結合で繋いで行く、という流れで作業を行っていった。
中央棟は四階建てなのだが、流石に全エリアに絨毯を敷くにはまだまだ数が足りていないうえ、作業量の問題もある。
この中央棟だけでも、部屋数が軽く三〇は超えているので、三人だけではそこまで手が回らないのだ。
しかも、その内の二人は子どもだしな。
というわけで、取り敢えず今回は一階部分の共用エリア、つまり玄関や廊下部分、そして玄関から二階に上がる階段周りを優先して絨毯を敷いて行くことにした。
玄関に入った時に一番に目に付く階段と、その二階部分が石畳み剥き出しでは、何だか歯抜けの様でみっともなかったので、多少手間ではあるがここは見栄えを優先して絨毯を引くことにした。
一応、個室の方は軽く掃除くらいはしてあるが、備品や環境整備に関しては、必要になった時に手を加えて行く、という方針でいいだろう。
下手に手を出したら、本当にいつ終わるか分からなくなるからな……
一階部分だけ、とはいえそれでもかなりの広さがあり、午前の作業はこれだけで終わってしまった。
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
「うまっ! 私、こんなお肉食べたことないよっ! うまっ! うまっ!!」
「……ホント、このお肉、美味しいわね。軽く歯を立てただけでお肉がホロホロと崩れるくらい柔らかくて、なのに確りと噛み応えはある。
そして何より、一噛みするごとに溢れて来る肉汁のスープ……
どんな高級店だって、こんなお肉は出て来ないんじゃないかしら?」
キャリッジホームで三人揃って昼を食べている時、ミラちゃんとセレスが今日の昼食に舌鼓を打っていた。
はい。セレスは食レポご苦労様でした。てか、ミラちゃんに至っては語彙が死んでいて「うまっ」しか言ってないしな……
今日のお昼は、赤鎧ことアーマジロの厚切りステーキである。
昨日、作業の合間にミラちゃんにエルフの村での出来事を話していた時、流れで討伐したアーマジロの肉を食べたこと、それが実に美味しかったこと、んで、それを分けてもらった物を持っていること、などなど、そんなことを話したら凄い勢いで食べたいとせがまれたので、今日の昼に出すことにしたのだ。
更に加えれば、調理したのは俺ではなくイースさんである。
昨日の夜に調理してもらい、インベントリ内に収納しておいたのだ。料理下手な俺が変に手を出して、無駄にするのも勿体ないからな。
愛のエプロンのようなことにはしたくない。
で、イースさんだけ仲間外れにするわけにも行かないので、昨日の時点で「明日の昼にでもどうぞ」と生の肉を渡しておいてある。
なので、きっと今頃は宿で食べていることだろう。
「あっ、そういえば、あのカメのバケモノ……ベルへモスだっけ?
あれをどうするかって、話は進んだのか?」
ふと、そんなことを思い出したのでセレスへと尋ねてみた。
「部署が違うから私も詳しくは聞かされていないけれど、かなり難航しているみたいよ?
やっぱり大きすぎるのが問題みたいね……」
で、セレスはそう答えると、ナイフとフォークを巧みに使い、肉を綺麗に切り分けては上品に口に運ぶ。
対して、隣に座ったミラちゃんはというと……
「はぐはぐはぐはぐっ!」
一枚肉にフォークを突き刺し、一心不乱にそのまま齧っていた……
うん。わんぱくでもいい、逞しく育って欲しいものである。
てか、この光景……何処かで見たような? デジャブか?
にしても、セレスの話しからすると場所の選定すらまだ決まっていないみたいだな。
まぁ、全長で60メートル近く(尻尾長込み)、全高で30メートル近くあるようなデカブツだからな……
それに、それを解体するための施設がいるとなれば、街中に気軽に建てる、なんて出来そうにないことくらいは容易に想像が出来る。
「なんなら、ここに一緒に作っちまうか? ベルへモスの解体場」
「……出来るの?」
事も無げにそう言う俺に、セレスが「本気か?」みたいな顔でそう聞き返して来た。
元々、マキナバハムートの修理用に工房を設置する予定なのだから、そのついでに建てることも難しい話しではない。
「飾り気も無ければ、雨風を凌ぐ程度のことしか出来ないような質素な建物でいいなら、簡単に建てられるぞ。
多分…一日もあれば十分だろうな」
壁も屋根も全部まっ平な直方体の建物……所謂、トウフハウスなら強化合板のみで建築可能だからな。
まぁ、『アンリミ』で実際にトウフハウスを作ろうとすると、諸々の物理学によって上手く建設することが出来ないので、若干形は異なるのだが、似た様な物は存在していた。
「……分かった。フューズ閣下に伝えておくわ」
そんなこんなで、昼食も終わり、俺達は午後の作業に取り掛かることにした。
♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢
「おおぉぉー! ふわふわだぁー!」
午後の作業の為に屋敷へと入るや否や、そう言って、ミラちゃんが玄関に敷かれたばかりの絨毯の上に倒れるように寝転がると、その場でゴロゴロと転がり始めたのだった。
確かに、こうして絨毯が敷き詰められた玄関を見ると、ミラちゃんの様に転がりたい気持ちも分からなくはない。
新品の絨毯って、毛も立っていて肌触りがいいからな……にしても、だ。
スカートなんて穿いている状態でゴロゴロと転がるものだから、ミラちゃんのスカートがすっかりまくれ上がって、パンツが丸見えの状態になってしまっていた。
「ミラっ! 下着っ! 下着、見えてるっ!」
「おっと、いけねぇ……」
セレスの必死の忠告もあり、ミラちゃんはすくっと立ち上がると身嗜みを整える。
で、チラリとこちらに視線を送ると……
「見られてしまったからには、これはもうお兄さんに責任をとってもらわないと……」
なんて、体もモジモジとさせながら、そんなことを宣ったのだった。
「勝手に見せたんだろうが……
それに、そういう色仕掛けはイースさんくらい育ってからにしろ」
何が、とは言わないがな。
「ぐはっ! お兄さんの心無い一言に、私の乙女心が深く傷つけられたよっ! イシャリョーを請求しますっ!」
慰謝料とか、この子はそんな言葉何処で覚えて来たんだ?
「はいはい言ってなさい」
そんなミラちゃんを軽くあしらい、作業へと取り掛かることにする。
「ぶぅー! おにいさん冷たいっ!」
流石にミラちゃんの年齢では、俺のストライクゾーンにはまだ足りないからな。
もう一〇年……いや、五年くらいしたら再トライして頂きたいものである。
「で、次は何をするのかしら?」
と、ぶーぶー言うミラちゃんを他所に、そうセレスが聞いて来た。
「次は部屋を整えて行こうと思ってる」
いよいよ、自分達で使う部屋の環境整備に手を入れて行こくというわけだ。
とはいえ、今のところ必要なのは、俺と、イースさんとミラちゃんの二部屋だけだがな。
俺としては、部屋数も余っていることだし、イースさんとミラちゃんにそれぞれ一部屋ずつ当てても良かったのだが、昨日の夕食の時その話をしたら、イースさんがミラちゃんとの相部屋でいいと言ったので二人で一部屋、ということになった。
まぁ、ミラちゃんは自分用の個室を要求していたが、イースさんの拳によって説得されて、最終的には快く相部屋を了承していた。
俺もミラちゃんも、どの部屋を自室とするかは既に決めていたので、早速内装の整備に取り掛かることに。
まずは俺の部屋からだな。
「こういう場合、普通、家主は安全を考慮して上の階に自室を置くものなんだけど?」
屋敷の一階、中庭? に面した東側の中サイズの部屋で、今日からここを俺の部屋とするっ! と、宣言したところ、セレスにそんなことを言われた。
セレスは、もし賊に襲われでもしたら、一階に部屋があるのは危ない、ということを言っているのだろう。
確かに、王都から離れたこんな場所に住んでいれば、良からぬ考えの者が押しかけて来てもおかしくはない。
が、まぁ、大丈夫だろ。
一応、窓も扉も強化版にアップグレードしているうえ、エンチャントで防御力も底上げしていた。
コソ泥程度にどうこうされることはないだろう。
「いいんだよ、ここで。それに、上の階っていってもまだ整備が整ってないうえ、階段を登らいといけないだろ? 面倒じゃん」
「何をお年寄りみたいなことを……」
そんな俺の言い分に、セレスが情けないとばかりにため息を吐く。
ふっ、俺の身体能力を甘く見たもらっては困るなっ! こちとらモヤシ体質だぞっ!
何度か四階まで上がったが、そりゃもう息が上がってしんどいのなんの……
あんなん毎日上り下り出来るかっ!
とまぁ、そんなセレスを横目に、早速室内を整えていくことに。
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